抗生物質と抗ウイルス薬の違いとは?病原体への攻撃方法の具体的な特徴の違い

前回の記事で書いたように、人体における様々な感染症を引き起こす原因となる主要な病原体の種類としては、細菌とウイルスという二つの病原体の種類が挙げられることになるのですが、

こうした感染症の治療に用いられる薬剤のうち、前者の細菌を対象として用いられる薬剤は抗生物質や抗菌薬と呼ばれるのに対して、後者のウイルスを対象として用いられる薬剤は抗ウイルス薬や抗ウイルス剤といった名前で呼ばれることになります。

そして、通常の場合、

こうした抗生物質や抗ウイルス薬と呼ばれる薬剤は細菌とウイルスの両方に対して同時に効果を発揮することはなくどちらか一方のみを標的として用いられることになるのですが、

それでは、

こうした抗生物質と抗ウイルス薬という二つの薬剤の種類においては、病原体となる細菌やウイルスに対する攻撃方法のあり方に具体的にどのような特徴の違いがあると考えられることになるのでしょうか?

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細菌を標的とする抗生物質による細菌の弱点部分への直接的な攻撃

そうすると、まず、

こうした細菌とウイルスという二つの病原体の種類のうち、前者の細菌に対して効果を発揮する薬剤である抗生物質や抗菌薬は、具体的にどのような形で病原菌を攻撃していると考えられるのか?ということについてですが、

例えば、

こうした抗生物質の代表格にあたる結核などの治療薬として用いられることで有名なペニシリンという抗生物質の場合、

人体の細胞には存在しない細菌に特有の組織であるペプチドグリカンを主成分とする細菌の細胞壁の合成を阻害することによって、人体の内部において細菌が増殖していくのを抑制し、病原菌を死滅へと導いていくことになります。

また、

現代においても一般的に広く用いられている抗生物質の種類であるテトラサイクリンマクロライドと呼ばれる系統の抗生物質の種類においては、

細菌の細胞内においてタンパク質の合成を担っている細胞小器官にあたる細菌特有のリボソームに標的を定めて攻撃を行い、細菌のタンパク質合成を阻害することによって病原菌を死滅へと導いていくことになります。

このように、

細菌を標的とする薬剤である抗生物質や抗菌薬は、

人体の細胞にはあまり大きな影響を与えずに、細菌の細胞のみに作用するような固有の部分、すなわち、細菌の弱点となる部分を直接的に突くことによって、その効果を発揮していると考えられることになるのです。

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抗ウイルス薬によるウイルスの自己複製のプロセスに対する間接的阻害

そして、それに対して、

後者のウイルスに対して効果を発揮する薬剤である抗ウイルス薬は、具体的にどのような形で病原性をもつウイルスを駆除していくことになると考えられるのか?ということについてですが、

例えば、

インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染症であるインフルエンザの治療薬として有名なタミフルリレンザといった抗ウイルス薬は、

細胞の内部に潜り込んで増殖したインフルエンザウイルスが細胞の外部へと飛び出していく際に用いられるノイラミニダーゼと呼ばれる酵素の働きを阻害することによって、ウイルスのさらなる増殖を抑制していくことになります。

また、

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)によって引き起こされる感染症であるAIDS(エイズ、後天性免疫不全症候群)の治療薬として用いられるAZT(アジドチミジン)あるいはZDV(ジドブジン)と呼ばれる抗ウイルス薬の場合には、

細胞の内部に潜り込んだHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が自らの遺伝子を複製するときに用いる逆転写酵素と呼ばれる酵素の働きを阻害することによって、ウイルスの増殖活動における一連のプロセスのうちの一部を阻害していくことになります。

このように、

細菌と比べても極めて微小で単純な構造をした病原体であるウイルスの場合には、細菌の場合のように病原体のみに存在する固有な弱点のようなものをウイルス粒子の内部に見つけ出すことは非常に困難であると考えられるため、

こうしたウイルスを標的とする薬剤である抗ウイルス薬においては、通常の場合、

ウイルスの本体自体を攻撃するのではなく、人体の細胞内に寄生したウイルスが自己複製をおこなう一連の過程のうちの一部を邪魔することによって、間接的に人体の内部でウイルスがさらなる感染拡大を進めていくのを抑制するという形でその効果が発揮されていくことになると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

こうした抗生物質と抗ウイルス薬と呼ばれる二つの薬剤の種類の具体的な特徴の違いとしては、

抗生物質や抗菌薬といった細菌を対象として用いられる薬剤は、人体の細胞にはあまり大きな影響を与えずに細菌の細胞のみに強く作用するような細菌の弱点となる部分を直接的に突くことによってその効果を発揮しているのに対して、

抗ウイルス薬と呼ばれるウイルスを対象として用いられる薬剤は、ウイルスの本体自体を攻撃するのではなく、人体の細胞内に寄生したウイルスが自己複製をおこなう過程を間接的に阻害することによってその効果を発揮している

といった点を挙げることができると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:細菌とウイルスを同じ薬で両方いっぺんに死滅させることはできないのか?消毒薬と抗生物質やウイルス薬における機能の違い

前回記事:細菌とウイルスの違いとは?生物と無生物そしてDNARNAといった五つの具体的な特徴の違い

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