新型コロナウイルスの検査を軽症患者に広く行わない方がいい理由、PCR法における感度と特異度および偽陽性と偽陰性の関係
日本国内における新型コロナウイルスの感染の拡大と、それに伴って示された軽症者に対しては自宅療養を勧めてウイルス感染の有無を調べるPCR検査を行わないとする政府の方針を受けて、
一部のメディアや医療専門家の間でも感染拡大の早めの予防あるいは患者の立場に立った心理的な安心感といった観点から軽症患者に対してもウイルス検査を行うべきとする意見が強く唱えられている。
しかし、現在の日本国内において行われているPCR法と呼ばれるウイルス検査の特徴について十分に考慮に入れた場合、
感染者との自覚的な接触のない状態で微熱や咳といった一般的な風邪の症状を示しているだけの軽症患者に対して新型コロナウイルスのPCR検査を広く行うことは、
感染拡大の防止に寄与するどころか、かえって感染拡大を増悪させてしまいかねない危険性をはらんでいる。
PCR法における特異度と感度そして偽陽性と偽陰性の関係
PCR法(分子生物学的検査法)と呼ばれるウイルス検査においては、患者の喉や気管から採取された粘液や分泌物の内に含まれているウイルスの遺伝子断片を数時間かけて増幅させていくことによって感染の有無の判断を行うことになるが、問題は、こうしたウイルスの感染の有無を判断していく際のウイルス検査の精度にある。
現在広く行われているPCR法においては、一般的に、特異性は非常に高いが、感度は低いとされている。
(出典:国立感染症研究所:感染症情報センター:
http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/update41-No1.html)
PCR法における特異度とは、一言でいうと、本当は陰性なのに誤って陽性と判断されています偽陽性の低さのことを意味していて、それに対して、PCR法における感度とは、本当は陽性なのに誤って陰性と判断されてしまう偽陰性の低さのことを意味することになる。
例えば、
あるPCR法における特異度を95%で感度を70%とした場合、このウイルス検査では、偽陽性が5%発生するのに対して、偽陰性は30%も発生してしまうことになり、
ウイルス検査で陰性と判定された100人のなかから、30人もの偽陰性、すなわち、実際にはウイルスに感染していながらウイルス検査を陰性でパスしてしまう人が出てきてしまうことになる。
つまり、
こうしたPCR法と呼ばれるウイルス検査の一般的な傾向においては、特異性は非常に高いが感度は低いため、実際はウイルスに感染しているにもかかわらず誤って陰性と判定されてしまう偽陰性の高さが問題となると考えられる。
(クルーズ船におけるウイルス検査を陰性でパスした人が数日たってから発症して改めて行われたウイルス検査で陽性となるケースが続出したことについても、こうしたPCR検査における感度の低さが問題の一因となった可能性がある)
新型コロナウイルスの検査を軽症患者に広く行わない方がいい理由
したがって、ある特定の患者についてウイルス感染の有無を確定するためには、
こうしたPCR法によるウイルス検査を病状の進行に合わせて複数回行う、あるいは、臨床的な診断(例えば肺炎の所見といった)と合わせて感染の判断を行うといったことが不可欠であると考えられる。
そして、
そうした肺炎の所見などもまったく見られないような軽症患者に対していくらPCR法による新型コロナウイルスの検査を行ったとしても、
検査で陰性の結果が出た人が、実際には偽陰性であって、検査結果に安心して自由に外を出歩いていたら、数日後の段階において症状が悪化して、改めて検査したら今度は陽性が出てしまったといったことが十分に起こり得る以上、
こうした軽症患者に対するウイルス検査は、どこまで行っても、当人の新型コロナウイルスの感染自体を否定する確たる証拠とはなり得ないと考えられる。
もちろん、
日本国内におけるアウトブレイク(短期間の間に一人の感染者から数百人もの新たな感染者が広がっていくような現在の韓国やイタリアなどで発生している感染爆発)の発生に備えて、
PCRの検査体制を強化して同時に処理可能な検体数を増加していくことは重要な取り組みではあるが、
その一方で、
こうした現在の日本国内において行われているPCR法と呼ばれるウイルス検査の特徴について十分に考慮に入れた場合、
感染者との自覚的な接触のない状態で微熱や咳といった一般的な風邪の症状を示しているだけの軽症患者に対して新型コロナウイルスのPCR検査を広く行うことは、必ずしも感染拡大の防止に有効ではないと考えられるのである。
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次回記事:新型コロナウイルスの年代別の致死率の日本国内における推定、WHOとCCDCの報告に基づく統計データからの推計
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