食中毒の原因となる寄生虫の代表的な種類とは?①アニサキスとクドアとサルコシスティスの特徴と感染の予防方法
このシリーズの初回から前回までの一連の記事で書いてきたように、
日本国内において発生している食中毒の大部分、より具体的に言えば、患者数にして9割以上の食中毒は、細菌やウイルスといった病原体が原因となって引き起こされていると考えられることになるのですが、
逆に言えば、残りの1割くらいの食中毒については、そうした細菌やウイルスといった一般的な病原体以外の別の病原微生物や病因物質によって引き起こされていると考えられ、
例えば、
厚生労働省の食中毒統計において実際に提示されている病因物質の具体的な項目のなかには、こうした細菌やウイルスといった病原体のほかにも、寄生虫と化学物質そして自然毒といった項目が挙げられています。
そこで、今回の記事では、
こうした細菌やウイルスといった一般的な病原体以外で食中毒の原因となる様々な病原微生物や病因物質のなかでも、そうした食中毒の原因となる寄生虫や原虫の代表的な種類について、詳しく取り上げていきたいと思います。
アニサキスが原因となる食中毒の症状の特徴と感染の予防方法
まず、
冒頭でも触れた厚生労働省の食中毒統計において提示されている食中毒の原因となる寄生虫の項目のなかで挙げられている具体的な寄生虫の種類としては、
アニサキスとクドアそしてサルコシスティスという全部で三種類の寄生虫の名が挙げられているのですが、
このうち、はじめに挙げたアニサキス(Anisakis)とは、体長2~3センチメートルくらいの細長いひも状の形状をした魚介類に寄生する寄生虫であり、
イカやアジやカツオ、サバやサケやタラやニシンといった様々な魚介類の内臓や魚肉に寄生しているアニサキスの幼虫を加熱処理や冷凍処理が不十分なまま食べた場合などに食中毒の原因となると考えられることになります。
そして、
こうしたアニサキスと呼ばれる寄生虫は、通常の食中毒の病原体とは異なり腸ではなく胃に寄生する場合が多く、アニサキスが人間の胃に寄生した胃アニサキス症においては、食後数時間という比較的短期間のうちに激しい腹痛やおう吐といった症状が引き起こされることになります。
また、
こうした魚介類のうちに寄生しているアニサキスの幼虫は、60℃で1分以上の加熱処理だけではなくマイナス20℃以下で24時間以上の冷凍処理などによっても死滅させることができるため、
刺身や寿司などの魚介類の生食においては、一度十分な冷凍処理を施しておいてから改めて解凍した魚肉などを使用することによって確実な感染予防を行うことができると考えられることになるのです。
クドアが原因となる食中毒の症状の特徴と感染の予防方法
そして、
その次に挙げたクドア(Kudoa)とは、ヒラメやマグロなどの魚類に寄生する粘液胞子虫(ねんえきほうしちゅう)に分類される寄生虫の一種であり、
特に日本国内においては、クドア・セプテンプンクタータ(Kudoa septempunctata)と呼ばれる寄生虫の種族がヒラメの刺身などを介して食中毒を発生させるケースが多数報告されていて、
こうしたクドアを原因とする食中毒においては、食後数時間たってから一過性の下痢やおう吐といった比較的軽症の食中毒の症状が引き起こされることになります。
また、
こうしたクドアによる食中毒の予防のためには、前述したアニサキスの場合と同様に、加熱処理または冷凍処理などが有効であり、
クドアの場合には、75℃で5分以上の加熱あるいはマイナス20℃以下で4時間以上の冷凍によって完全に死滅させることができると考えられることになります。
<h3>サルコシスティスが原因となる食中毒の症状の特徴と感染の予防方法</h3>
そして、
最後に挙げたサルコシスティス(Sarcocystis)そのなかでもサルコシスティス・フェアリー(Sarcocystis fayeri)と呼ばれる寄生虫の種族は、イヌやウマといった哺乳類に寄生する肉胞子虫(にくほうしちゅう)または住肉胞子虫(じゅうにくほうしちゅう)に分類される寄生虫の一種であり、
日本国内においては犬肉を食べることはまずないと考えられるので、実際には馬肉の刺身などを食べる場合などにこうしたサルコシスティス・フェアリーを病原体とする食中毒が発生するケースがあると考えられることになります。
そして、
サルコシスティスを原因とする食中毒においては、食後数時間たってから一過性の下痢やおう吐や腹痛といった消化器の症状が引き起こされることになるのですが、
こうしたサルコシスティスによる食中毒の予防のためには、前述したアニサキスの場合と同様に、加熱処理または冷凍処理などが有効であり、
サルコシスティスの場合には、70℃で15分以上の加熱あるいはマイナス20℃以下で24時間以上の冷凍が必要となると考えられることになるのです。
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次回記事:食中毒の原因となる寄生虫の代表的な種類とは?②クリプトスポリジウムとサイクロスポラとランブル鞭毛虫の特徴と予防方法
前回記事:ノロウイルスとノーウォークウイルスはどちらが正しい名称なのか?ウイルス学に属名と種名の違いに基づく定義
このシリーズの前回記事:E型肝炎ウイルスによる食中毒の症状と感染経路、食中毒の原因となる代表的な五つのウイルスの種類と具体的な特徴とは?⑤
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