植物性の自然毒の代表的な種類とは?③ジギタリスなどの薬用植物やスイセンやヒガンバナなどの鑑賞植物に含まれる毒物の種類
前々回と前回の記事で書いてきたように、日本三大有毒植物として数え上げられるトリカブト、ドクウツギ、ドクゼリといった植物を筆頭に、そのほかにもドクニンジン、チョウセンアサガオ、キョウチクトウ、イヌサフランといった代表的な有毒植物に含まれる毒物の種類としては、
順番に、アコニチンやコリアミルチン、シクトキシン、そして、コニイン、アトロピン、オレアンドリン、コルヒチンといった毒性成分の種類が挙げられることになります。
そして、今回の記事では、
引き続きそうした植物性の自然毒の種類について詳しく考察していくなかで、
スイセンやヒガンバナ、シキミ、イラクサ、ジキタリスといった、一般的にはそれほど有毒植物としての印象が強くない観賞用の植物や薬用植物として用いられることもある植物の内に含まれる毒物の種類についても、順番に取り上げていきたいと思います。
スイセンやヒガンバナといった鑑賞用の植物に含まれる代表的な毒性成分
⑩リコリン
今回の記事のはじめに取り上げる毒物の種類であるリコリン(Lycorine)は、冬から春にかけて白や黄の六弁花を咲かせる細長い葉をした多年草であるスイセン(水仙)や、
朱紅色の細長い花びらが反り返るような形で放射状につき、その先に雄しべが突出して伸びていくという独特の形をした花を咲かせる別名ではマンジュシャゲ(曼珠沙華)とも呼ばれる多年草であるヒガンバナ(彼岸花)などの植物に含まれている毒成分であり、
こうしたスイセンやヒガンバナといった観賞用の植物としても用いられることの多い有毒植物に含まれているリコリンと呼ばれる毒物は、ほかの植物性の自然毒の種類と比べて毒性自体はそれほど高くはないとはされているものの、
激しい嘔吐などの消化器系の症状を引き起こしたのち、大量に摂取してしまった場合などには、中枢神経系の麻痺が引き起こされることによって命に関わるケースもあると考えられることになります。
ちなみに、
スイセンが持つ細長い葉は、食用の植物であるニラ(韮)とよく似ているため、誤食した場合などに食中毒の症状を引き起こすケースが多いと考えられることになるのですが、
スイセンの場合には地下茎の部分にチューリップのような球根が見られるのに対して、ニラの場合にはそうしたスイセンに見られるような球根のような構造は存在せず地下の部分はそのまますぐにひげ根になっているといった点に大きな違いが見られることになるというように、
野生の植物などを食用として用いる際には、そうした植物全体の特徴に細かく注意することによって、ニラのような食用植物と、スイセンのような有毒植物を正確に見分けていくことが重要となると考えられることになるのです。
⑪アニサチン
そして、その次に挙げるアニサチン(Anisatin)は、仏前に供える香木として用いられることもある日本や中国の山地などに広く自生するシキミ(樒)という常緑小高木に含まれている毒成分であり、
シキミの実は中華料理の香辛料として用いられることが多いトウシキミの実(八角)と色や形が似ているため、しばしば誤食などによって食中毒を引き起こすケースがあり、
こうしたシキミの実に多く含まれるアニサチンと呼ばれる毒物は、おう吐や腹痛、下痢といった消化器系の症状を引き起こしたのち、中毒症状が悪化するとけいれんや意識障害などを引き起こすことによって死亡してしまうケースもある毒性の強い自然毒の種類として位置づけられることになります。
薬用植物であると同時に有毒植物でもあるイラクサやジキタリス
⑫アセチルコリン
そして、その次に取り上げるアセチルコリン(Acetylcholine)は、日本では関東から西側の山地などに広く自生シソの葉のような葉をつける多年草であるイラクサ(刺草、蕁麻)の茎や葉のとげの部分に含まれている毒成分であり、
蕁麻疹(じんましん)という言葉の由来は、もともと、イラクサ(蕁麻)の葉に触れることによって強い痒みを伴う発疹が生じることからこうした言葉が用いられるようになったと考えられることになるのですが、
その一方で、こうしたイラクサと呼ばれる植物は、アレルギー症状や呼吸器系の症状改善などに効果があるとされる薬用ハーブのような形で薬用植物として用いられることもあります。
そして、
こうしたイラクサが持つ毒性成分であるアセチルコリンと呼ばれる化学物質は、人間の副交感神経において用いられている神経伝達物質でもあり、具体的には血管拡張作用によって血圧の低下や、脈拍を遅くするといった作用を示すことになるのですが、
こうしたアセチルコリンと呼ばれる化学物質を大量に摂取してしまった場合には、おう吐や手足のふるえ、徐脈や血圧の低下、呼吸困難といった中毒症状が引き起こされる危険性があると考えられることになります。
⑬ジギトキシン、⑭ジゴキシン
また、その次に挙げたジギトキシン(Digitoxin)とジゴキシン(Digoxin)と呼ばれる化学物質は、どちらも、紅紫色の花をつけるヨーロッパ原産の多年草であるジギタリスに含まれている強心作用をもつ薬効成分であり、
こうしたジギタリスに含まれているジギトキシンやジゴキシンといった成分は、ジギタリス製剤などとして、心不全の治療などにおいて特効薬となる強心剤としても用いられることになるのですが、
その一方で、
こうしたジギトキシンやジゴキシンといった成分の強心作用が過度に、あるいは、不適切な形で働いてしまった場合には、頭痛やめまい、おう吐といった副作用のほかに、不整脈や動悸といった循環器症状をかえって悪化させてしまうケースもあるため、
こうしたジギトキシンやジゴキシンといった成分を含んでいるジキタリスと呼ばれる植物は、強心剤としても用いられる薬用植物であると同時に、不整脈や心臓発作を引き起こす危険性もある有毒植物としても位置づけられることになると考えられることになるのです。
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前回記事:植物性の自然毒の代表的な種類とは?②ドクニンジンやチョウセンアサガオといったその他の代表的な有毒植物に含まれる毒成分
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