二重人格と多重人格の違いとは?「解離」と呼ばれる心の防衛機制の働きによる主人格と交代人格の形成に基づく性質の違い
二重人格や多重人格とは、一人の人間の心の中において、互いにまったく異なる複数の人格が交代して現れる心の状態のことを意味する言葉であり、
精神医学や心理学などの専門分野においては、正式には解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder)という疾患名で呼ばれる精神疾患の一種として分類されることになります。
そして、
一般的には、こうした解離性同一性障害と呼ばれる精神疾患のうち、
二つの人格が交代して現れる場合には二重人格(dual personality)、
三つ以上の人格が交代して現れる場合には多重人格(multiple personality)と呼ばれることになると考えられることになるのですが、
こうした二重人格や多重人格の両者の間には、そうした複数の人格が形成されていく際の主人格と交代人格の現れ方に基づいて、さらに若干の性質の違いを見いだしていくことができると考えられることになります。
「解離」と呼ばれる心の防衛機制の働きによる主人格と交代人格の形成
そもそも、心理学においては、解離性同一性障害という言葉における「解離」(Dissociation)とは、
人間の心がトラウマ(心的外傷)となるような過度なストレスにさらされた時に、意識の領域の内から自分自身の人格を形成している記憶や感情の一部を分離させて自分の人格が存在する領域とは別の心の領域の内へと隔離してしまうことによって自らの心を守ろうとする自我の無意識的な防衛機制の働きのことを意味する概念として定義されることになるのですが、
解離性同一性障害においては、そうした「解離」と呼ばれる防衛機制の働きによって自分自身の本来の人格から分離されてしまった記憶や感情の一部がそのまま独立して別人格を形成していってしまうことによって、二重人格や多重人格と呼ばれる心の状態が生じていくことになると考えられることになります。
そして、
そうした「解離」と呼ばれる心の働きを通じて形成された人格のうち、そうした自らの記憶や感情の一部を無意識的に切り離した側の人格である自分自身の本来の人格が主人格(host parsonality)または基本人格(original parsonality)と呼ばれるのに対して、
主人格によって切り離された記憶や感情を新たに引き受けることになった切り離された側の人格のことは交代人格(alter personality)と呼ばれることになるのです。
主人格と交代人格の形成のされ方に基づく二重人格と多重人格の性質の違い
そして、前述したように、こうした「解離」と呼ばれる心の防衛機制の働きにおいては、もともとは主人格の内部にあった記憶や感情の一部が切り離されていく形で交代人格の形成が進められていくことになるので、
二重人格と多重人格のどちらの場合においても、基本的には、自分にとって耐え難い記憶や感情の一部を切り離す側である主人格は一つであり、
多重人格においては、一度分離を行ったあとの主人格の内部から、さらに新たな記憶や感情の分離と流出が進んでいくことによって多数の交代人格が形成されていくことになると考えられることになります。
つまり、
こうした多重人格における三つ以上の多数の人格の形成においては、本来の自分の人格であった主人格の内部から、多数の交代人格が次々に生成されていくことによって、
そうした多数の交代人格の生みの親となった主人格自体はどんどんやせ細っていってしまうことになると考えられることになり、
場合によっては、主人格が持っていた心の領域とエネルギーの大部分が多数の交代人格によって奪われてしまうことによって、主人格がそうした多数の交代人格のうちに埋没していって、再び自らの身体の統制を司る意識の表層へとのぼっていくことができない状態へと陥ってしまうケースもあると考えられ、
そのようなケースにおいては、本来の自分の人格であった主人格自体が事実上消滅してしまうこともあると考えられることになるのです。
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以上のように、
二重人格や多重人格における複数の人格の形成においては、どちらの場合においても、基本的には主人格の数は一つであり、
二重人格の場合においては、一つの主人格に対して一つの交代人格が形成されるのに対して、
多重人格の場合においては、一つの主人格のうちから二つ以上の多数の交代人格が形成されていくことによって一人の人間の心のうちに複数の人格が交代で現れていくことになると考えられることになります。
そして、
こうした複数の人格が形成されていく際の主人格と交代人格の形成のされ方に基づいて生じる二重人格と多重人格の間の性質の違いとしては、
多重人格の場合には、もともと主人格が持っていた記憶や感情、自分自身が持つ心のエネルギーの大部分が、多くの交代人格のうちへと切り分けられていってしまうことによって、
主人格のエネルギー消耗や感情の喪失などが二重人格の場合よりもより急速な形で進んでいってしまうことになると考えられ、
場合によっては、それが本来の自分の人格であった主人格自体の消滅へとつながってしまうケースもあると考えられるように、
同じ解離性同一性障害に分類される心の状態のあり方のなかでも、二重人格と比べた場合、多重人格の方がより危険性の高い重篤な精神疾患として位置づけられることになると考えられることになるのです。
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次回記事:幼少期の性的虐待が二重人格や多重人格の形成につながりやすい理由とは?エディプス期における子供の心の発達の阻害との関係
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