換位・換質・換質換位の三つの推論形式の違いと具体例、直接推論に分類される推論の形式①
前回書いたように、論理学における演繹的推論とは、前提となる命題からの必然的な論理展開のみによって結論が導き出される必然的な推論のあり方のことを意味する概念であり、
こうした必然的な推論としての演繹的推論には、推論の前提となる命題の数の違いに応じて、直接推論(直接推理)と間接推論(間接推理)と呼ばれる二つの推論の種類があり、
そのうちの、前者である直接推論(直接推理)とは、一つの前提のみからの必然的な論理展開によって直接的に結論が導き出される推論のあり方であると捉えられることになります。
そして、こうした直接推論(直接推理)と呼ばれる推論の代表的な種類としては、
前提となる命題を論理的に妥当な形式へと変換することによって新しい意味内容を持った命題を導き出す推論のパターンと、
同じ主語と述語をもった量と質の異なる二つの命題の間で成立する対当関係と呼ばれる命題の真偽についての普遍的な関係から判断を導き出す推論のパターンという
大きく分けて二種類の直接推論のパターンが挙げられることになるのですが、
前者の論理的に妥当な命題の変換形式のパターンとしては、主として、換位・換質・換質換位と呼ばれる三つの推論形式が挙げられることになります。
換位・換質・換質換位の三つの推論形式の違いと具体例
直接推論における論理的に妥当な命題の変換形式のパターンとして挙げられる換位・換質・換質換位と呼ばれる三つの推論形式は、それぞれ、
換位が、前提となる命題の主語と述語を入れ換えることによって新しい命題を導き出す推論形式を意味するのに対して、
換質とは、前提となる命題の肯定と否定という性質を入れ換えることによって新しい命題を導き出す推論形式を意味していて、
換質換位とは、こうした換質と換位と呼ばれる両者の命題の変換形式が同時に用いられる推論形式のことを意味していると考えられることになります。
そして、こうした換位・換質・換質換位と呼ばれる三つの推論形式における具体的な推論のあり方を順に示していくと、それは以下のようになります。
・・・
まず、換位と呼ばれる推論形式が用いられる直接推論の例としては、
例えば、「すべての天使は不死である」という前提となる命題から、「不死なるものの内のいくらかのものは天使である」という結論を導き出すような推論、すなわち、
前提:すべての天使は不死なるものである。
結論:いくらかの不死なるものは天使である。
といった構成で成り立っているような推論が挙げられることになります。
こうした推論においては、
前提では主語となっていた「天使」という概念が結論では述語として位置づけられ、その反対に、前提では述語となっていた「不死なるもの」という概念が結論では主語として位置づけられるというように、
前提となる命題から結論となる命題への推論において、主語となる概念と述語となる概念が入れ換えられる形で新しい意味内容をもった命題が生み出されていると考えられるので、
それは換位と呼ばれる推論形式に基づいた推論のあり方であると捉えられることになるのです。
・・・
次に、換質と呼ばれる推論形式が用いられる直接推論の例としては、
例えば、「心は物質的な存在ではない」という前提となる命題から、「心は非物質的存在である」という結論を導き出すような推論、すなわち、
前提:心は物質的存在ではない。
結論:心は非物質的存在である。
といった構成で成り立っているような推論が挙げられることになります。
こうした推論においては、
前提では「~ではない」という否定の形で示されていた命題内容が、結論では「~である」という肯定の形へと入れ換えられる形で命題の意味内容の変換が行われているというように、
前提となる命題から結論となる命題への推論において、命題の形式が否定形から肯定形へと入れ換えられる形で新しい意味内容をもった命題が生み出されていると考えられるので、
それは換質と呼ばれる推論形式に基づいた推論のあり方であると捉えられることになるのです。
・・・
最後に、換質換位と呼ばれる推論形式が用いられる直接推論の例としては、
例えば、「すべての神は非物質的な存在である」という前提となる命題から、「すべての物質的存在は神ではない」という結論を導き出すような推論、すなわち、
前提:すべての神は非物質的存在である。
結論:すべての物質的存在は神ではない。
といった構成で成り立っているような推論が挙げられることになります。
こうした推論においては、
前提となる命題である「すべての神は非物質的存在である」という命題が換質によって肯定形から否定形へと転換されて、「すべての神は物質的存在ではない」という命題が導き出され、
この「すべての神は物質的存在ではない」という命題がさらに換位によって主語と述語が入れ換えられて、「すべての物質的存在は神ではない」という結論となる命題が導き出されているというように、
前提となる命題から結論となる命題への推論において、換質と換位と呼ばれる推論形式が両方とも用いられる形で新しい意味内容をもった命題が生み出されていると考えられるので、
それは、換質換位と呼ばれる推論形式に基づいた推論のあり方であると捉えられることになるのです。
・・・
以上のように、
直接推論(直接推理)と呼ばれる推論のあり方の代表的な種類のうち、前提となる命題を論理的に妥当な形で変換することによって新しい意味内容を持った命題を導き出す推論のパターンとしては、その代表例として、
換位と換質、そして、換質換位と呼ばれる全部で三つの推論形式が挙げられることになります。
そして、
換位においては、主語と述語という命題内の概念の位置が入れ換えられることによって新しい命題を導き出されるのに対して、
換質においては、肯定と否定という命題内容の性質が入れ換えられることによって新しい命題を導き出されていて、
換質換位においては、換質と換位と呼ばれる両者の推論形式が同時に用いられることによって新しい命題が導き出されているという点に、
換位・換質・換質換位と呼ばれる三つの推論形式の具体的な違いがあると考えられることになるのです。
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次回記事:全称・特称と肯定・否定という量と質の違いに基づく四種類の命題区分、論理学における量と質の意味とは?
前回記事:直接推論と間接推論の違いとは?演繹的推論の二つの分類とそれぞれの推論のあり方の具体例
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