抗菌薬と抗真菌薬の違いとは?「細菌に対抗する薬」と「キノコに対抗する薬」の違い
前回の記事で書いたように、感染症の治療においては、細菌が原因となる感染症である細菌感染症の治療に用いられる薬剤に対しては抗菌薬や抗生物質という言葉が用いられるのに対して、
カビなどの真菌が原因となる感染症である真菌症の治療に用いられる薬剤に対しては、一般的に、抗菌薬ではなく抗真菌薬という言葉が用いられることになります。
しかし、その一方で、
細菌にしても真菌にしてもどちらも同じ「菌」という言葉が用いられているように、菌類に分類される真菌によって引き起こされる真菌症の治療薬についても、細菌感染症の治療薬と同様に、一見すると抗菌薬という言葉を用いてもいいようにも思えてしまうことになるのですが、
それでは、なぜ、こうした真菌症の治療薬に対しては、通常の場合、抗菌薬という言葉が用いられずに、あえて抗真菌薬という抗菌薬からは区別された別々の名称が用いられることになっていると考えられることになるのでしょうか?
「細菌に対抗する薬」と「キノコに対抗する薬」の違い
こうした抗菌薬と抗真菌薬という感染症の治療薬のことを意味する二つの言葉の具体的な意味の違いについては、それぞれの言葉の原語となる言葉の大本の由来をたどっていくことで明らかになると考えられ、
そうすると、まず、
こうした二つの言葉のうちの前者である抗菌薬という言葉は、英語におけるantibacterial drug(アンチバクテリアル・ドラッグ)といった言葉の訳語にあたる言葉であり、
英語においてantibacterial(アンチバクテリアル)とは、「反対」や「対抗」といった意味を表す接頭辞であるanti(アンチ)に、「細菌」を意味するbacteria(バクテリア)という単語が結びついてできた言葉、
すなわち、「細菌に対抗する薬」といった意味を表す言葉であると考えられることになります。
そして、それに対して、
こうした二つの言葉のうちの後者にあたる抗真菌薬という言葉は、英語におけるantifungal drug(アンチファンガル・ドラッグ)といった言葉の訳語にあたる言葉であり、
英語においてantifungal(アンチファンガル)とは、「反対」や「対抗」といった意味を表す接頭辞であるanti(アンチ)に、「菌」や「真菌」を意味するfungus(ファンガス)という単語が結びついてできた言葉ということになります。
このように書くと、
結局、英語に直してみても、抗真菌薬という言葉のうちには「菌」に相当する言葉が含まれているので、あまり訳した意味がないのではないか?と思われることになりますが、
こうした英語におけるfungus(ファンガス)という言葉の大本の語源は、さらに、ラテン語におけるfungus(フングス)という同じつづりの単語にまでさかのぼることができ、
こうしたラテン語におけるfungus(フングス)という言葉は、その言葉自体の本来の意味においては、「キノコ」のことを意味する言葉であったと考えられることになります。
つまり、
こうしたラテン語における大本の語源となる意味にまでさかのぼっていくと、抗真菌薬すなわちantifungal drugという言葉は、その大本の意味においては「キノコに対抗する薬」といった意味を表す言葉として解釈することができると考えられることになるのです。
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以上のように、
抗菌薬と抗真菌薬という二つの言葉においては、どちらにも同じ「菌」という言葉が含まれているとはいっても、
前者の抗菌薬における「菌」という言葉は、バクテリア(bacteria)すなわち細菌のことを意味しているのに対して、
後者の抗真菌薬における「菌」という言葉は、フングス(fungus)すなわちキノコあるいはその同類にあたるカビや酵母といった生物の種族のことを意味しているといった点に、
両者における言葉自体としての具体的な意味の違いがあると考えられることになるのです。
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