五行説の相剋と四元素における熱冷乾湿の四項対立の図形的関係、四元素と五行説②
前回書いたように、陰陽五行説における五元素は、
それぞれの元素が互いに互いを生み出し合うという双生の関係にあると
捉えられるのですが、
五行説における五元素の関係には相剋と呼ばれる
互いに互いを殺し合い滅ぼし合う関係も存在します。
そして、
こうした元素同士の敵対関係や対立関係は、五元素が形成する五角形における
図形的性質との関係からも導き出されることになるのですが、
五行説における図形的関係と同様に、同じく万物の根源に関する多元論の思想である
古代ギリシアの哲学の四元素説においても、
四元素が形成する四角形の図形的性質に対応する形で
四元素同士の性質の対立関係が導き出されていくことになります。
図形的性質から見た四元素説と陰陽五行説の構造
上図で示したように、
四元素における各元素を同一円上に均等に配置し、
それぞれの元素を頂点として、頂点同士を直線で結ぶと、
正方形(正四角形)が描かれることになります。
四角形は、その図形としての性質上、
四つの頂点と四つの辺、二本の対角線から構成されることになりますが、
四元素説における各元素同士の性質の対立関係は、
こうした四角形における対角線の構造に対応する形で示されることになります。
そして、同様に、
陰陽五行説における各元素を同一円上に均等に並べて
それぞれの元素を頂点とする図形を描くと正五角形になりますが、
五行説における各要素の相剋の関係も
こうした五角形における対角線の構造に対応する形で示されることになるのです。
五行説においては、対角線だけではなく、各頂点を結ぶ辺の関係も重視され、
五元素の双生の関係は、五つの辺をなぞるようにして各頂点を順に巡っていく動きにそのまま対応していくことになりますが、
このように、
四角形と五角形における頂点の一つ一つは
四元素と五行説における元素の種類に対応し、
一つ一つの辺と対角線のそれぞれは、
異なる種類の元素同士の循環関係と対立関係を示していると
捉えることができるのです。
ちなみに、
正多角形とは、すべての内角の大きさが等しく、すべての辺の長さが等しい多角形のことを示す概念ですが、
そうした正多角形の中で、
対角線の長さが全て等しい正多角形は、
四元素説と陰陽五行説のそれぞれが対応する図形である
正方形(正四角形)と正五角形のみに限られることになります。
正三角形にはそもそも対角線自体が存在しませんし、
正六角形以上になると、対角線の数が増えすぎてしまって、
頂点から伸びる対角線の長さが均等ではなくなってしまうということです。
そして、
すべての対角線の長さが等しいということは、
正四角形に対応する四元素説と正五角形に対応する陰陽五行説においては、
それぞれの対角線に対応する元素同士の対立関係のあり方も、
互いに同等であると考えられることにもなります。
つまり、
四元素説における水と火の対立関係と空気と土の対立関係は
それぞれに同等の対立関係であり、
五行説における木から土、土から水、水から火、火から金、そして、金から木への
相剋関係も、それぞれの関係において本来的な力の優劣はなく、
それぞれが同等の強さをもった関係であると捉えることができるということです。
以上のように、
それぞれの元素同士の力関係がすべての対立軸において等しくなるためには、
元素が構成する構造は正四角形か正五角形であることが求められることになるのですが、こうした図形的関係からも、
なぜ、四元素説や陰陽五行説における四や五という数が
万物を構成する元素の数として選ばれたのか?
といった問いへの一つの答えを導き出すことができるかもしれません。
五行説における相剋の関係と四元素説における熱冷乾湿の四項対立
そして、
以上のような図形的関係に基づいて四元素説と陰陽五行説における
それぞれの元素同士の対立構造を捉えると、
陰陽五行説においては、五角形の対角線の構造に対応して、
五元素間の相剋の関係が導き出されることになります。
五行説の相剋においては、
木は養分を吸って土地を痩せさせることによって土を剋し、土は水を堰き止めることで水を剋し、水は火を消し止めることで火を剋し、火は金属を鋳溶かすことで金を剋し、金は鋭い刃で木を切り倒すことにで木を剋すというように、
互いに互いを打ち滅ぼしていく対立関係ないし敵対関係が描かれることになるのですが、そこからは同時に、
土を剋した木が巡り巡って今度は金によって自らを滅ぼされるというような
循環の関係を読み取ることもできます。
つまり、
東洋思想である陰陽五行説においては、
相剋と呼ばれる対立と敵対の関係の内にも、その根底においては、
双生と同様の循環の思想が流れていると考えられるということです。
これに対して、
古代ギリシアの哲学思想である四元素説においては、
四角形の対角線の構造に対応して、
以下の図で示すような
熱冷乾湿の四項対立に基づく四元素間の性質の対立構造が
導き出されることになります。
こうした四元素説における熱冷乾湿の四項対立の構造は、
四元素説の創始者であるエンペドクレス自身の思想というよりは、
その理論が古代ギリシアの哲学の大成者であるアリストテレスによって
整備された後の思想によるところが大きいのですが、
いずれにせよ、
その後の古代から中世にかけてのヨーロッパ全域で広く受け入れられた
主流な思想としての四元素説においては、
四元素のそれぞれは、
水が湿と冷、火が乾と熱、空気が湿と熱、土が乾と冷というように、
それぞれの元素が基本性質を二つずつ有する存在として捉えられることになります。
例えば、
この図における
左右の対立軸について見るならば、
水は、湿と冷という性質を持っているのに対して、
その対立項に位置する
火は、乾と熱という性質を持つというように、
対角線上に位置する元素は、
温度と湿度という基本性質のそれぞれについて
正反対の対立する性質を有すると捉えられることになるのです。
・・・
以上のように、
四元素説と陰陽五行説における各元素の対立関係ないし敵対関係は、
四元素説と五行説のそれぞれが対応する図形構造である
正四角形と正五角形における対角線の構造に対応する形で
導き出されることになります。
そして、
東洋思想である陰陽五行説においては、
五角形の対角線の構造に対応する五元素間の相剋の関係は、
対立関係ないし敵対関係であると同時に、
その破壊の力が巡り巡って自分自身へと還ってくる
循環の関係としても捉えられているのですが、
それに対して、
古代ギリシアの哲学思想である四元素説においては、
四角形の対角線の構造に対応する四元素間の対立関係は、
熱冷乾湿の四項対立という元素が有する二組の基本性質の対立構造として捉えられ、
対角線上に位置する元素は、熱または冷、乾または湿という基本性質のそれぞれについて互いに正反対の性質を有する元素として捉えられることになるのです。
・・・
このシリーズの前回記事:
エンペドクレスの四元素説と陰陽五行説の違いとは?四元素と五行説①
このシリーズの次回記事:エンペドクレスにおける愛と争いの原理とアナクシマンドロスにおける不正と償いの概念の共通点と相違点
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四体液説における熱冷乾湿の対応関係とホメオスタシス、四体液説と四元素①
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