グラム陽性菌という名称の具体的な由来とは?細菌の細胞が紫色に染色されたまま残る理由
このシリーズの前回までの一連の記事では、球菌や桿菌やらせん菌といった細菌の形態的な特徴を基準とした区分のあり方に基づいて様々な細菌の種類の分類を行ってきましたが、
細菌学の分野においては、通常の場合、こうした細菌の種類は、グラム染色と呼ばれる細胞染色の方法に基づいて、細菌の細胞体を包んでいる細胞壁などにおける性質の違いから、まずは、
グラム陽性菌とグラム陰性菌と呼ばれる二つのグループへと大きく分けられたうえで、その他の好気性と嫌気性、あるいは、球菌と桿菌とらせん菌といった細菌の種類についての細分化が進められていくことになります。
それでは、
こうしたグラム陽性菌とグラム陰性菌という二つの細菌のグループのうちの前者であるグラム陽性菌とは、具体的にどのような特徴を持った細菌の種族であると考えられることになるのでしょうか?
グラム陽性菌という名称の由来とは?紫色に染色される細菌のグループ
詳しくは以前に「グラム染色とは何か?」の記事で考察したように、顕微鏡での細菌の細胞の観察においては、検体となる細菌はグラム染色によって紫色に染色されたのち、
通常の場合、アルコールによる脱色を経たのちに行われる対比染色によって赤色に再染色されていくことになるのですが、
こうしたグラム染色法と呼ばれる細胞染色法においては、染色された細胞は、グラム染色において用いられるクリスタルバイオレットに代表されるような紫色の色素によって染め上げられたのち、
その後のアルコール脱色や赤色の色素による再染色の影響を受けずに、はじめのグラム染色によって紫色に染色されたままの状態でとどまり続けるグループと、
グラム染色によって一度は紫色に染色されても、その後のアルコール脱色によっていったん紫色の色素がすべて抜け落ちてしまい、その後のサフラニンやフクシンといった赤色の色素による対比染色を受けることによって赤色に再染色されることになるグループへと分かれていくことになると考えられることになります。
そして、このうち、
はじめのグラム染色によって紫色に染色されたままの状態でとどまり続ける前者の細菌のグループのことを指して、グラム陽性菌という名称が用いられることになると考えられることになるのですが、
つまり、一言でいうと、
こうしたグラム陽性菌と呼ばれる細菌のグループの名称の具体的な由来としては、
上述したようなグラム染色の過程において、アルコールによる脱色作用を受けずに紫色に染色されたままの状態で残るため、
こうしたグラム染色法と呼ばれる細胞染色法に対して陽性反応を示す細菌の種族という意味でグラム陽性菌という名称が用いられていると考えられることになるのです。
グラム陽性菌の細胞がアルコールの脱色作用を受けずに紫色に染色された状態のまま残る理由とは?
それでは、
こうしたグラム陽性菌と呼ばれる細菌のグループへと分類されることになる細菌たちは、なぜ、グラム染色において紫色に染色されたのち、その後のアルコール脱色においても色素の脱色作用を受けずに、細胞体の内部に紫色の色素を保持し続けることができるのか?ということについてですが、
それについては、
こうしたグラム陽性菌と呼ばれる細菌の種族の細胞体の構造においては、
細胞の外殻となる細胞壁の部分が、ペプチドグリカンと呼ばれる高分子化合物によって構成される分厚い層によって構成されていて、
そうした頑丈で分厚い細胞壁によって細胞全体が覆われていることによって外界からの侵食から強固に保護されているため、
グラム染色におけるアルコール脱色の過程においても、アルコールの溶解作用による色素の脱色作用の影響を受けることなく、一度自らの細胞内に取り入れた紫色の色素を保持し続けていくことができると考えられることになります。
ちなみに、
こうしたグラム陽性菌と呼ばれるグループに分類される細菌のなかは、そうした分厚い細胞壁によって細胞全体が覆われた頑丈な外殻構造をさらに発達させることによって、より優れた耐久性を持つ構造体を形成していくことができる細菌の種族も存在していて、
例えば、
こうしたグラム陽性菌の一種にあたるクロストリジウム属に分類されるボツリヌス菌やウェルシュ菌、破傷風菌などといった細菌は、
そうした強固な細胞壁の層をさらに発達させていくことによって形成される芽胞(がほう)と呼ばれる耐久性の高い構造体を形成することによって、
高温や低温、乾燥や高濃度の塩分、さらには、強酸性の薬剤や高線量の放射線などといった過酷な環境においても生存し続けることができるようになっていると考えられることになるのです。
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次回記事:グラム陽性菌の具体的な特徴と分類されることになる代表的な細菌の種類
前回記事:細菌の大きさはどのくらいのなのか?代表的な60種類の細菌の大きさの比較
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