腸管出血性大腸菌に分類される代表的な七つの細菌の種類とは?②O111とO157による集団食中毒の具体例と後遺症の問題
前回の記事で書いたように、急性腎不全や溶血性貧血や血小板減少症といった重篤な全身症状を引き起こす可能性のある腸管出血性大腸菌感染症の原因となる代表的な細菌の種類としては、
O26、O103、O104、O111、O121、O145、O157といった七種類の腸管出血性大腸菌のタイプが挙げられることになるのですが、
今回の記事では、
前回取り上げたO26とO103とO121とO145、そして、O104という五つのタイプの腸管出血性大腸菌によって引き起こされた食中毒事件の具体例に続いて、
残りのO111とO157という二つのタイプの腸管出血性大腸菌によって引き起こされた食中毒事件の具体例についても順番に取り上げていきたいと思います。
O111が原因となって発生した日本国内における食中毒事件の具体例
まず、
こうしたO111とO157と呼ばれる腸管出血性大腸菌のタイプは、両方とも、日本国内においても一定数の死者を出してきた腸管出血性大腸菌のなかでもより危険性の高いグループに分類される細菌の種族であると考えられることになるのですが、
このうちの前者であるO111によって引き起こされた具体的な食中毒事件の代表的な事例としては、
例えば、
2011年に富山県と福井県と神奈川県の三県にまたがる形で同じ系列の焼き肉店において牛肉の生肉を用いた韓国料理であるユッケを食べた客に感染が広がったO111による集団食中毒事件が挙げられることになります。
そして、この食中毒事件では、
最終的に、O111による感染者数は181人にまでのぼり、そのうち6歳から14歳までの子供3人を含む5人の死者を出してしまうという2000年代に入ってからの日本国内における飲食店の食中毒事件としては最大規模の死者数が発生してしまうことになるのですが、
この事件をきっかけとして、日本国内においては焼肉店や韓国料理店におけるユッケなどの生肉を使った料理の提供の自粛が進んでいくことになり、
その後は、厚生労働省といった行政のレベルにおいても、こうした牛肉の生肉や生レバーといった食材についての提供禁止を義務づけるようなより厳格な規制が進められていくことになっていったと考えられることになるのです。
O157が原因となった日本国内における大規模な集団食中毒の代表的な事例
そして、それに対して、
最後に挙げるO157と呼ばれる腸管出血性大腸菌のタイプは、こうしたO26、O103、O104、O111、O121、O145、O157といった七種類の代表的な腸管出血性大腸菌のタイプのなかでも、最も腸管出血性大腸菌感染症の原因となる割合が高い細菌のタイプであり、
こうした腸管出血性大腸菌感染症と呼ばれる感染症のおよそ80%はこうしたO157と呼ばれる腸管出血性大腸菌の種族によって引き起こされていると考えられることになります。
そして、
こうしたO157が原因となることによって引き起こされた具体的な集団食中毒事件の事例としては、日本国内において死者を出した事例だけに限っても十件ちかくにものぼる数多くの事例が挙げられることになるのですが、
その中でも最も代表的な事例としては、
1996年に大阪府堺市の学校給食を介して小学生を中心に感染を広げていき、最終的に9492人の感染者と3人の死者を出したO157による集団食中毒事件が挙げられることになり、
この事件は、感染者数がほぼ1万人にもおよぶというほとんど他の食中毒事件においては類を見ない戦後の日本国内における最大の食中毒事件として位置づけられることになります。
また、この事件については、
事件当時に小学1年生の女子児童であり、上述した学校給食を介したO157による集団食中毒によって後遺症として腎機能に障害を抱えることを余儀なくされていた女性が、
事件が起こってからほぼ20年もの時が過ぎた2015年になって、O157による感染の後遺症である腎血管性高血圧の悪化によって意識不明の状態となり、その後死亡していたということもその後の報道によって伝えられています。
そして、そういった意味では、
こうした1996年の大阪府堺市の小学校給食におけるO157の集団食中毒の事例からは、
O157に代表されるような腸管出血性大腸菌によって引き起こされる集団食中毒の規模の大きさや、腸管出血性大腸菌感染症による直接的な死者数といった点における危険性だけではなく、
たとえ、
そうした腸管出血性大腸菌による感染によって直接的にはその場で死に至るようなことはなかったとしても、
その後もこうした感染症によって引き起こされる腎障害や脳障害あるいは腎動脈性の高血圧といった命に関わる重篤な後遺症をかかえることによって、感染者のその後の人生に深刻な悪影響をおよぼす危険性があるといった観点からも、
こうしたO157を筆頭とする腸管出血性大腸菌によって引き起こされる集団食中毒に対しては、万全の上にも万全を尽くすような徹底的な予防対策が求められることになると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:日本国内におけるO157を病原菌とする食中毒事件の歴史とは?1990年から2017年までの代表的な事例、O157の病原体史①
前回記事:腸管出血性大腸菌に分類される代表的な七つの細菌の種類とは?①O26、O103、O121、O145とO104の集団感染の具体例
「医学」のカテゴリーへ