アドラーの個人心理学とフロイトの精神分析学の三つの特徴の違いとは?内向性と外向性の違いといった探究の方向性の相違点、深層心理学とは何か?⑨
前回の記事で書いたように、個人心理学の創始者であるアドラーは、はじめは深層心理学の学問分野における先駆者であったフロイトの教えを受けることによって自らの心理学研究を進めていくことになるのですが、
その後、アドラーは、そうしたフロイトの精神分析学におけるリビドー理論を批判していくなかで、個人の心の内なる主体的な意志の力をより重視していく自らの心理学理論を打ち立てていくことになったと考えられることになります。
それでは、
こうしたアドラーの個人心理学とフロイトの精神分析学という両者の心理学理論の間には、より具体的にはどのような点において探求の方向性の違いを見いだすことができると考えられることになるのでしょうか?
アドラーとフロイトの心理学理論における内向性と外向性の違い
冒頭でも述べたように、アドラーの個人心理学とフロイトの精神分析学における主要な特徴の違いとしては、
まずは、リビドーと呼ばれる人間の心の奥底に存在するとされる根源的な性的エネルギーの捉え方について大きな相違点が見られると考えられ、
フロイトは、人間の心の働きのあり方のすべてをこうしたリビドーと呼ばれる性的なエネルギーの働きに基づいて説明しようとするのに対して、
アドラーにおいては、そうしたフロイトの心理学理論において見られるような性的なエネルギーを特別に重視していくような主張は見られず、
むしろ、そうした無意識的な心的エネルギーを一つに取りまとめて建設的な方向へと導こうとする自我における主体的な意志の力を重視する理論が展開されていると考えられることになります。
そして、
前者のフロイトの心理学理論においては、リビドーと呼ばれる性的なエネルギーは、エディプスコンプレックスやエレクトラコンプレックスに代表されるように、自分の両親を中心とする周りの人々との人間関係の中において発展していく心の働きとして捉えられていくことになるのですが、
それは、別な言い方をすれば、こうしたフロイトの心理学におけるリビドー理論においては、人間の心の発達や人格形成といったものは、そうしたリビドー呼ばれる性的なエネルギーを介した他者との間の外的な関係において進んでいくものとして捉えられているとも考えられることになります。
そして、それに対して、
アドラーの心理学においては、前述したように、そうしたリビドーに基づく他者との間の外的な関係によってではなく、
自我における主体的な意志の力という個人における内的な心の働きによって、そうした人間の心の発達や人格形成が進んでいくと捉えられていると考えられることになるのです。
人間の心における無意識の闇の領域と自我と共同体が存在する光の領域
また、他の点においても、こうしたアドラーとフロイトの両者の心理学理論の間には、人間の心の働きの探求のあり方に対するアプローチの仕方に違いが見られると考えられ、
人間の心の深淵なる闇を解き明かそうとする深層心理学の先駆者であるフロイトにおいては、そうした心理学的な探究の方向性は、
人間の心の奥底に存在する無意識の領域や、そうした心の闇の領域の内に蠢いているリビドーといった根源的な心的エネルギーの存在の解明へと向けられていくことになります。
そして、それに対して、
アドラーの心理学的探究においては、そうした人間の心の中の無意識の領域や、その奥底に蠢いている得体の知れない不可解な心的エネルギーといった人間の心の闇の側面に目を向けるのではなく、
むしろ、その反対に、
そうした無意識の領域に蠢いている劣等感といった負の感情を克服していこうとする自我における主体的な意志の力といった人間の心の光の側面へと目が向けられていると考えられ、
アドラーは、そうした個人の心における自覚的な意志の力や、一人一人の個人が互いに協調することによって形成される共同体の内部における自助的な相互支援を重視していくことによって、
神経症や精神疾患といった様々な心理的・精神的問題の治療に取り組んでいったと考えられることになるのです。
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以上のように、
アドラーの個人心理学とフロイトの精神分析学における心理学的探究のあり方の主要な特徴の違いについて一言でまとめると、
フロイトは、人間の心の発達や人格形成のあり方において、リビドーと呼ばれる性的なエネルギーの働きを重視するのに対して、アドラーにおいては、そうした人間の心の奥底に存在するとされる根源的な性的エネルギーのあり方を特別に重視していくような傾向は見られないという点、
フロイトの精神分析学は、リビドー呼ばれる性的なエネルギーを介した他者との間の外的な関係性を重視するという意味で外向的な心理学理論として位置づけることができると考えられるのに対して、アドラーの個人心理学は、個人の心の内部における自発的で主体的な意志の力を重視する内向的な心理学理論として位置づけることができると考えられるという点、
そして、
フロイトにおける心理学的探究の方向性は、人間の心の奥底に存在する無意識の領域やその内に蠢く根源的な心的エネルギーとしてのリビドーの解明といった人間の心の闇の領域の探究へと向けられているのに対して、アドラーにおける心理学的探究の方向性は、個人の心における自覚的な意志の力や共同体の内部における自助的な相互支援といった人間の心の光の領域へとその目が向けられている点、
という全部で三つの点が両者の間の主要な特徴の違いとして挙げられることになると考えられることになります。
つまり、
アドラーの個人心理学とフロイトの精神分析学の両者の間には、
それぞれの心理学理論におけるリビドーと呼ばれる性的なエネルギーの重視の度合いの違いと、人間の心の発達と人格形成における外向性と内向性の違い、そして、心理学的探究における重視する方向性としての人間の心における闇の領域と光の領域の違いという三つの点において、
大きな特徴の違いが存在すること考えられることになるのです。
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次回記事:フロイトとユングの心理学における五つの特徴の違いとは?男女観と宗教観の違いと元型やリビドーといった概念の捉え方の違い、深層心理学とは何か?⑩
前回記事:アドラー心理学とは何か?個人心理学における劣等感を原動力とする主体的な意志の力を重視した心理学理論、深層心理学とは何か?⑧
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