桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑤結核菌、らい菌というマイコバクテリウム属に分類される二つの細菌の具体的特徴
前回の記事では、桿菌と呼ばれる細菌のグループに分類されることになる代表的な細菌の種類のなかでも、
緑膿菌と呼ばれる化膿性の炎症や院内感染の原因菌となる桿菌の種類のほかに、百日咳菌や肺炎桿菌といった肺炎などの呼吸器疾患の原因となる桿菌の種類についても取り上げてきました。
そして、今回の記事では、それに引き続いて、
そうした細菌性の呼吸器疾患の原因となる代表的な桿菌の種類として、結核菌と呼ばれる細菌の種類と、そうした結核菌と同じマイコバクテリウム属に分類される細菌の一種にあたるらい菌と呼ばれる細菌の種類の具体的な特徴についても順番に詳しく考察していきたいと思います。
マイコバクテリウム属に分類される細菌の免疫細胞であるマクロファージへの寄生
まず、冒頭でも述べたように、
こうした結核菌とらい菌と呼ばれる二つの細菌は、両方とも同じマイコバクテリウム属と呼ばれる細菌の種族に分類される細菌の種類であり、
こうしたマイコバクテリウム属(Mycobacterium)に分類される細菌は、本来は病原菌を殺す役割を担うはずの免疫細胞であるマクロファージに寄生して、その内部において増殖していくことができるという機能を持った極めて特殊な性質を持った細菌の種族として位置づけられることになると考えられることになります。
そして、
こうしたマイコバクテリウム属に分類される細菌は、マクロファージの内部に寄生したのち、通常の場合は、他の免疫細胞の働きによって、感染を受けたマクロファージごと破壊されることによって体内から排除されていくことになるため、人体に対する感染力は比較的低い細菌の部類に含まれることになると考えられることになるのですが、
その一方で、
免疫力が低下している場合には、細菌がそうした本来は細菌を攻撃するはずの免疫細胞を拠点として逆に増殖していってしまうことになるので、
こうしたマイコバクテリウム属に分類される細菌によって引き起こされる細菌感染症は、いったん体内の免疫細胞の内部において定着してしまった細菌を抗生物質といった外部からの薬剤の働きなしに、人間が持つ自然な免疫力だけで根治させていくことは極めて困難な感染症としても位置づけられることになると考えられることになるのですが、
結核菌の具体的な特徴と肺結核と腸結核と脊椎カリエスの症状
そして、こうしたマイコバクテリウム属に分類される結核菌とらい菌と呼ばれる二つの細菌の種類のうち、前者の
結核菌(Mycobacterium tuberculosis、マイコバクテリウム・ツベルクローシス)とは、幅0.3~0.5マイクロメートル、長さ1~4マイクロメートルくらいの大きさをした鞭毛を持たない棒状の形状をしたグラム陽性の好気性桿菌に分類される細菌の一種であり、
主に、患者の咳などを通じた飛沫感染によって感染を広げていく病原菌の種類として位置づけられることになります。
そして、
こうした結核菌によって引き起こされる細菌感染症である結核においては、飛沫感染によって呼吸器へと侵入した結核菌が肺やリンパ節において感染を広げたうえで、肺組織を破壊していくことによって、肺の内部に空洞を伴う病巣を形成していくことになり、
それによって、全身の倦怠感や食欲不振、体重減少、37℃前後の微熱といった全身症状と共に、咳や喀血といった呼吸系の症状が引き起こされていくことになる肺結核が引き起こされていくことになるほか、
血流を介して結核菌が全身の様々な部位へと運ばれていくことによって、
消化器官に侵入した結核菌が腸内に潰瘍性の炎症を引き起こしていくことにより、腹痛や下痢や発熱、さらには、腸閉塞や穿孔といった症状などが引き起こされることもある腸結核や、
脊椎を含む骨組織に侵入した結核菌が骨組織を侵食して壊死されていってしまうことによって、脊髄損傷や歩行障害、感覚神経の圧迫による激痛といった症状が引き起こされる脊椎カリエスといった結核の症状が引き起こされるケースもあると考えられることになるのです。
らい菌の具体的な特徴とハンセン病における抗生物質による完全な治療法の確立
そして、それに対して、後者の
らい菌(Mycobacterium leprae、マイコバクテリウム・レプラエ)とは、幅0.2~0.5マイクロメートル、長さ1~8マイクロメートルくらいの大きさをした鞭毛を持たない棒状の形状をしたグラム陽性の好気性桿菌に分類される細菌の一種であり、
感染力は非常に低いものの、免疫力の弱い乳幼児期などや、らい菌を多く保有している未治療の患者との頻回にわたる濃厚な接触などがあった場合などには、飛沫感染や外傷を介した接触感染などによって感染を広げていくケースがあると考えられることになります。
そして、
こうしたらい菌によって引き起こされる細菌感染症であるハンセン病においては、らい菌によって皮膚や末梢神経の細胞において病変が進んでいくことによって、
3年から20年にもおよぶ長期にわたる潜伏期間の後に、皮膚の表面に隆起性の紅斑や丘疹や結節などが現れたのち、
皮膚組織の破壊や知覚異常、顔面や手足の変形や欠損といった症状が進行していってしまうことになると考えられることになるのですが、
その一方で、
こうしたハンセン病と呼ばれる細菌感染症は、現代においては、半年から長くても2~3年におよぶ適切な抗生物質の内服治療によってほぼ確実に完治させることが可能な治療法が完全に確立した感染症としても位置づけられることになると考えられることになるのです。
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