アリストテレス哲学における男女観とは?形相としての男性原理と質料としての女性原理の位置づけ

前回の記事で書いたように、アリストテレス哲学においては、四原因説不動の動者の存在に基づく存在論的な議論から、形相因の質料因に対する優位性が導かれていくことになるのですが、

こうしたアリストテレスの『自然学』や『形而上学』における事物の形成における根源的な原理としての形相と質料の関係性についての議論は、さらに、

人間や動物といった生物における男女や雌雄の関係の位置づけのあり方を示す男女観や人間観へと結びつく議論へもつながっていくことになると考えられることになります。

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アリストテレス哲学の四原因説における起動因と形相因としての男性原理の位置づけ

アリストテレス哲学四原因説の議論においては、

自然界におけるあらゆる事物の生成変化のあり方は、その事物がそこから生成することになる素材や質料としての質料因に対して、

その事物が何であるかを示す本質や概念としての形相因、物体の運動や物事の生成変化の起点となる出発点としての起動因(作用因)、そして、一連の物事の生成と変化が目指すべき目標地点となる終着点としての目的因が存在するという説明がなされていくことになり、

後半の形相因と起動因と目的因という三つの原因概念ついては、それらは最終的に、事物に対して本質となる規定を与える形相因の存在の内へと集約されていくことになるのですが、

それでは、こうした四原因説の枠組みにおいては、男女の間に生まれる子供から見た両親の存在は、どのような種類の原因者として位置づけられることになると考えられることになるのでしょうか?

そうすると、まず、

アリストテレスの『自然学』の議論においては、

起動因についての説明において、かなり明確な形で、「父親は子供に対する原因者である」と述べられているように、

子供に対する父親としての男性の存在は直接的には起動因として位置づけられていくことになるのですが、

前述したように、

四原因説においては、事物の素材である質料因に対して、形相因と起動因と目的因という残りの三つの原因概念が対置されていくことになり、

その中でも特に、起動因は形相因に内包される原因概念のあり方としても捉えられていくことになるので、

そういった意味では、

こうした起動因としての男性原理の存在は、それと同時に、形相因にもあたる存在として位置づけられていくことになると考えられることになります。

つまり、

こうしたアリストテレス哲学における原因論に基づくと、女性に対する男性そして子供に対する父親としての男性原理の存在は、

生まれてくる子供に対してその本質としての形相を与える起動因であると同時に形相因にもあたる存在として位置づけられることになると考えられることになるのです。

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質料因としての女性原理の位置づけとアリストテレス哲学における男女差別的な人間観へとつながる男女観の問題

それでは、

こうした起動因および形相因としての男性原理の位置づけに対して、女性の側の存在にはどのような原因概念が帰せられることになると考えられることになるのかというと、

アリストテレスの『自然学』の議論に基づくと、基本的には、女性の存在は、

子供の誕生において、自分自身の体内において胎児を養い身体を与える質料因として位置づけられていくことになると考えられることになり、

こうしたアリストテレスの哲学思想に基づく男女観においては、

男女の間に生じる新たな生命としての子供の存在は、

形相因としての男性原理質料因としての女性原理との結合によってもたらされていくことになると考えられることになるのです。

もっとも、

現代における生物学的な知見においては、

こうした女性の存在を質料因のみに限定して、子供の誕生において、男性の側にのみ起動因と形相因の存在を帰していく議論は誤りであるということが分かっていて、

実際には、

子供の誕生においては、男女の生殖細胞同士の結合において遺伝子は両親から子供に半分ずつ分け与えられることになるので、

そういった意味では、より正確には、

子供の誕生は、形相因においては男性と女性が半分ずつ担い、質料因については女性の側がその大部分を担うという形で成立していくことになると考えられることになるのですが、

いずれにせよ、

こうしたアリストテレスの哲学思想に基づく男女観においては、まずは、その存在論的な議論において形相因の質料因に対する優越性が示されたうえで、

人間や動物といった生物における男女や雌雄の関係においては、形相因が男性原理として、それに対して、質料因が女性原理として捉えられていくことによって、

現代的な視点から見ると女性の存在を男性の存在よりも下位に位置づけるような男女差別的な人間観が形成されていくことへとつながっていってしまったとも考えられることになるのです。

・・・

次回記事:質量と質料の違いとは?ニュートン力学とアリストテレス哲学における両者の定義と「エネルギー」と「形相」との関係

前回記事:形相因の質料因に対する優越性、数的な意味と存在論的な意味における両者の差異と天地創造の光としての形相と闇としての質料

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