細菌とウイルスの違いとは?生物と無生物そしてDNAとRNAといった五つの具体的な特徴の違い
せきや発熱、のどの痛みや胃腸炎といった様々な症状を引き起こす感染症の原因となる主要な病原体の種類としては、細菌とウイルスという二つの種類が挙げられることになりますが、
こうした細菌とウイルスと呼ばれる二つの病原体の種類は、その定義や性質において、互いに大きく異なった特徴をもつ存在として捉えられることになります。
それでは、
こうした細菌とウイルスの両者における具体的な特徴の違いとしてはどのような点を挙げていくことができると考えられることになるのでしょうか?
①増殖や複製の方法の違いとエネルギーや物質の代謝の有無
まず、
こうした細菌とウイルスと呼ばれる二つの存在においては、自分自身の子孫を増やしていくという増殖や複製のあり方に大きな違いがあると考えられ、
前者の細菌においては、動物や植物といった他の生物たちと同様に、自分自身の細胞の内部において自分にとって必要な様々な物質の合成やエネルギーの生産といった代謝活動が行われていったうえで、
そうした細菌の細胞が栄養が十分な環境において一定の大きさにまで成長すると、細胞内で遺伝子の複製が行われたのち、通常の場合、一つの個体が二つの個体へと分離する分裂と呼ばれる無性生殖の方式において増殖が進んでいくことになります。
そして、それに対して、
後者のウイルスの場合においては、そうした細菌などにおいてみられるような自分自身の内部におけるエネルギーや物質の代謝といった活動は一切みられずに、
まずは宿主となる細胞の内へとウイルスが寄生して入り込んで細胞の遺伝情報を書き換えたのち、そうした宿主細胞に無理やり自分自身のウイルス粒子の複製を行わせることによって自分の仲間を増やしていくことになるのです。
②DNAやRNAといった遺伝子の構造の違い
そして、
前述したような細菌やウイルスにおける増殖や複製のあり方においては、そうした増殖や複製の過程において設計図となる遺伝子の構造にも大きな違いがみられることになり、
細菌の遺伝子の構造は、動物や植物といった他の生物たちと同様に、DNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる二重らせん構造によって構成されているのに対して、
ウイルスの場合には、天然痘ウイルスなどに代表されるように一部のウイルスの種類においては細菌と同様にDNAを遺伝子として用いているDNAウイルスも存在するものの、
多くのウイルスの種類は、そうした遺伝子の構造がRNA(リボ核酸)と呼ばれる一重らせん構造や線状や環状の構造によって構成されるRNAウイルスに分類されることになります。
③細菌における細胞膜とウイルスにおけるカプシドといった構造の違い
そして、
こうした細菌とウイルスの両者においては、DNAやRNAといった遺伝子の構造以外の点においても、様々な構造の違いがみられることになり、
例えば、
細菌においては、自分自身と外部とを隔てている境界は細胞膜と呼ばれるリン脂質を主成分とする生体膜によって仕切られているのに対して、
ウイルスにおいては、そうした細胞における細胞膜のような構造は存在せず、ウイルス粒子の外部との境界はカプシドと呼ばれるタンパク質の殻によって仕切られていて、
一部のウイルスにおいては、さらにその外側にエンベロープと呼ばれる膜状の構造などを形成するケースもあります。
また、
そうした細菌の細胞膜あるいはウイルスのカプシドの内部における細菌やウイルスの本体となる部分においても、
細菌においては、前述したように細胞内においてエネルギーや物質の代謝といった様々な生体活動を営んでいくために必要なリボソームや栄養素貯蔵構造あるいは細胞質内封入体やガス胞といった様々な複雑な構造体が形成されていくことになるのですが、
それに対して、
そうしたエネルギーや物質の代謝といった生体活動を一切行うことがないウイルスにおいては、自分自身と外部とを隔てるカプシドの内側には、ほとんどただぽつんと自らの遺伝情報を担うDNAやRNAといったウイルス核酸が存在するだけという非常に単純でコンパクトな構造をしていると考えられることになるのです。
