腸管出血性大腸菌に分類される代表的な七つの細菌の種類とは?①O26、O103、O121、O145とO104の集団感染の具体例
前回の記事で書いたように、免疫学的な識別指標の違いのあり方を意味する血清型のタイプに基づく大腸菌の分類においては、
こうした大腸菌と呼ばれる細菌の種族は、1万通りにもおよぶ血清型のタイプへと細分化されていくことになります。
そして、
そうした1万種類にもおよぶ大腸菌の種類のなかでも、ベロ毒素(VT毒素)と呼ばれる人体に対する強力な毒性を持った毒素を生産することによって、
急性腎不全や溶血性貧血や血小板減少症といった重篤な全身症状を引き起こす可能性のある最も危険な大腸菌の種類は、
腸管出血性大腸菌(EHEC)に分類されることになる
O1、O2、O5、O18、O25、O26、O55、O74、O91、O103、O104、O105、O111、O113、O114、O115、O117、O118、O119、O121、O128、O143、O145、O153、O157、O161、O165、O172
という全部で28種類の血清型のタイプをもった大腸菌の種族に限定されることになると考えられることになるのですが、
こうした28種類の血清型のタイプに分類される腸管出血性大腸菌のなかでも、上述したような重篤な全身症状を引き起こす危険性がある腸管出血性大腸菌感染症の原因となる代表的な細菌の種類としては、
O26、O103、O104、O111、O121、O145、O157といった全部で七種類の腸管出血性大腸菌のタイプが挙げられることになります。
O26、O103、O121、O145が原因となって発生した日本国内における食中毒事件の具体例
こうした七種類の腸管出血性大腸菌のタイプのうち、O26、O103、O121、O145という四種類の腸管出血性大腸菌のタイプについては、
日本国内においてもしばしばこうした大腸菌のタイプによる食中毒事件が発生しているものの、現在までのところ、ほとんど死亡例は報告されていないと考えられ、
上記の四種類の腸管出血性大腸菌によって引き起こされた具体的な食中毒事件の例としては、
例えば、
2003年に横浜市の幼稚園の給食において園児を中心に141人の食中毒患者を発生させたO26による集団食中毒や、
2006年に新潟市の焼肉店において8人の患者を発生させたO26による食中毒事件、
2012年に福岡市の保育園において園児を中心に14人に感染を広げたO145による集団感染、
2013年に足立区の保育園において合計8人の患者を発生させたO26とO103が複合した集団感染、
比較的最近のケースでは、
2018年9月に、長野県のハンバーガーショップでハンバーガーやフライドポテトと介して感染が広がり4人の食中毒患者を発生させたO121による食中毒事件
などが挙げられることになりますが、
上記の食中毒事件のいずれのケースにおいても死亡例の報告はなされていません。
O104が原因となった腸管出血性大腸菌感染症のヨーロッパにおける大規模感染の具体例
それに対して、
O104による腸管出血性大腸菌感染症については、日本国内よりはヨーロッパなどの海外において広範囲に影響をおよぼす集団感染の事例が報告されていて、
例えば、
2011年に発生したドイツを中心に感染を広げたO104による大規模な集団感染事件においては、
ドイツ北部のハンブルクやブレーメンといった都市から、オーストリア、デンマーク、オランダ、フランス、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリスといったヨーロッパ全域へと集団感染が拡大していき、
最終的には、
成人女性を中心に3950人が感染し、53人が死亡するという腸管出血性大腸菌の集団間感染の事例のなかでもまれに見る多くの死者数を出してしまうことになります。
ちなみに、
こうしたヨーロッパにおける大規模感染の原因となったO104は、
本来は、腸管凝集性大腸菌(EAEC)と呼ばれるもともとは別の大腸菌の種族に分類されていた細菌のタイプが、腸管出血性大腸菌(EHEC)と融合して変異することによって生まれた新種の腸管出血性大腸菌であると考えられていて、
そうした変異の過程において、強毒性を持ったベロ毒素の生産能力と、既存の抗生物質への耐性を獲得してしまったために、このような深刻な被害の拡大へとつながってしまうことになったと考えられることになるのです。
・・・
次回記事:腸管出血性大腸菌に分類される代表的な七つの細菌の種類とは?②O111とO157による集団食中毒の具体例と後遺症の問題
前回記事:血清型のタイプに基づく大腸菌の1万通りの種類とは?腸管出血性大腸菌における血清型の分類とO157との関係
「医学」のカテゴリーへ