質量と質料の違いとは?ニュートン力学とアリストテレス哲学における両者の定義と「エネルギー」と「形相」との関係
質量(しつりょう)とは、物体に含まれる物質の量や慣性の大きさのことを意味する物理学的な概念であり、
こうした物理学的な概念としての「質量」という言葉とまったく同じ発音の互いに似通った意味を持つ言葉としては、
「質料」(しつりょう)と呼ばれる哲学的な概念の存在も挙げられることになります。
それでは、
こうした「質量」と「質料」という二つの同音異義語の具体的な意味の違いは、どのような点に求められることになると考えられることになるのでしょうか?
物理学における物質の量や慣性の大きさとしての「質量」の定義と「エネルギー」との関係
まず、
前者の「質量」という言葉は、
もともと、17世紀頃に確立されたニュートン力学を中心とする近代物理学に起源をもつ物理学的な概念であり、
それは、ラテン語において物体の「かたまり」や「大きさ」のことを意味するmassa(マッサ)という単語が語源となってつくられた言葉であると考えられることになります。
ニュートン力学においては、
物質量としての質量の概念は、「物質の密度に体積をかけ合わせて得られる量」として定義づけられることになるのですが、
現代へと通じるより一般的な物理的の定義においては、
こうした質量の概念は、物体における運動状態の変わりにくさの度合いのことを意味する慣性の大きさを表す物理量として定義されていくことになります。
そして、通常の物理学においては、
こうした目に見える物体における物質の量や慣性の大きさとしての物理量のあり方が「質量」として捉えられるのに対して、
熱や光といった目に見えない無形の存在における物理量のあり方や位置や運動といった物理的な仕事量のあり方が「エネルギー」として捉えられることによって、
この世界の内において生じるすべての物理現象のあり方は、
こうした「質量」と「エネルギー」と呼ばれる二つの概念に基づいて物理学的に説明されていくことになると考えられることになるのです。
哲学における事物の素材としての「質料」の定義と「形相」との関係
それに対して、
後者の「質料」という言葉は、
古代ギリシア哲学のなかでも、特に、紀元前4世紀のアリストテレス哲学に直接的な起源をもつ哲学的な概念であり、
それは、ギリシア語において事物の「素材」や「材料」としての存在のあり方のことを意味するhyle(ヒュレー)という単語が語源となってつくられた言葉であると考えられることになります。
アリストテレス哲学の存在論の議論においては、
質料の概念は、石像の制作における素材としての大理石、あるいは、家屋の建築における資材としての木材やコンクリートのように、
事物の生成変化を通じて変わることなく存続し続けている素材や材料となる存在のことを意味する概念として定義されていて、
それに対して、
そうした素材や材料としての質料に対して、特定の事物としての姿や形あるいはその事物の本質となる規定を与える存在のことが形相(けいそう)と呼ばれる概念として定義されることになります。
そして、
こうしたアリストテレス哲学を中心とする古代ギリシア思想においては、
この世界の内に存在するあらゆる事物における生成変化のあり方は、
こうした「質料」と「形相」と呼ばれる二つの概念に基づいて哲学的な説明がなされていくことになると考えられることになるのです。
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以上のように、
「質量」と「質料」という二つの言葉の具体的な意味の違いとしては、
「質量」は、17世紀におけるニュートン力学を中心とする近代物理学において確立された目に見える物体における物質の量や慣性の大きさのことを表す物理学的な意味における量的な概念であり、それは「エネルギー」と対になる概念として位置づけられているのに対して、
「質料」は、紀元前4世紀におけるアリストテレス哲学を中心とする古代ギリシア哲学において登場する事物の生成変化を通じて変わることなく存続し続ける素材や材料のことを意味する哲学的な意味における存在論的な概念であり、それは「形相」と対になる概念として位置づけられることになる
といった点を挙げることができると考えられることになるのです。
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次回記事:三位一体とは何か?新約聖書における父と子と聖霊の一体性についての記述と祈りの言葉の内に示される三者の一体性の信仰
前回記事:アリストテレス哲学における男女観とは?形相としての男性原理と質料としての女性原理の位置づけ
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