ウロボロスの古代ギリシア語における意味とプラトンの『ティマイオス』における宇宙観との関連性

前回書いたように、古代エジプトの壁画や、初期キリスト教や中期プラトニズムの影響を受けて成立したグノーシス主義などの古代思想などの内には、

しばしば、ウロボロスと呼ばれる自らの尾を自分自身で飲み込む蛇や竜の姿が円環を成す姿として描かれる象徴図が示されていることがあります。

そこで今回は、

こうしたウロボロスと呼ばれる古代の象徴が示している具体的な意味内容について、ギリシア語における語源や、プラトンの『ティマイオス』における宇宙観などとの関係から詳しく考えていきたいと思います。

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ウロボロスという言葉のギリシア語の語源に基づく意味とは?

まず、

ウロボロス(ouroborosという言葉は、

ギリシア語において「尾」のことを意味するoura(ウーラ)と、同じくギリシア語において「大食い」「貪食」のことを意味するboros(ボロス)という二つの単語が結びついてできた言葉であり、

こうしたギリシア語の語源に基づく、ウロボロスという言葉全体の意味としては、それは、もともとは、「尾を食べる者」すなわち「自らの尾を飲み込む蛇や竜」のことを意味する言葉であったと考えられることになります。

プラトンの『ティマイオス』における宇宙観とウロボロスとの関連性

そして、

こうしたウロボロスと呼ばれる象徴図は、一言でいうと、

宇宙全体を取り巻く巨大な蛇が自らの尾を飲み込んで破壊していきながら、それを養分として自らの体を再生し続けていくことによって永遠に自らの体を食べ続けてグルグルと回っているという

生と死破壊と再生が一体となった宇宙の無限のサイクルのことを意味する象徴であると考えられることになるのですが、

こうしたウロボロスの象徴に基づく宇宙観は、

例えば、

古代ギリシアの哲学者プラトンの哲学思想などの内にも、そうしたものと関連する宇宙観を見いだすことができると考えられることになります。

プラトンが書き残した後期対話篇のうちの一つである『ティマイオス』においては、

デミウルゴス(造物主)と呼ばれる神がイデアの世界を模倣して造ったとされる原初的な宇宙の姿についての神話が語られているのですが、

『ティマイオス』においては、

宇宙は、そのもともとの姿においては、一つの存在として完結した自給自足的な生命体のような姿をしていたとされていて、

そうした自給自足的な宇宙は、自らの外にある何か別のものを手に取る必要もなければ、自らの内にない何かを求めて歩いていく必要もなかったので、手もなけれいば足も必要としない「手足を持たない宇宙」として造られたという話が語られていくことになります。

また、

こうした自給自足的な生命体としての宇宙は、それが生き物である以上、ただ静止してとどまっているだけでなく、何らかの活動を行う動く宇宙であると考えられることになるのですが、

それが手足を持たず、自らの外へと歩み出て行くようなこともない存在であるとするならば、その運動のあり方自らの内部に限られることになり、

そうした宇宙は、常に同じ場所にとどまり続けながら、その場所でグルグルと円を描いて回り続けていく円環運動を営む生命体であるとされることになります。

そして、

こうした自給自足的な円環運動を営む生命体としての原初の宇宙は、それが自らの外ではなく内において生命活動を営む存在であるということから、自らの内で自分自身が分解したものを糧として生きている存在であるともされるというように、

こうしたプラトンの『ティマイオス』における宇宙創造の神話においては、

まさに、手足を持たない蛇が、同じ場所にとどまってグルグルと円環運動を続けながら自らの尾を飲み込んでいくというウロボロスの象徴と同じ構造持った宇宙観が提示されていると考えられることになるのです。

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以上のように、

ウロボロスとは、古代ギリシア語において、「尾を食べる者」さらには「自らの尾を飲み込む蛇や竜」のことを意味する言葉であり、

こうした自らの尾を飲み込み続けてグルグルと回っていく蛇や竜の姿として示されるウロボロスの象徴については、

プラトンの後期対話篇の一つである『ティマイオス』の内にも、そうしたウロボロスの象徴に類する宇宙観を見いだすことができると考えられることになります。

そして、

『ティマイオス』においては、デミウルゴス(造物主)によって造られた原初的な宇宙の姿として、

手足を持たずに、常に同じ場所にとどまりながら自らの内部で円環運動を続けていく自給自足的な宇宙な姿が語られていくことになるのですが、

こうしたプラトンの『ティマイオス』における自己充足的で永続的な宇宙観が基本的には、そのまま踏襲されていく形で、

その後のグノーシス主義や中世の錬金術、キリスト教的な神秘主義などにおけるウロボロス的な宇宙観へと引き継がれていくことになっていったと考えられることになります。

つまり、そうした意味においては、

ウロボロスは、その象徴が持つ思想的な意味としては、

一義的には、プラトンの『ティマイオス』において見られるような一つに完結した自給自足的で永続的な宇宙の姿を示す象徴として用いられていると考えられ、

そこには、そうした宇宙の内に見いだされる生と死破壊と再生が一体となった宇宙の無限のサイクルを見いだすことができると考えられることになるのです。

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次回記事:ウロボロスの蛇と竜は一匹と二匹のどちらが正しいのか?ツタンカーメン王の墓に描かれている世界最古のウロボロスの刻印

前回記事:細胞におけるオートファジーと神話におけるウロボロスと饕餮のイメージとの関連性

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