実体とは何か?①古代ギリシア哲学におけるウーシア(実体)の具体的な意味
実体とは、ギリシア語におけるousia(ウーシア)あるいはラテン語におけるsubstantia(スブスタンティア)という言葉の訳語にあたる哲学上の概念であり、
こうした実体やウーシアと呼ばれる概念は、その言葉が用いられる哲学的な文脈に応じて、本質や実在や本体、基体や実質、形相や個体さらには類や種といった多様な意味に解釈されていくことになる多義的な概念であると考えられることになるのですが、
それでは、こうした実体やウーシアといった概念は、そうした言葉自体が実際にはじめて用いられていくようになった古代ギリシア哲学においては、具体的にどのような核となる意味を持つ言葉であったと考えられることになるのでしょうか?
古代ギリシア語におけるウーシアの意味と言語学的な由来
古代ギリシア語において実体のことを意味するousia(ウーシア)という言葉は、
もともと、ギリシア語において英語のbe動詞にあたる「ある」を意味する動詞einai(エイナイ)の現在分詞にあたる形が名詞化することによってできた言葉であり、
日常的な意味においては、人々が現実の生活において常に身のまわりにあり、自らのものとして実際に有しているもの、すなわち、「財産」といった意味を表す言葉として用いられていた名詞であったと考えられることになります。
プラトン哲学におけるイデアとしてのウーシア(実体)の定義
そして、
こうしたウーシア(ousia)というギリシア語の言葉が哲学上の概念としてはじめて用いられるようになったのは、
紀元前4世紀前半のアテナイの哲学者であるプラトンの時代であると考えられることになります。
プラトンの哲学においては、
現実の世界におけるあらゆる事物は、その背後にあるイデア(idea)と呼ばれる真なる実在としての普遍的な観念を分有することによって存在しているとするイデア論と呼ばれる世界観が提示されていくことになるのですが、
こうしたイデア論を中心とするプラトンの哲学においては、
ウーシア(ousia)と呼ばれる概念は、そうしたすべての事物の根源に存在する真なる実在であるイデア(idea)とほぼ同じ意味を表す言葉として用いられていくことになります。
プラトンは、こうしたイデアと呼ばれる存在を「それ自体がそれ自体だけで単一のものとして常に在るもの」としても定義していますが、
まさに、
こうしたプラトン哲学におけるウーシア(実体)の概念は、
その存在がほかの何ものも必要とせずにそれ自身のみによって根拠づけられている真なる実在としてのイデアのことを意味する概念として用いられていると考えられることになるのです。
アリストテレス哲学における述語づけの基底にある真に存在するものとしてのウーシア(実体)の定義
そして、
こうしたウーシア(実体)と呼ばれる概念が哲学における存在論の議論の中心に位置づけられる主要な概念として重視されるようになったのは、
プラトンの弟子でもあった紀元前4世紀後半のアテナイの哲学者であるアリストテレスの時代であると考えられることになります。
アリストテレスの哲学においては、こうしたウーシア(実体)と呼ばれる概念については、アリストテレス自身が、
「古くから探求され、現在も探求され、未来においても永遠に探求され続ける問い、そして常に難題へと行き当たることになる「「ある」とは何か?」という問いとは、すなわち、「ウーシア(実体)とは何か?」という問いなのである」
と書き記しているように、
『カテゴリー論』と『形而上学』と呼ばれる二つの書物のなかで、こうしたウーシア(実体)と呼ばれる概念についての複雑で詳細な議論が積み重ねられていくことになるのですが、
そうしたアリストテレスの哲学におけるウーシア(実体)についての一連の議論においては、
最も本来的な意味において存在するもの、そして、ほかの何ものかの述語となることもなければ、自らがほかの何ものかのうちに含まれることもない、あらゆる述語づけの基底にある真に存在するものとしてのウーシア(実体)についての探求が進められていくことになるのです。
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以上のように、
こうしたプラトンからアリストテレスへと続く古代ギリシア哲学においては、実体やウーシアと呼ばれる概念は、その核となる意味においては、
その存在がほかの何ものも必要とせずにそれ自身のみによって根拠づけられているもの、あるいは、あらゆる述語づけの基底にある最も本来的な意味において存在するものとしての真なる実在のことを意味する概念として捉えられていると考えられることになるのです。
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次回記事:第一実体と第二実体の違いとは?アリストテレスの『カテゴリー論』における二種類の実体の定義、実体とは何か?②
前回記事:創世記において人間を創造した神の存在が複数形で記されている理由とは?多次元的な構造を持つ統一体としての神の構造
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