カントの道徳哲学を象徴する三つの名文とは?『実践理性批判』の全体像を語る二つの定式と一つの結びの言葉

このシリーズの初回から前回までの一連の記事では、カントの倫理学における集大成となる思想が記された書物である『実践理性批判』のなかで語られている道徳哲学の議論に関わる様々な概念やそうした思想が端的な形で示されている核となる文言について順番に取り上げてきましたが、

今回の記事では、こうした一連の記事の総まとめとして、

『実践理性批判』において記されているカントの道徳哲学を象徴する三つの名文を再び順番に取り上げていく形で、

そうした『実践理性批判』におけるカントの道徳思想の全体の内容を概観していきたいと思います。

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カントの道徳思想を象徴する二つの普遍的な道徳法則についての定式

まず、

『実践理性批判』比較的冒頭部分に近い箇所にあたる第一部第一篇の第一章においては、

「汝(なんじ)の意志の格率(かくりつ)が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当するように行為せよ」

という純粋実践理性の根本法則と呼ばれる定式が提示されていくことになりますが、上記の『実践理性批判』における言葉においては、

人間の意志における格率すなわち人間の行動における主観的な原理のあり方は、それが定言命法に基づく普遍的な道徳法則によって規定される限りにおいて普遍的に妥当する客観的な原理のあり方へと高められていくことになり、

そうした人間の意志に基づくあらゆる行為は、それが定言命法に基づく普遍的な道徳法則に一致する行為である時においてのみ絶対的かつ客観的に善なる行為として認められることになるということが語られていると考えられることになります。

そして、

その後しばらくこの書物を読み進めていくと、今度はこの書物の中盤の議論にあたる第一部第一篇の第三章において、

「汝(なんじ)の人格と他者の人格の内なる人間性を手段としてのみではなく常に同時に目的として扱うように行為せよ」

という上述した純粋実践理性の根本法則第二の定式としても位置づけられることもある目的の王国の定式といった言葉として有名な文言が語られていくことになり、

そこでは、

自己と他者の人格の内にある理性的な存在者としての人間性の理念は、それが普遍的な道徳法則の主体となる神聖な存在であるという意味において、

単に手段としてのみ利用されるのではなく目的としても互いに最大限に尊重されていくべき存在であるということが示されていくことによって、

一人ひとりの人間が互いに相手の人格を最大限に尊重し合うことによって、その人の心の内なる人間性が十分に発揮されるように互いに助け合っていくという生き方こそが、

カントの道徳哲学において求められている真に道徳的な善なる生き方であるということが明かされていくことになるのです。

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『実践理性批判』の終幕を飾る普遍的な道徳法則への畏敬と賛美の言葉

そして、

上述した二つの文言に象徴されるような『実践理性批判』において示されているカントの道徳哲学における義務倫理学の基盤となる道徳原理のあり方についての一連の議論を経たうえで、

この書物の最終盤の場面にあたる書物全体の最後を飾る結びの言葉においては、

「ここに、我々がそれについて長い時をかけて思念を重ねていくごとに、以前にも増して新たな感嘆と畏敬の念をもって我々の心を満たし続ける二つのものがある。それは、我が頭上に輝く星空と、我が心の内なる道徳律である。」

というカントが語る彼が自らの哲学思想の内において最終的に見いだすに至った普遍的な道徳法則への最大限の畏敬と賛美の言葉をもって、この書物はその終幕を迎えることになるのです。

・・・

以上のように、

こうしたカントの主著の内の一つとして数え上げられる『実践理性批判』と題される書物において語られているカントの道徳哲学における核となる思想のあり方は、

「汝の意志の格率が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当するように行為せよ」

「汝の人格と他者の人格の内なる人間性を手段としてのみではなく常に同時に目的として扱うように行為せよ」

「新たな感嘆と畏敬の念をもって我々の心を満たし続ける二つのものがある。それは、我が頭上に輝く星空と、我が心の内なる道徳律である

という二つの普遍的な道徳法則についての定式と、そうした普遍的な道徳法則への最大限の感嘆と賛美の想いが記された一つの結びの言葉という三つの名文によってその全体像が示されていくことになると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:放線菌とは何か?カビやキノコのような真菌類と細菌類の中間に位置する生物の種族である放線菌の具体的な特徴と代表的な種類

前回記事:カントの哲学思想における魂の不死を示唆する記述、『実践理性批判』の結びの言葉における叡智者としての人間の来世への展開

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