妖怪人間が誕生した本当の理由とは?細胞生物学における不死なる人造細胞としてのベロ細胞との関係
前回の記事で書いたように、1968年に制作された『妖怪人間ベム』という題名のテレビアニメ作品においては、
妖怪人間と呼ばれる奇怪な姿かたちをした異形の者たちがいつか自分自身が本当の人間の姿になれる日を夢見て悪と戦い続ける物語が描かれていくことになりますが、
こうした『妖怪人間ベム』の冒頭のシーンにおいては、以下のような意味深なナレーションと共に、こうした妖怪人間たちの物語がはじまっていくことになります。
「それは、いつ生まれたのか誰も知らない。暗い音の無い世界で、一つの細胞が分かれて増えていき、三つの生き物が生まれた。彼らはもちろん人間ではない。また、動物でもない。だが、その醜い身体の中には正義の血が隠されているのだ。その生き物、それは、人間になれなかった妖怪人間である。」
妖怪人間の誕生の秘密と古代の科学者による人造人間の創造の実験
そして、
こうした妖怪人間と呼ばれる異形の生物が誕生した秘密は、後になって語られたプロデューサーなどの制作者サイドの話としては、
悪事を働き続ける人間の心の醜さに絶望した天才科学者が、自らの手で善き心を持った完全になる人間を新たに創り上げようとして人造人間をつくる研究へと没頭していったものの、
その天才科学者は、そうした完全なる人間を自らの手で創り上げるという神のような善なる目的のために行われた悪魔のような研究の道半ばにして死を迎えてしまい、
その後、実験室の中に長い年月のあいだ放置されていた人造人間を創り上げるための人造細胞が入った培養液の入った壺の中で、いつの時にか人知れず生き延び続けてきた人造細胞が増殖しはじめることによって、
冒頭で述べたナレーションのシーンへと物語がつながっていくことになると説明されていくことになります。
つまり、そういった意味では、
こうした妖怪人間と呼ばれる生物の正体は、太古の昔に古代の偉大なる科学者が、人間の悪しき行いを正すために、
万能の力を持つ優れた身体とどんな時でも正義を貫き続ける強く正しい心、すなわち、美しい身体と心とを同時に兼ね備えた完全なる人間を自らの手で創り上げるという壮大な人造人間の創造の実験を試みたものの、その実験自体は道半ばで失敗に終わってしまうことになり、
その代わりに、
人間とは似ても似つかないような醜い身体と、悪しき思いに惑わされ続ける通常の人間には及びもつかないような正しく美しい心とを同時に与えられた妖怪人間と呼ばれる異形の生物が誕生することになったというのが、
こうした「ベム」「ベラ」「ベロ」という三人の妖怪人間が誕生した本当の理由であった考えられることになるのです。
細胞生物学における不死なる人造細胞としてのベロ細胞の誕生
以上のように、
「ベム」「ベラ」「ベロ」という三人の妖怪人間たちの誕生の秘密は、こうした古代の科学の力によって創り上げられた培養液の中の人造細胞の存在に求められることになると考えられるのですが、
ちなみに、
おそらくは偶然の一致ではあるとは考えられるものの、
医学や細胞生物学といった現実の世界の学問研究の分野においても、こうした「妖怪人間」に登場する主人公の一人である「ベロ」と同じ名を持ったベロ細胞と呼ばれる不死なる培養細胞の存在が出てくることになります。
以前に「ベロ毒素とは何か?」の記事で詳しく考察したように、
病原性大腸菌の一種であるO157などに代表される一部の腸管出血性大腸菌が生産する人体に対する有害性の高い毒素のことを意味するベロ毒素という言葉の由来は、
ベロ細胞と呼ばれるアフリカミドリザルの腎臓上皮細胞に由来する人為的に培養された細胞の存在の内に求められることになります。
そして、
こうしたベロ細胞と呼ばれる細胞は、
細胞の機能がガン細胞化することないままの状態で劣化することなく何世代にもわたって培養し続けていくことができるように調整された人為的に培養された細胞、
すなわち、
細胞分裂を無制限に繰り返すことによって永遠に生存し増殖し続けていくことが可能となった不死なる人造細胞としても捉えられることになると考えられることになるのです。
また、
架空の世界の物語である『妖怪人間ベム』において、培養液の中の人造細胞から「ベロ」が誕生するという話が考えられたのは、このテレビアニメが制作された1968年であると考えられるのに対して、
現実の世界の学問分野である細胞生物学において、こうした不死なる人造細胞としてのベロ細胞が実際につくり出されたのは、それにさかのぼること6年前の1962年であるというように、
こうした妖怪人間ベロとベロ細胞という二つの存在は、その存在自体が新たに生み出された成立年代からしても互いに極めて近しい関係にあると考えられることになるのですが、
このように、
テレビアニメの世界の中で、妖怪人間ベム・ベラ・ベロという培養液の中の人造細胞から生まれた異形の生物たちが活躍するという独特の世界観を持った物語が世に出されたのとちょうど同じ時期に、
現実の世界における細胞生物学においても、ベロ細胞と呼ばれる同じ日本語のカタカナ表記では「ベロ」という言葉が用いられることになる不死なる人造細胞が新たにつくりだされていたというのは、
単なる偶然の一致に過ぎないとしても、少し興味深いところがある話であるとも考えられることになるかもしれません。
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次回記事:「闇に隠れて生きる」「はやく人間になりたい!」という妖怪人間の言葉に込められた人間という存在に対する強い思いとは?
前回記事:妖怪人間ベム・ベラ・ベロの名前の由来とは?アメリカなどの海外のSF作品とカマキリのような肉食昆虫の姿との関係
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