④細菌の細胞とウイルス粒子の大きさの違い
そして、
こうした細菌とウイルスにおける細胞膜およびカプシドの内部における細胞構造やウイルス構造の違いのあり方は、そのまま細菌やウイルスにおける大きさの違いにも直結していくことになると考えられ、
具体的には、
一般的な細菌の平均的な大きさは、だいたい0.5~5マイクロメートル(0.0005~0.005mm)程度であるのに対して、
一般的なウイルスの平均的な大きさはだいたい20~600ナノメートル(0.00002~0.0006mm)程度であるというように、
通常の場合、
ウイルス粒子の大きさよりも細菌の細胞の大きさの方が少なくても十倍くらいは大きいと考えられることになるのです。
⑤生物としての細菌と無生物としてのウイルスの違い
そして、最後に、
こうした細菌とウイルスと呼ばれる二つの存在を分け隔てている最も重要な特徴の違いとしては、
前者の細菌と呼ばれる存在が細胞膜や細胞質などを備えた原核生物に分類される生物であるのに対して、後者のウイルスと呼ばれる存在はそもそも生物ですらなないということが挙げられることになります。
以前に「ウイルスは生物か無生物か?」の記事のなかで詳しく考察したように、
ウイルスは、生物学における一般的な生物の定義として位置づけられる四つの要件のうち、
「自己と外界との境界」と「自己複製」という二つの要件は満たすのに対して、「エネルギーと物質の代謝」と「恒常性」という二つの要件は満たしていないので、
生物学的な意味においては、ウイルスは生物と無生物の中間に位置する存在として捉えられることになるか、
あるいは、上記の四つの要件のすべてを満たすという厳密な定義に基づくならば、それはむしろ生物ではなく無生物にあたる存在として位置づけられることになると考えられることになるのです。
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以上のように、
こうした細菌とウイルスと呼ばれる感染症の原因となる二つの病原体の種類のそれぞれにおける具体的な特徴の違いについてまとめると、
①細菌は自分自身の細胞の内部においてエネルギーや物質の代謝をおこなったうえで分裂によって増殖していくのに対して、ウイルスは自分自身ではエネルギーや物質の代謝を一切おこなわずに寄生した宿主細胞にウイルス粒子を複製させることによって自分の仲間を増やしていく。
②細菌の遺伝子構造はすべてDNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる二重らせん構造によって構成されているのに対して、ウイルスの遺伝子構造はDNA(デオキシリボ核酸)を遺伝子として用いるDNAウイルスとRNA(リボ核酸)を遺伝子として用いるRNAウイルスという二つのパターンに分かれる。
③細菌は細胞膜と呼ばれる生体膜の内部にリボソームや栄養素貯蔵構造といった様々な複雑な構造を形成するのに対して、ウイルスはカプシドと呼ばれるタンパク質の殻の内部にウイルス核酸が存在するだけの非常に単純でコンパクトな構造をしている。
④細菌の平均的な大きさは0.5~5マイクロメートル(0.0005~0.005mm)程度であるのに対して、ウイルスの平均的な大きさは20~600ナノメートル(0.00002~0.0006mm)程度であるというようにウイルス粒子の大きさよりも細菌の細胞の大きさの方が少なくても十倍くらいは大きい。
⑤細菌が細胞膜や細胞質などを備えた原核生物に分類される生物であるのに対して、ウイルスは生物と無生物の中間に位置する存在であるという意味において厳密な意味においては無生物の側に分類される。
という全部で五つの主要となる特徴の違いを挙げることができると考えられることになるのです。
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次回記事:抗生物質と抗ウイルス薬の違いとは?病原体への攻撃方法の具体的な特徴の違い
前回記事:抗菌薬と抗真菌薬の違いとは?「細菌に対抗する薬」と「キノコに対抗する薬」の違い
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