ウイルス検査における観察者効果に基づく無制限の検査拡大のリスクとウイルスとの戦いにおける光と闇の本質的な認識

316WHOのテドロス事務局長新型コロナウイルス世界的な流行を抑え込むために、世界各国においてウイルス検査体制を強化していくことが必要という認識を示したうえで以下のような発言を行った。

目隠しをしながら火を消すことはできない。誰が感染しているのか分からずにパンデミックを止めることはできない。すべての国々にシンプルなメッセージを伝えたい検査に次ぐ検査を疑わしいケースのすべてを検査するのだ。」

You cannot fight a fire blindfolded. And we cannot stop this pandemic if we don’t know who is infected. We have a simple message for all countries: test, test, test. Test every suspected case.

(出典:WHO:WHO事務局長:スピーチ:詳細:2020年3月16日
https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19—16-march-2020
※ただし、日本語訳は筆者による。

この発言を文字通りに解釈すれば、

通常の風邪可能性も高いような軽症者を含むあらゆる疑い例に対して、無制限ウイルス検査の対象を拡大していくことを世界各国に強く勧めるという提言内容になっていると考えられるが、

今回の新型コロナウイルスのように、治療法が存在しないうえに感染力も強いウイルスと戦う時に、こうした軽症者を含むあらゆる疑い例に対する無制限の検査拡大を進めていくのはかなり危険な考え方であるように思う。

その理由については、いくつかの論点が挙げられるが、最も分かりやすい理由を一つ挙げるとすれば、ウイルス検査における観察者効果が生じるという問題がある。

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ウイルス検査における観察者効果に基づく無制限の検査拡大のリスク

自然科学における観察者効果代表的な例としては、

電子を観察する時に必然的に生じることになる光子との相互作用により電子の軌道が変化してしまうことによって、観察対象となっている電子の本来の状態正確には測定できなくなるという現象が挙げられる。

そして、より一般的な意味においては、

こうした観察者効果あるいは観測者効果と呼ばれる現象は、観察や計測といった行為によって、そうした観測や計測の対象者に何らかの影響を与えてしまう現象一般のことを意味することになる。

そして、

新型コロナウイルスのように、感染力が十分に強いウイルスによって引き起こされる感染症を対象とするウイルス検査においては、

ウイルス検査を行う際に、検査所の待合室検査官自身に付着したウイルスによって、検査の対象者への新たな感染が広がってしまう危険性が想定されることになる。

つまり、

ウイルスに感染していないことを確認するために行う軽症者へのウイルス検査において、かえって新たなウイルス感染が引き起こされてしまうという意味でのウイルス検査における観察者効果が生じてしまう危険性があるということである。

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ウイルスとの戦いの本質は目隠しをしたまま見えない敵に勝利することにある

また、そもそも、冒頭に挙げたWHO事務局長発言内容にある

「目隠しをしながら火を消すことはできない」
You cannot fight a fire blindfolded.

という表現そのものが、筆者の印象ではウイルスとの戦いのあり方を描写する比喩表現としては少し違和感がある

それは、

そもそもウイルスは目に見えないものなのだから、いかにウイルス検査数多く行ったとしても最後まで目隠しをしたままで戦わなければならない脅威であり続けることには変わりがないのではないか?

という違和感である。

流行が拡大している時には、どこまでウイルス検査を拡大して行っていったとしても、その検査で陽性と分かった感染者数倍から十倍以上もの潜伏感染者無症状感染者が感染地域には存在していると考えられる。

ウイルス検査は、確かに、検査を行ったその瞬間だけは、対象者の感染の有無を判定することができる一つの光ではあるが、それは、目隠しを取り払ってすべてを白日の下にさらすことができるような強い光明ではあり得ない

(しかも、検査の精度における偽陰性偽陽性の問題もあるので、厳密な意味においては、検査の瞬間においてすら、あまり確かな光であるとは言えない)

検査を行った後次の瞬間から、一度は陰性の判定を受けた対象者も再び感染の有無が不確かな状態へと引き戻されることになるし、検査の光がその瞬間に届いていない世界中の99.999%の領域はウイルスが存在しているか否かが分からない漆黒の闇のうちに閉ざされ続けることになる。

したがって、真実の認識というものは、

ウイルス検査無制限に拡大していくことによって、世界中のウイルスの感染状況完全に把握することができるかのように装うことではなく、

むしろ、目に見えない敵であるウイルスとの戦いにおいては、どこまで行っても自分の周りの誰が感染しているのかが分からない目隠しをされた状態で戦い続けなければならないという事実を正しく認識することが必要であると考えられる。

そして、そのうえで、

ウイルスの感染の連鎖を断ち切って、感染拡大を抑え込んでいくためには、誰が感染しているのか分からないまま誰が感染しているか分からないがゆえに

いったんセーフティーゾーンである自分の家から一歩外に出たら、周りの道をゆくすべての人々の誰もが感染者であり得ると想定したうえで、

世界中のすべての人々が、それぞれの立場で、手指衛生マスクの着用イベントや集会の自粛不要不急の外出の自粛といった自分たちでできる限りの感染症予防対策全力で行っていくことが必要であると考えられるのである。

・・・

次回記事:過度なウイルス検査によって感染者が増加していく仕組みの図解:ウイルス検査を受けに行く患者の側の危機感の意識の必要性

前回記事:アウトブレイクとパンデミックの違いとは?英語とギリシア語の語源に基づく具体的な意味の違いと感染症の流行の展開の流れ

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