食欲や排泄欲といった基礎的な欲求とリビドーとの関係とは?人間の心の根源にある普遍的な生命エネルギーとしてのリビドー
口唇期から肛門期、エディプス期、潜伏期そして性器期へと至るまでのフロイトの心理学におけるリビドーの発達段階のあり方と、そうしたリビドーの発達段階の区分に基づく性格分類のあり方について詳しく考察してきましたが、
こうした発達段階のうちのそれぞれの局面において現れるリビドーの性質の中には、一般的な感覚においては、性的なエネルギーあるいは性的な欲求としてのリビドーのうちには含まれることのない食欲や排泄欲といった人間における様々な基礎的な欲求のあり方が、そうしたリビドー発達や表出のあり方の一種として位置づけられていくことになります。
それでは、こうした食欲や排泄欲といった人間の三大欲求のうちの一つにも数え上げられている人間の基礎的な欲求のあり方と、リビドーと呼ばれる性的なエネルギーとの間には、より具体的にはどのような関係があると考えられることになるのでしょうか?
口唇期や肛門期の段階における食欲や排泄欲としてのリビドーの表出
詳しくは「フロイトの心理学におけるリビドーの定義とは何か?」の記事などで考察してきたように、
フロイトの心理学において、リビドー(libido)とは、人間の心におけるあらゆる生命活動と精神活動の原動力となる根源的な性的欲動あるいは性的エネルギーとして定義されていると考えられることになります。
しかし、その一方で、
そうした本来は性的な欲求や性的なエネルギーが主体となっているはずのリビドーと呼ばれる心的エネルギーは、
例えば、
口唇期におけるリビドーの表出は、乳児が本能的に母親の乳房や哺乳瓶を吸うといった栄養摂取を行う行為、すなわち、食欲につながる行為を通じて現れるとされていて、
それに対して、
肛門期におけるリビドーの表出は、トイレットトレーニングなどを通じた排泄機能のコントロール、すなわち、排泄欲に関わる行為を通じて現れるとされていくことになります。
つまり、
こうしたリビドーの発達段階の比較的初期の段階にあたる口唇期や肛門期と呼ばれる段階においては、
リビドーと呼ばれる心的エネルギーは、その本来の特徴である性的な欲求や性的なエネルギーとしての性質というよりは、むしろ、食欲や排泄欲といった人間のより基礎的な欲求に関わる性質を持ったエネルギーとして表出していると捉えることができると考えられることになるのです。
人間の心の根源に存在する普遍的な生命エネルギーとしてのリビドー
それでは、なぜ、こうした事情があるにも関わらず、フロイトの心理学においては、まるで人間の心において生じるあらゆる欲求や観念がすべてリビドーと呼ばれる性的な欲求やエネルギーに由来にするものであるかのように語られているのか?ということについてですが、
そうしたことについての答えは、結局、少し逆説的な言い方にはなりますが、
もしも本当に人間の心において生じるすべてのことが性的なエネルギーに由来するものであるとするならば、それは、人々が普段「性的」という言葉において考えているような意味ほどにはそれほど性的なものではないかもしれない
ということに求められると考えられることになります。
前述したように、フロイトの心理学におけるリビドーの概念は、人間の心における根源的な性的欲動あるいは性的エネルギーとして定義されることになるのですが、
こうした根源的な性的エネルギーとしてのリビドーの概念は、一般的な意味における色欲や情欲、すなわち、男女の間に生じる性的な欲望のことを必ずしも意味しているわけではなく、
それは、直接的には、栄養摂取や排泄、睡眠や運動といった人間におけるあらゆる生命活動の原動力となるようなエネルギー、
さらには、そうした個人としての人間のレベルを超えた人間という種族全体の存続、すなわち、人類という種の保存を基礎づけているという意味での性的なエネルギーのことを示す概念であると考えられることになります。
つまり、
こうしたリビトーと呼ばれる概念は、究極的には、人間という生物の種族の生存を維持していくための原動力となる根源的な性的エネルギー、さらには、そうしたあらゆる生命活動の源にある普遍的な生命エネルギーとして捉えることができるということであり、
そういった意味では、
こうした人間の心の働きのすべてをリビドーと呼ばれる根源的な性的なエネルギーによって説明していこうとするフロイトの心理学におけるリビドー理論は、
単に、人間の心において生じるすべての欲求や衝動を性的な欲望へと還元していくことを目的とする理論として捉えられるだけではなく、
それは、食欲や排泄欲といった生物としての人間における基礎的な欲求のあり方なども含めた人間の心の根源に存在するあらゆる生命活動の源となる普遍的な生命エネルギーのことを解き明かそうとする心理学理論であるとも捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:二重人格と多重人格の違いとは?「解離」と呼ばれる心の防衛機制の働きによる主人格と交代人格の形成に基づく性質の違い
前回記事:リビドーの質と量の違いに基づくフロイトの心理学における六つの性格類型のまとめ、リビドー過剰型と抑制型への細分化
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