ヒストプラスマ症とスポロトリコーシスの原因となるカビの種類と疾患の具体的な特徴とは?カビが原因の真菌症の種類③
前々回の記事で書いたように、カビが原因となる代表的な真菌症の種類としては、
白癬菌によって引き起こされる水虫や、コウジカビによって引き起こされるアスペルギルス症、ケカビによって引き起こされるムーコル症(接合菌症)といった疾患が挙げられることになりますが、
その他にも、カビによって引き起こされる真菌症の種類をさらに挙げていくことすると、
前回までに取り上げた水虫と、アスペルギルス症、ムーコル症という三つの真菌症と比べるとだいぶ知名度が劣るものの、
比較的言及されるケースが多いカビが原因となる真菌症としては、ヒストプラスマ症や、スポロトリコーシスといった真菌症の種類が挙げられることになります。
それでは、
こうしたヒストプラスマ症とスポロトリコーシスという真菌症とは、それぞれどのようなカビの種類によって引き起こされる疾患であり、それぞれの疾患にはどのような具体的な特徴があると考えられることになるのでしょうか?
ヒストプラスマ症の原因となるカビの種類と疾患の具体的な特徴
まず、
冒頭で挙げた二つの真菌症の疾患のうちの前者であるヒストプラスマ症は、
ヒストプラスマ(Histoplasma)と呼ばれる子嚢菌類に分類されるカビの一種によって引き起こされる真菌症であり、
ヒストプラスマは、ミシシッピ川流域などのアメリカ東部や、南米、中部アフリカ地域などを中心に世界の各地に広く生息する土壌菌の一種で、
特に、鳥やコウモリの糞などにおいて増殖を広げているケースが多い真菌であると考えられることになります。
そして、
こうしたヒストプラスマと呼ばれる真菌は、土壌中などの通常の生育環境においては、褐色の菌糸を形成する糸状菌として成長していくことになるので、
一般的には、キノコ(子実体)を形成しない菌類のなかで通常の環境下では糸状菌の形態をしている真菌、すなわち、カビの一種として分類されることになるのですが、
そうした糸状菌の形態をしたヒストプラスマが呼吸器などを通していったん人体の内部へと入り、体温によって温めれられると、菌糸を形成していた細胞列が単細胞の状態へと分離し、酵母状の形態で増殖をはじめていくことになります。
そして、
そうした単細胞の酵母状の形態をしたヒストプラスマが気道や肺の内部で増殖を広げていくと、やがて咳やインフルエンザに似たような症状を引き起こすことになるのですが、
ヒストプラスマに感染しても、人間の免疫力が十分に機能している状態では、通常の場合は無症状のまま経過するか、症状が出ても自然治癒するケースがほとんどであると考えられることになります。
しかし、
アスペルギルス症、ムーコル症といった他の多くの真菌症の場合と同様に、ヒストプラスマ症の場合も、エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)などの免疫不全を引き起こす疾患を発症していたり、免疫抑制剤の使用などによって免疫力が著しく低下している場合には、
症状が重症化して、真菌が肺の組織を食い破って破壊してしまうことによって、結核患者に見られるような肺の内部における空洞形成が進んでしまうケースや、
血流を介して全身の組織や器官へと感染を広げていくことによって、最終的に多臓器不全や敗血症などを引き起こしてしまうケースもあるほか、
真菌が血流などを介して眼球の内部へと侵入してしまうことによって、網膜などに病変をもたらしてしまうケースもあるなど、
極めて多様な疾患が引き起こされてしまうことになるのです。
スポロトリコーシスの原因となるカビの種類と疾患の具体的な特徴
そして、
冒頭で挙げたもう一つの真菌症の疾患であるスポロトリコーシスの方は、
スポロトリックス(Sporothrix)と呼ばれる子嚢菌類に分類されるカビの一種によって引き起こされる真菌症であり、
スポロトリックスは、高温多湿の地域などに広く生息する土壌菌の一種で、
特に、バラの茂みや干し草、松の苗木、ミズゴケ(水苔)の生息地などにおいて増殖を広げているケースが多い真菌であると考えられることになります。
したがって、
そうした植物などを取り扱う農業や園芸の作業中などに、皮膚にできた傷などから感染してしまうケースが多いと考えられるのですが、
スポロトリコーシスは、人間だけではなく、猫や馬などの動物にも同様に感染する人獣共通感染症にあたる真菌症でもあるので、人間がそうした動物を介して二次的に感染してしまうケースもあると考えられることになります。
そして、
皮膚から侵入したスポロトリックスは、皮膚の表面に赤く盛り上がった結節を生じさせるといった皮膚疾患を生じさせることになるのですが、
患者の免疫力が低下しているケースなどでは、より重篤な症状を引き起こしてしまうケースもあり、
そのような場合は、前述したヒストプラスマ症の場合と同様に、肺の空洞化をもたらすような重症の肺炎を引き起すケースや、血流を介して全身の臓器へと感染を広げていくケースも見られるほか、
骨や関節へと炎症を広げるケースや、髄膜炎や脳炎が引き起されてしまうケースなどもあると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
カビによって引き起こされる代表的な真菌症の種類としては、白癬菌によって引き起こされる水虫、アスペルギルス症やムーコル症(接合菌症)といった疾患のほかに、
ヒストプラスマ症とスポロトリコーシスといった真菌症の名前も挙げられることになると考えられることになります。
そして、
ヒストプラスマ症を引き起こすヒストプラスマと、スポロトリコーシスを引き起こすスポロトリックスは、共に子嚢菌類に分類される土壌菌の一種であり、
こうしたカビに分類される二つの土壌菌によって引き起こされる真菌症は、
ヒストプラスマ症の場合、病原体となるヒストプラスマが気道や肺の内部で増殖を広げていくことによって咳やインフルエンザに似たような症状を引き起こす呼吸器系疾患を引き起こすケースが多いのに対して、
スポロトリコーシスの場合、病原体となるスポロトリックスは主に皮膚にできた傷などから侵入することによって結節性の病変などの皮膚疾患を引き起こすケースが多いといった点に、
両者の疾患における具体的な症状の違いがあると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:病原体となるキノコの種類とは?スエヒロタケとヒトヨタケによって引き起こされる真菌症の特徴とマツタケやシイタケとの関係
前回記事:アスペルギルス症とムーコル症(接合菌症)の原因となるカビの種類と疾患の具体的な特徴とは?カビが原因の真菌症の種類②
「生物学」のカテゴリーへ
「医学」のカテゴリーへ