ウロボロスの蛇と竜は一匹と二匹のどちらが正しいのか?ツタンカーメン王の墓に描かれている世界最古のウロボロスの刻印

前回書いたように、ウロボロスとは、自らの尾を自分自身で飲み込む蛇や竜の姿が円環を成す姿として描かれる象徴図のことを意味する言葉であり、

それは一言でいうと、

生と死破壊と再生が一体となった宇宙の無限のサイクルのことを示す象徴図であると考えられることになります。

そして、

こうしたウロボロスの象徴は、実際には、一匹の蛇または竜の円環として描かれるケースのほかに、対となる二匹の竜や蛇互いの尾を噛みあうことによって円環を結ぶという形で描かれるケースもあるのですが、

それでは、

こうしたウロボロスと呼ばれる象徴図が、一匹の蛇や竜のみによって構成されている場合と、二匹の蛇や竜が対となる形で描かれている場合とでは、

象徴図が示している具体的な意味内容のあり方にどのような違いが生じてくることになると考えられ、

こうしたウロボロスの蛇と竜は、一匹と二匹のどちらで描かれている場合の方が、歴史的あるいは文献学的により正しい正統な表記のあり方であると考えられることになるのでしょうか?

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一匹の蛇と二匹の蛇におけるウロボロスの象徴が示す意味合いの違い

まず、冒頭で述べたように、

ウロボロスの象徴においては、宇宙全体を取り巻く巨大な蛇が自らの尾を飲み込んで破壊していきながら、それを糧として自らの体を再生し続けていくことが示されることによって、

生と死破壊と再生が一体となった宇宙における自己充足的で永続的無限のサイクルが示されていると考えられると考えられることになるのですが、

こうしたウロボロスの象徴が、通常の場合のように、一匹の蛇または竜自分自身の尾を噛んでいる姿として描かれている場合は、

そこには、宇宙のすべてがそうした一つの生命体の内に完結しているという意味において、宇宙の全一性完全性が示されていると同時に、

すべてが自らの内で完結していて、何者もその外へと逃れ出て行くことができないという意味においては、世界の有限性閉鎖性についても示されていると考えられることになります。

それに対して、

ウロボロスの象徴が、二匹の竜や蛇互いの尾を噛みあう形で円環を成しているケースでは、

宇宙を司る二つの力としての陰と陽光と影天と地物質と精神といった二元論的世界観がより強く前面に押し出されていると考えられ、

こうした二匹の竜や蛇によって描かれるウロボロスにおいては、

片方の存在は、常にもう一方の存在を前提とすることによって成り立っていて、一方の勢力が強くなれば、それに呼応して他方の勢力も強くなっていくという

相反する二つの力の表裏一体となった依存関係と均衡関係がより強調される形で示されていると考えられることになるのです。

ツタンカーメン王の墓に描かれている世界最古のウロボロスの刻印

それでは、

こうした一匹の蛇や竜によって示されるウロボロスと、二匹の蛇や竜によって示されるウロボロスとでは、どちらの方が、歴史的あるいは文献学的に正しいウロボロスの象徴の姿であると考えられるのか?ということについてですが、

それについては、例えば、

古代エジプトツタンカーメン王の墓に刻まれている二つの刻印のうちに、その手がかりを見いだすことができると考えられることになります。

紀元前14世紀古代エジプトの王であったツタンカーメン王の墓の内部には、王のミイラが納められた石棺の周りに、長方形の箱型の形をした大きな四つの聖廟が安置されていて、

そのうちの二つ目の聖廟の壁面には、現在まで伝わるウロボロスの象徴と非常によく似通った形状をした円環を成す蛇の姿が描かれた刻印が刻まれています。

こうした古代エジプトの王墓に描かれた刻印においては、

エジプト神話の主神である太陽神ラー頭の部分足の部分の合わせて二箇所に、それぞれの部位を取り囲む形で、自らの尾を噛む蛇の円環が一つずつ描かれていて、

こうした古代エジプトの王墓に刻まれている円環を成す蛇の姿が描かれた二つの刻印が、現存するなかでは世界最古のものであると考えられるウロボロスの原型となる象徴図であると考えられることになります。

そして、

こうした古代エジプトの王墓に刻まれた円環を成す蛇の刻印においては、円環を成している蛇が、どちらも自らの尾を自分自身で噛んでいるという点では、

それは、一匹の蛇が自分自身の尾を噛んでいる姿が描かれている一匹の蛇のウロボロスと同様の形態をしていると考えられることになるのですが、

それに対して、

古代エジプトの王墓においては、そうしたウロボロスの原型となる象徴が、太陽神ラーの頭の部分足の部分、すなわち、天と地の両方に描かれていて、そうした二つの蛇の円環一つのセットとなる形で描かれているという点では、

それは、二匹の蛇が対となる形で描かれている二匹の蛇のウロボロスと同様の形態をしていると考えられることになります。

つまり、

こうしたツタンカーメン王の墓において見られる古代エジプトにおけるウロボロスの原型となる象徴は、一言でいうと、

一匹の蛇のウロボロス匹の蛇のウロボロスの両者の中間に位置するような形態をしていると考えられることになるのです。

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以上のように、

ウロボロスとは、生と死破壊と再生が一体となった宇宙における自己充足的で永続的無限のサイクルのことを示す象徴図であると考えられることになるのですが、

こうしたウロボロスと呼ばれる円環を成す蛇または竜の象徴図が、自分自身の尾を噛む一匹の蛇や竜の姿として描かれている場合は、

すべてが一つの生命体の内に完結しているという宇宙の全一性完全性、さらには、そうした一つの存在の内に閉じられた宇宙の有限性閉鎖性が強調されることになるのに対して、

同じウロボロスの象徴が、二匹の蛇や竜の姿として描かれている場合は、

宇宙を司る陰と陽光と影天と地物質と精神といった相反する二つの力の表裏一体となった均衡関係と依存関係が強調されていくことになると考えられることになります。

そして、

古代エジプトの王墓に刻まれている世界最古のウロボロスの原型となる刻印が、こうした一匹の蛇のウロボロス匹の蛇のウロボロスの両者の中間に位置するような姿として描かれていることからも分かる通り、

歴史的あるいは文献学的な意味合いにおいては、一匹の蛇のウロボロス二匹の蛇のウロボロスも互いに同等に古い歴史を持った正当な表記のあり方であると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:『蒼天航路』の犭貪(とん)の怪物と孔子の『春秋』の注釈書における饕餮の記述との関連性

前回記事:ウロボロスのギリシア語の語源に基づく意味とプラトンの『ティマイオス』における宇宙観との関連性

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