帰納と演繹と仮説形成という三つの推論の関係とは?あらゆる学問における普遍的な理論形成の源となる三つの推論の働き
前回書いたように、人間の日常生活における常識的な認識や、物理学や天文学といった自然科学などの一般的な学問分野においても幅広く用いられている推論の形式である帰納的推論は、
それが偶然的な要素を含む経験的事実の集積によって直接的に導かれる推論である以上、それ自体としては不確実で蓋然的な推論にとどまる推論のあり方であると考えられることになります。
そして、そうした不確実で蓋然的な推論である帰納的推論を、より確実で必然的な推論である演繹的推論へと結びつける推論のあり方として、
仮説形成(アブダクション)と呼ばれる第三の推論の形式が求められることになると考えられることになるのです。
帰納と演繹と仮説形成という三つの推論の関係とは?
詳しくは「仮説形成(アブダクション)と帰納的推論(インダクション)の違い」の記事で書いたように、
仮説形成(アブダクション)とは、一言でいうと、
経験的事実や実証的事実の集積から、そうした事実を成り立たせている原因へとさかのぼっていく形で推論が進められ、それによって、事実を合理的に説明するための仮定となる理論を導き出そうとする推論のあり方であると考えられることになります。
例えば、前回取り上げた「太陽は東から昇って西へ沈む」といった日常的な認識を例に挙げて考えてみるとするならば、
上記の認識において、実際に太陽が東から昇って西へと沈んでいく様子を日々観測し続けたうえで、そうした経験的事実や観測データの集積だけから直接的に「太陽は東から昇って西へ沈む」という一般的な法則についての推論がなされる場合、
それは、偶然的な要素を含む経験的事実の集積のみから一般的な結論や法則を導き出そうとする帰納的推論にとどまることになると考えられることになります。
しかし、それに対して、
仮説形成と呼ばれる推論の場合には、一度、「太陽は東から昇って西へ沈む」という経験的事実が実際に生じる一歩手前の段階にまでさかのぼったうえで、
そうした事実が生じているのはいったいなぜなのか?という経験的事実や実証的事実が生じるための原因や条件となる前提についての推論を行われていくことになります。
上記の例でいうならば、「太陽は東から昇って西へ沈む」という経験的事実が成立することを合理的に説明するための理論として、天動説や地動説といった仮説理論が考え出されることになり、
そうして導き出された様々な仮説理論は、それが本当に現実に生じている現象をうまく説明することができるのかを確かめる実証的な検証を通じて、より合理性と確実性の高い仮説形成が進められていくと考えられることになります。
例えば、
前回、帰納的推論の限界を示すための一例として取り上げた北極や南極付近の高緯度の地方においてしばらくの期間太陽が沈まない状態でいるのが観測される白夜といった例外的な現象についても、
それは、地動説における地球が自転する際の地軸の傾きによって合理的に説明できると考えられることになりますが、
このように、
仮説形成によって導き出された仮説理論については、その理論自体についての実証面での検証が進められていくと同時に、
今度は、そうした仮説形成によって得られた新たな前提となる理論からの必然的な論理展開である演繹的推論によって、改めて現実に生じている現象の合理的な説明がなされていくことになると考えられることになります。
つまり、物理学や天文学といった自然科学の学問分野における法則や理論は、
個別的な事例や実証的事実の集積のみから直接的に一般的な法則を導き出そうとする帰納的推論の段階から、
そうした帰納的推論における結論を成り立たせている原因や条件にまでさかのぼって推論を行う仮説形成によって、事実を合理的に説明するための仮説理論が形成されていくことになり、
そうして導き出された仮説理論に基づいて演繹的推論が進められていくことによって、改めて現実に生じている様々な現象や事実が偶然的なものではなく、必然的な存在であることが解き明かされていくと考えられることになるのです。
あらゆる学問における普遍的な理論の源となる三つの推論の働き
以上のように、
実験や観察にも続く経験的事実の集積から、直接的に一般的な理論や普遍的な結論を導き出そうとする帰納的推論によって得られた理論や法則は、演繹的推論におけるような必然性を満たさない蓋然的で暫定的なものにとどまる法則であると考えられることになるのですが、
こうした帰納的推論によって得られた暫定的な法則からは、仮説形成(アブダクション)と呼ばれる推論の働きによって、そうした経験的事実を合理的に説明するための仮説理論が導き出されることになり、
そうして得られた仮説理論に基づく演繹的推論によって、現実に生じている様々な現象や事実が改めて必然的に導き出されることによって、
学問における論理的整合性を十分に満たした一つの普遍的な理論が完成することになると考えられることになります。
つまり、そういう意味においては、
それ自体としては確実性の程度が劣る蓋然的な認識としかなり得ない帰納的推論は、仮説形成(アブダクション)と呼ばれる推論を経ることによって、より必然性の高い推論の形式である演繹的推論へと結びつけられることになり、
こうした帰納と演繹そして仮説形成という三者の推論の働きによって、あらゆる学問における普遍的な理論の形成が進められていくことになる考えられることになるのです。
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次回記事:類推(アナロジー)の語源とは?数学用語としてのアナロギアと古代ギリシア哲学における意味の変遷
前回記事:帰納的推論と演繹的推論における推論の確実性の度合いの違い、帰納的推論が常に蓋然的な認識にとどまり続ける理由とは?
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