定言命法とは何か?ドイツ語における具体的な定義とカントの『実践理性批判』における具体例
前回の記事で書いたように、カントの倫理学においては、道徳法則における命法、すなわち、命令の形式のあり方は、
仮言命法と定言命法と呼ばれる二つの命令の形式のあり方に区分されていく形で捉えられていくことになり、
そのうちの前者である仮言命法においては、命令の前提として「~の場合には」「~するためには」といった仮定や条件が含まれていくことになります。
それでは、それに対して、
後者にあたる定言命法と呼ばれる命令形式のあり方は、ドイツ語における定義や、カント自身の著作の内における記述においては、具体的にどのような概念として捉えられていくことになるのでしょうか?
ドイツ語における定言命法の意味とその概念が示す具体的な意味内容
まず、
定言命法(kategorischer Imperativ、カテゴリッシャー・インペラティフ)とは、
ドイツ語において「無条件の、断固とした」という意味を表すkategorisch(カテゴリッシュ)と、「命令法、規則」を意味するImperativ(インペラティフ)が合わさってできた言葉であると考えられることになります。
そして、
こうした定言命法においては、
仮言命法におけるような仮定や条件は含まれずに「~せよ」「~すべし」という端的な形で命令が下されていくことになるのですが、
つまり、そういった意味では、
こうした定言命法と呼ばれる命令の形式においては、命令を実行することによって得られる結果や成果といったほかのいかなる要素とも無関係に、
ただその命令に従うということ自体が目的となる無条件な形で道徳的な命令が実行されていくことになると考えられることになるのですが、
カントの『実践理性批判』における定言命法にあたる命題の具体例
そして、
カントの主著のうちの一つである『実践理性批判』においては、こうした定言命法にあける具体的な命題の例としては、
「あなたは決して偽りの約束をすべきではない」すなわち「嘘の約束をしてはならない」
という例が挙げられているのですが、
こうした例の場合でも、
それがもし、「嘘の約束をしてばかりいると社会的な信用を失ってしまい結局は自分にとっても損になってしまうので嘘の約束はしない方がいい」といった理由でこうした道徳的な規則についての言及がなされているとするならば、
それは、もしもあなたが「社会的な信用を失うのが嫌」ならば「嘘の約束はしてはならない」というように命題の前半に条件節が加わった仮言命法に基づく単なる処世術のようなものとして位置づけられることになってしまうと考えられることになります。
しかし、それに対して、
こうした「嘘の約束をしてはならない」といった命題が、そうした損得勘定といったあらゆるほかの要素とは無関係に、それ自体として実行すべき道徳的な行為として語られているとするならば、
その場合、そうした命題は、定言命法に基づく道徳法則として位置づけられることになると考えられることになるのです。
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以上のように、
定言命法(kategorischer Imperativ)とは、
ドイツ語における意味においては、「無条件の命令形式」や「断固とした規則」のことを意味する言葉であると考えられることになります。
そして、
こうした定言命法と呼ばれる命令の形式においては、
他のいかなる要素も前提や条件とせずに、「~せよ」「~すべし」という端的な形で命令が下されていくことになり、
命題の内容は他のいかなる存在の手段ともされずにそれ自体が目的としてのみ規定されることによって、
それ自体がそれ自身のみによって無条件で善となる道徳法則として位置づけられていくことになるという点に、
こうした定言命法と呼ばれる命令形式のあり方の具体的な特徴があると考えられることになるのです。
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次回記事:カントの『実践理性批判』における仮言命法と定言命法の定義と唯一の普遍的な道徳法則としての定言命法の位置づけ
前回記事:仮言命法とは何か?ドイツ語における具体的な定義とカントの『実践理性批判』における具体例
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