フゾバクテリウムとプロテウス菌の具体的な特徴と歯周病や潰瘍性大腸炎との関係性、桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑱
このシリーズの前回までの一連の記事のなかでは、桿菌と呼ばれる細菌のグループに分類されることになる代表的な細菌の種類のなかでも、
乳酸桿菌やビフィズス菌、セラチア菌とエンテロバクター、そして、バクテロイデスとプレボテラといった人間の体内に存在する代表的な腸内細菌の種類について順番に詳しく考察してきましたが、
そうした人間の腸内に生息する代表的な桿菌の種類としては、さらに、その他にも、
フゾバクテリウムやプロテウス菌といった細菌の種類の名を挙げていくことができると考えられることになります。
フゾバクテリウムの具体的な特徴と歯周病や潰瘍性大腸炎との関係
まず、はじめに挙げた
フゾバクテリウム(Fusobacterium)とは、幅0.3~0.7マイクロメートル、長さ1~2マイクロメートルほどの大きさをした紡錘形または端が少し尖った棒状の形状をしたグラム陰性の嫌気性桿菌に分類される細菌であり、
人間を含めた哺乳類の腸内から口腔にかけて消化器全体に広く生息する腸内細菌あるいは常在菌の一種として分類されることになります。
そして、
こうしたフゾバクテリウムと呼ばれる細菌は前述したように、通常の場合は、人間などの哺乳類の腸内において養分を得ることによって生活している腸内細菌の一種として位置づけられることになるものの、
しばしば、そうした自らが生息する口腔や腸内といった宿主となる生物の体内において、様々な炎症反応を引き起こしてしまう危険性もある少し厄介なところのある細菌の種類としても位置づけられていて、
そうしたフソバクテリウムを原因とする炎症性の疾患が口腔内において引き起こされる場合には、歯周病の原因菌として位置づけられることになるほか、
腸内において炎症が引き起こされていく場合には、大腸粘膜に潰瘍やびらんが形成されていく原因不明の難病あるいは自己免疫疾患の一種としても位置づけられている潰瘍性大腸炎の発症との関連が疑われる細菌の種類としても位置づけられることになります。
また、
こうしたフソバクテリウムと呼ばれる細菌の種族に分類される細菌の中には、敗血症や壊疽といった直接的に命に関わるようなさらに重篤な症状を引き起こす細菌感染症の原因となる細菌の種類も含まれていて、
例えば、フソバクテリウム属に分類される細菌の一種である
フソバクテリアム・ネクロフォラム(Fusobacterium necrophorum)と呼ばれる細菌は、比較的若い年代の免疫力が健全な状態にある成人に対しても多くの感染例が報告されているレミエール症候群と呼ばれる感染症の原因となる細菌の種類であり、
こうしたフソバクテリアム・ネクロフォラムを原因菌とするレミエール症候群においては、通常の風邪などの場合と同様に咽頭部に感染した細菌が、その後、血管内へと侵入して、感染性の静脈炎の症状を急速に進行させていくことになり、
血管壁から剥がれ落ちた血栓による肺塞栓症や敗血症によって死に至るケースもある非常に危険な細菌感染症の原因となる細菌の種類として位置づけられることになると考えられることになるのです。
プロテウス菌の具体的な特徴とギリシア神話における変幻自在の海神
そして、こうした腸内細菌に分類される代表的な桿菌の種類としては、
これまでに取り上げてきた乳酸桿菌やビフィズス菌、セラチア菌、エンテロバクター、バクテロイデス、プレボテラそしてフゾバクテリウムといった細菌の種類のほかに、
もう一つ少し変わった特徴を持った腸内細菌の種類として、プロテウス菌と呼ばれる桿菌の種類の名が挙げられることになります。
プロテウス菌(Proteus)とは、幅0.5~0.8マイクロメートル、長さ1.5~4マイクロメートルほどの大きさをした細胞の周囲に生えた鞭毛によって活発に動き回る棒状の形状をしたグラム陰性の嫌気性桿菌に分類される細菌であり、
その活発な運動性から多形性の形態をとるものも多く、シャーレの中などにおいて培養していくと、培地全面に膜状のコロニーを急速に拡大していくことになるため、
古代ギリシア神話に登場する海を司る神であるポセイドンの従者にして、自らの姿形をライオンや大蛇、ヒョウやイノシシといった多様な姿へと変えていく変幻自在の海神であるプロテウス※の名がつけられることになったと考えられることになります。
※ちなみに、こうしたプロテウス菌という呼び名の由来となった海神プロテウスは、日本語においては一字違いとなるギリシア神話において人間に火を授けた半神半人の英雄として有名なプロメテウスとはまったく別の神話上の登場人物ということになります。
そして、
プロテウス菌は、人間を含めた哺乳類の腸内や、肥料を含む土壌中や下水の中などにおいて広く生息する腸内細菌あるいは常在菌の一種として分類されることになるのですが、
その一方で、
こうしたプロテウス菌と呼ばれる細菌は、口腔内や腸内といった消化器系の領域を離れて、泌尿器系へと侵入していってしまった場合には、膀胱炎や腎盂炎などといった尿路感染症の原因菌となる細菌の種類としても位置づけられることになると考えられることになるのです。
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次回記事:アシネトバクターとアクネ菌の具体的な特徴と皮膚の表面を弱酸性に保つ共生菌および吹き出物やにきびの原因菌としての働き、桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑲
このシリーズの前回記事:バクテロイデスとプレボテラの具体的な特徴と動物性タンパク質と食物繊維を分解する腸内細菌の種類の違い、桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑰
前回記事:渋沢栄一の『論語と算盤』において語られている道徳と経済の両立の真の意味とは?マックス・ヴェーバーの経済思想との関係
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