キノコは植物なのか?②三つの生物学的な定義に基づくキノコの分類のあり方

前回書いたように、日常的な意味においては、動物と植物という二つの言葉が持つ意味の最も大きな違いは、

動物は運動能力を持って自由に動き回るのに対して、植物は運動能力を持たずにずっと一定の場所に固着して生活するという運動能力の有無という点に求められることになります。

そして、

キノコ(茸)とは、運動器官を持たずに、他の動植物の遺体や、生きている木々などに取り付いて、じっとその場にとどまったまま成長していくという生活を営んでいる生物のことを意味する言葉ということになるので、

こうした動物と植物という言葉の日常的な意味に基づくと、

キノコは、動物よりも植物に分類する方がより適切な分類のあり方となると考えられることになります。

しかし、その一方で、

より厳密な生物学的な定義においては、植物という概念は、以下で述べるような三つの性質をあわせ持った存在として捉えられることになり、

そうした生物学的な定義に基づくと、キノコと呼ばれる生物体の分類のあり方についても上記のようなものとはまったく異なる見解が導き出されることになると考えられることになります。

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植物という概念の三つの生物学的な定義とキノコの分類のあり方

植物という概念生物学的な定義について列挙していくと、

例えば、

代謝と生殖は行う運動器官や感覚器官は持たず一定の場所に固着して生活していて、細胞膜の外に細胞壁を持ち、

光合成を行うことによって自らの生存に必要な有機物をすべて自分で合成することができる独立栄養生物にあたるといった様々な性質を並べていくことができると考えられることになりますが、

こうした生物学における一連の植物の定義のあり方は、以下のような三つの定義のあり方へと集約することができると考えられることになります。

それは、

運動性を持たない(動かない)
細胞壁を持つ
光合成を行う

という三つの定義です。

そして、

キノコは、確かに、運動器官を持たずに同じ場所にとどまったまま生活を営んでいて、そうした自らの生物体の構造を支えるために、キノコの本体である菌糸を構成する細胞はすべて丈夫な細胞壁によって覆われているという点においては、

上記の植物の三つの定義のうちの前半の二つの定義は満たしていると考えられることになるのですが、

その一方で、

他の動植物の遺体や、生きた木々に取り付いたり寄生したりすることによって自らの生命を維持している従属栄養生物であるキノコには、光合成を行うことによって自分だけで独立して有機物を合成するような能力は存在しないと考えられるので、

そうした意味においては、キノコは、上記の植物の三つの定義のうちの最後の一つの定義を満たしているとは言えないと考えられることになります。

つまり、

キノコは、こうした植物という概念の三つの生物学的な定義の内の二つは満たしていても一つの定義は満たしていないという点において、

厳密な意味においては、植物に分類することはできないと考えられることになるのです。

ちなみに、

一般的な生物学的な分類においては、植物という概念の下位区分としては、

種子植物シダ植物コケ植物、そして、藻類という大きく分けて四つの種族が位置づけられることになりますが、

例えば、

このうちの一種族であるコケ植物は、キノコと同じように胞子によって生殖を行う生物ではあるものの、

コケ植物は運動能力を持たずに細胞壁を持つだけではなく、しっかり光合成も行って必要な有機物の合成を自分の力でまかなっているというように、

こうした生物学的な分類としての植物の下位区分に位置づけられる生物の種族たちは、種から芽を出して花をつける一般的な植物にあたる種子植物はもちろん、シダ植物コケ植物あるいは、水中で生育する藻類ですら、みなすべて光合成を行う能力を持っていて

上述した生物学的な意味における植物という概念の三つの定義のすべてを満たしたうえで、そうした生物学的な定義に基づく植物の下位区分として位置づけられていると考えられることになります。

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以上のように、

生物学的な意味においては、植物という概念の定義は、

運動性を持たない(動かない)
細胞壁を持つ
光合成を行う

という三つの定義へと集約されていくことになり、

こうした植物という概念生物学的な定義に基づくと、

キノコは、①動かない②細胞壁を持つ、という二つの定義は満たしているものの、③光合成を行うという最後の一つの定義は満たしていないという意味において、

植物には分類することができない生物体のあり方をしていると考えられることになります。

そして、以上のような一連の考察を踏まえると、

キノコと呼ばれる生物体の分類のあり方は、

自由に動き回る生物を動物として捉え、ずっと一定の場所にとどまって動かない生物を植物として捉える日常的な意味においては、キノコは植物に分類することができると考えられることになるのに対して、

より厳密な生物学的な定義のあり方に基づくと、

カビやキノコといった真菌類や、細菌や粘菌なども含めた生物の一群を動物とも植物とも異なる一つの生物のグループを菌類として独立されたうえで、

キノコは、そうした動物にも植物にも分類することができない菌類といった第三のグループに属する生物として捉える方が、生物学的にはより適切な分類のあり方であると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:菌類と植物の違いとは?動物と植物の中間に位置する存在としての菌類と、キノコと種子植物を区別する三つの具体的な特徴

前回記事:キノコは植物なのか動物なのか?①日常的な意味における動物と植物の区別とキノコの分類のあり方

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