「令和」は英語やドイツ語やフランス語ではどう訳されるのか?「善」と「美」を表す言葉としての「令」という字義の解釈
2019年4月1日に首相官邸で開かれた記者会見において、5月1日の新天皇の即位に合わせて日本において新たに使用されることになる新元号は「令和」という元号であるということが国の内外に広く知らしめられることになりました。
そして、
こうした「令和」という新元号は、この元号が発表されることになった当初の速報の時点においては、
イギリスの公共テレビ放送局にあたるBBCは、
“order and harmony“(オーダー・アンド・ハーモニー)、すなわち、「秩序」と「調和」と訳していたのに対して、
アメリカに本社を置く経済・金融情報を中心とする総合情報サービス会社であるブルームバーグは、
“order”, ”peace” or “harmony.”(オーダー・ピース・オア・ハーモニー)、すなわち、「令」は「秩序」、「和」は「平和」または「調和」として解釈していて、
イギリスに本社を置く国際通信社であるロイター通信は、
“command” and “order.”“peace” or “harmony(コマンド・アンド・オーダー・ピース・オア・ハーモニー)、すなわち、「令」は「命令」と「秩序」、「和」は「平和」または「調和」として解釈していました。
それでは、
こうした「令和」という新元号は、こうしたイギリスやアメリカといった英語圏以外のヨーロッパの国々、例えば、ドイツやフランスといった国においては、それぞれ具体的にどのような単語として訳されていくことになっていったと考えられることになるのでしょうか?
ドイツ語とフランス語における「令和」の意味の解釈
まず、
こうした「令和」という日本の新元号にあたる言葉は、例えば、
ドイツとフランスの共同出資のテレビ局にあたるアルテ(Arte)のドイツ語版で公開された記事においては、
“Ordnung” und “Frieden” oder “Harmonie“(オルドゥヌング・ウント・フリーデン・オーダー・ハルモニー)
すなわち、前述したアメリカのブルームバーグ通信における訳し方と同じように、
「令」は、ドイツ語において「秩序」を意味するOrdnung(オルドゥヌング)、
「和」は、ドイツ語において「平和」を意味するFrieden(フリーデン)、または、「調和」を意味するHarmonie(ハルモニー)という言葉に対応させていく形で直接的な訳語が示されています。
そして、それに対して、
フランスの国際ニュース専門チャンネルにあたるFrance 24においては、
“agréable“ ou “ordre“ et “harmonie“ ou “paix“.(アグレアーブル・ウー・オルドル・エ・アルモニ・ウー・ペ)
と訳されていて、
「和」に対しては、前述したドイツ語訳の場合と同様に、フランス語において「調和」を意味するアルモニ(harmonie)という単語と、「平和」を意味するpaix(ペ)という単語がそれぞれ対応づけられているのに対して、
「令」に対しては、フランス語において「秩序」を意味するordre(オルドル)という単語のほかに、「快い」「良い」「素敵な」といった意味を表すagréable(アグレアーブル)という形容詞が対応づけられているところが少し特徴的であると考えられることになります。
そして、その一方で、
ドイツの公共テレビ放送局にあたるZDFにおいては、新元号の発表の後に語られた安倍総理による説明も踏まえたうえで、こうした「令和」と呼ばれる言葉自体の意味は、
“schöne” Weise zusammenleben(シェーネ・ヴァイゼ・ツザンメンレーベン)
すなわち、人々が「美しい生き方によって共に暮らしていく」国をつくっていくという意味を表す言葉として解釈されていくことになるのです。
「善」と「美」を表す言葉としての「令」という字義の解釈
それでは、こうした英語やドイツ語やフランス語といった様々な言語における解釈を踏まえたうえで、いったいどのような解釈のあり方が、こうした「令和」という言葉の字義の読み解き方として、より適切な解釈のあり方であると考えられるのか?ということについてですが、
それについては、例えば、もう一つ英語における「令和」という言葉の訳し方の例を挙げてみるとすると、
アメリカの代表的な新聞社であるNYタイムズでは、こうした「令和」という言葉を以下のような字義を持つ言葉として解釈しています。
The first character is most often understood to mean “order“ or “command“ but can also mean “good“ and “beautiful“. The second character means “peace“ or “harmony“.
つまり、こうしたNYタイムズにおける「令和」という言葉の訳し方においては、
二番目の文字である「和」については、他の英訳の記事などと同様に、「平和」または「調和」と訳している一方で、
はじめの文字である「令」については、「秩序」と「命令」といった意味のほかに、「良い」と「美しい」といった訳し方もあるということに明確な形で触れている点が特徴的であると考えられることになります。
そして、
前回書いた「「令和」の「令」という漢字に込められた二つの意味」の記事でも漢字自体の成り立ちといった観点からから詳しく考察したように、
こうした「令和」という言葉に用いられている「令」という文字には、単なる命令や秩序といった意味だけではなく、ある種の神聖さへもつながるような「善性」あるいは「美」といった意味も込められているので、
そういった意味では、前述したアメリカのNYタイムズや、ドイツのZDFの記事における解釈のなかでも語られているように、
「和」を「平和」または「調和」と解釈したうえで、
「令」を「秩序」または「善」と「美」と解釈するといった字義の読み解き方が、
こうした「令和」という言葉の本質を最も深く読み解いている解釈のあり方であるとも考えられることになるのです。
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次回記事:令和、平成、昭和、大正、明治の英語での呼び名とは?語源的な意味に基づく五つの元号を表す言葉の英語における解釈
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前回記事:「令和」の「令」という漢字に込められた二つの意味とは?神聖なる権威と秩序を表す漢字の成り立ちと二つの具体的イメージ
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