植物性の自然毒の代表的な種類とは?④ジャガイモや大豆といった日常的な食用植物に含まれる代表的な毒性成分と薬理作用
このシリーズの初回から前回までの一連の記事で書いてきたように、
有毒植物の代表的な種類として挙げられることになるトリカブト、ドクウツギ、ドクゼリ、ドクニンジン、チョウセンアサガオ、キョウチクトウ、イヌサフラン、スイセン、ヒガンバナ、イラクサ、ジキタリスといった植物に含まれる毒物の種類としては、
アコニチン、コリアミルチン、シクトキシン、コニイン、アトロピン、スコポラミン、ヒヨスチアミン、オレアンドリン、コルヒチン、アニサチン、リコリン、アセチルコリン、ジギトキシン、ジゴキシンといった毒性成分の種類が挙げられることになるのですが、
このシリーズの最後の回にあたる今回の記事では、
そうした一般的な有毒植物とは別に、通常の場合は、食用植物として用いられることが多い日常的な植物として位置づけられていると考えられるジャガイモや大豆、ウメやギンナンといった植物のうち含まれている毒物の種類について順番に取り上げていきたいと思います。
ジャガイモに含まれるソラニンと大豆に含まれるサポニンの毒性成分としての働きのあり方の違い
⑮ソラニン
まず、今回の記事ではじめに取り上げる毒物の種類であるソラニン(Solanine)とは、ジャガイモの新芽やイヌホオズキといった、ナス科の植物に含まれることが多い毒性成分の種類であり、
こうしたジャガイモの芽や皮の部分などを食べすぎると、ソラニンが持つ神経系への毒性や溶血作用によって、嘔吐や腹痛や下痢、頭痛やめまい、さらには、頻脈や血圧の低下といった中毒症状が引き起こされてしまう危険性があると考えられることになります。
そして、特に、家庭菜園などにおいて用いられることが多い小型のジャガイモの品種の場合には、皮や可食部に含まれているソラニンの濃度が高いケースが多く、こうしたソラニンと呼ばれる毒物は、加熱調理などの熱によってもほとんど分解されないため、
食用とする場合には、ソラニンが多く含まれている芽や皮の部分は取り除いて、包丁などで皮を切り取った後にはよく断面を洗い流したうえで、あまり大量には食べないようにするといった処置が必要となると考えられることになります。
⑯サポニン
そして、その次に挙げるサポニン(Saponin)は、スミレやパンジーといった花などのほかに、大豆(だいず)や小豆(あずき)、ごぼうといった食用植物のうちにも含まれている毒物の種類であり、
こうしたサポニンと呼ばれる毒性成分は、特に、魚類に対して血液中の赤血球を破壊する溶血作用を示すことによって、漁業における魚毒や毒矢として用いられるケースもあるのですが、
その一方で、こうしたサポニンの毒性は人間に対してはほとんど発揮されず、むしろ、食欲増進や去痰作用や強心作用、さらには、一部の種類には、血糖値上昇を抑制するといった作用もあるとされているため、
こうしたサポニンと呼ばれる毒性成分は、むしろ、人間にとっては薬理作用を持った薬効成分としても位置づけられることになると考えられることになるのです。
青梅や銀杏に含まれる毒性成分と植物性の自然毒における毒性と薬理作用のバランス
⑰アミグダリン
そして、その次に取り上げるアミグダリン(Amygdalin)は、ウメやモモ、ビワやアンズさらにはアーモンドといったバラ科の植物に多く含まれている天然の有毒物質であるシアン化合物の一種であり、
アミグダリンは、水と反応することで加水分解して猛毒の青酸を発生させることによって、頭痛やめまいや嘔吐、頻脈や息切れ、さらには、血圧の低下や意識消失から心停止を引き起こして人を死に至らしめることになる青酸中毒を引き起こす危険性のある毒物の種類として位置づけられることになります。
しかし、通常の場合は、果実のうちに含まれているアミグダリンは、果実の成熟の過程において、酵素の働きによって果糖へと変換されていくことになるため、
市販されている果物などの形でこうしたウメやモモなどの果実を食べても前述した青酸中毒のような症状が引き起こされるようなことはまずないと考えられることになるのですが、
その一方で、こうしたアミグダリンが含まれている植物の果実を、青梅(アオウメ)のようなまだ熟していな状態で食べると、まだ果糖へと変換される前の状態にあるアミグダリンの作用を直接受けてしまうことによって、前述した青酸中毒に類するような危険な症状が引き起こされるケースも十分にあると考えられることになるため、
こうしたウメやモモ、ビワやアンズ、アーモンドといった植物の果実や種子を野生で育っているような形でそのまま食べようとする場合には、そうした果実や種子をまだ青くて苦い未熟な状態で食べるのはなるべく避けた方がいいと考えられることになります。
⑱ギンコトキシン
そして、最後に取り上げる植物性の有毒成分の種類であるギンコトキシン(Ginkgotoxin)は、イチョウの木の実や種子の部分に多く含まれている神経毒の成分であり、
こうしたギンコトキシンが多く含まれているイチョウの木の実、すなわち、ギンナン(銀杏)を食べ過ぎると、神経系に対する中毒症状が引き起こされることによって、意識障害やけいれん発作といった症状が現れることがあり、
特に、子供などの場合には、そうした中毒症状の悪化によって死に至る危険性もあるため、食用とする場合にはあまり大量には食べないようにするといった処置が必要となると考えられることになります。
また、その一方で、こうしたギンナンに含まれるギンコトキシンと呼ばれる成分は、前述した大豆などに含まれるサポニンといった成分などと同様に、鎮咳作用や去痰作用といった一定の薬理作用を示すことも分かっているというように、
こうした植物性の自然毒の種類のなかには、人体に対する毒性を示すと同時に、適切な形で適度に用いられる場合には薬として働く場合もあるという毒と薬の両面の作用を持った成分の種類も数多く存在していると考えられることになるのです。
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