直接推論と間接推論の違いとは?演繹的推論の二つの分類とそれぞれの推論のあり方の具体例
「演繹法と帰納法の違い」の記事で書いたように、
演繹(deduction、ディダクション)という推論のあり方は、その対義語である帰納(induction、インダクション)と呼ばれる推論のあり方との対比においては、
前提となる一般的な理論や普遍的な概念からの必然的な論理展開によって、個別的な概念や具体的な事実を導き出す推論のことを意味する言葉として捉えられることになります。
しかし、こうした演繹と呼ばれる推論のあり方は、もともとは、古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスが「論理学」(オルガノン)において示したシュロギスモス(syllogismos)と呼ばれる推論の形式に由来をもつ概念であるように、
演繹的推論とは、より正確には、前提となる命題からの必然的な論理展開のみによって結論が導き出される必然的な推論のあり方すべてのことを意味する概念であると考えられることになります。
そして、こうした演繹的推論と呼ばれる推論のあり方は、推論の前提となる命題の数に応じて、
直接推論(直接推理)と間接推論(間接推理)と呼ばれる二つの推論の種類へと分類することができると考えられることになるのです。
直接推論と間接推論の違いと、直接推論(直接推理)の具体例
演繹的推論における直接推論と間接推論と呼ばれる推論の分類のあり方の違いは、主として推論に用いられる前提の数の違いに求められることになり、一言でいうと、
直接推論(直接推理)とは、一つの前提となる命題から直接的に結論が導き出される推論のあり方を意味するのに対して、
間接推論(間接推理)とは、二つ以上の前提となる命題から段階的に結論が導き出される推論のあり方を意味すると定義づけられることになります。
こうした直接推論と間接推論というそれぞれの推論の分類における具体的な推論のあり方を示すとすると、
例えば、
「すべての神は不死である」という前提となる命題からは、直接的に、「ある(特定の一人の)神は不死である」といった結論を必然的に導き出すことができると考えられることになりますが、
こうした推論のあり方は、
前提:すべての神は不死である。
結論:ある(特定の一人の)神は不死である。
という形式によって成り立つ推論として捉えることができるので、それは、一つの前提となる命題から直接的に結論が導き出される直接推論(直接推理)に該当する推論であると考えられることになります。
他にも直接推論にあたる推論のあり方の具体例を挙げるとするならば、
例えば、
「人間の命には限りがある」という命題からは、「人間は不死ではない」という結論を必然的に導き出すことができると考えられることになりますが、
こうした推論のあり方も、
前提:人間は死すべきものである。(命に限りがある)
結論:人間は不死ではない。
という一つの前提から直接的に結論が導き出される直接推論に該当する推論であると考えられることになるのです。
間接推論(間接推理)の具体例と、無限個の前提から成る間接推論としての数学的帰納法
それに対して、
間接推論(間接推理)と呼ばれる推論のあり方においては、二つ以上の前提からの段階的な推論によって結論が導き出されることになりますが、
こうした演繹的推論における間接推論の典型例である三段論法においては、
例えば、
「すべての生物は死すべきものである」と「すべての人間は生物である」であるという前提となる命題から、「すべての人間は死すべきものである」という結論が必然的に導き出されることになります。
そして、こうした推論のあり方は、
前提①:すべての生物は死すべきものである。
前提②:すべての人間は生物である。
結論:すべての人間は死すべきものである。
という形式によって成り立っている推論として捉えることができるので、それは、二つの前提となる命題から段階的に結論が導き出される推論、すなわち、二つ以上の前提から結論が導き出される間接推論(間接推理)に該当する推論であると考えられることになります。
また、
以前にも「数学的帰納法が論理学的な意味における帰納法ではない理由」の記事で、
数学における数学的帰納法と呼ばれる推論のあり方が、論理学的には帰納法ではなく演繹法に分類される推論であることを示しましたが、
こうした数学的帰納法と呼ばれる推論においては、n=1で成り立つものが、n=kで成り立つとき、n=k+1でも成り立つことを示すことによって得られる連鎖的な証明によって与えられる無限個の前提からの必然的な推論によって命題全体の証明がなされていると考えられることになります。
したがって、
こうした数学的帰納法と呼ばれる推論のあり方は、より正確には、1からnまでの無限個の前提からの推論によって構成される間接推論にあたる演繹的推論であると捉えることができると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
演繹的推論とは、一言でいうと、前提となる命題からの必然的な論理展開のみによって結論が導き出される必然的な推論のあり方すべてのことを意味する概念であると考えられることになります。
そして、こうした論理学における必然的な推論としての演繹的推論は、その推論の前提となる命題の数に応じて、直接推論(直接推理)と間接推論(間接推理)と呼ばれる二つの推論の種類へと分類することができ、
直接推論(直接推理)においては、一つの前提のみから直接的に結論が導き出されるのに対して、
間接推論(間接推理)においては、二つ以上の前提から段階的に結論が導き出されるという点に、
両者の推論のあり方の具体的な違いがあると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:換位・換質・換質換位の三つの推論形式の違いと具体例、直接推論に分類される推論の形式①
前回記事:三段論法(シロギズム)の語源とは?アリストテレスにおける演繹的推論としてのシュロギスモスの定義
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