類推(アナロジー)の語源とは?数学用語としてのアナロギアと古代ギリシア哲学における意味の変遷
日本語においては類推(るいすい)、あるいは、類比(るいひ)と訳される論理的な推論のあり方は、英語においては、analogy(アナロジー)という言葉で表現されることになりますが、
こうした類推(アナロジー)と呼ばれる論理学上の概念は、もともとは、古代ギリシア語やラテン語におけるanalogia(アナロギア)という言葉に由来する概念であると考えられることになります。
そこで今回は、こうした類推あるいは類比と呼ばれる論理学上の概念の直接的な語源となった古代ギリシア語やラテン語におけるアナロギア(analogia)という言葉が、もともとどのような意味と由来をもった言葉であったと考えられるのか?ということについて詳しく考えてみたいと思います。
数学用語としてのアナロギアと古代ギリシア哲学における意味の変遷
analogia(アナロギア)とは、もともと、古代ギリシア語において、「比例」や「比率」といった意味を表す数学上の用語として用いられていた言葉であり、
例えば、三角形ABCと三角形DEFが相似であるとするならば、それぞれの三角形において互いに対応する二辺AB, BCとDE, EFの間には、
AB:BC=DE:EF という関係が成立するように、
特に、上記のような幾何学図形などにおける四項間において成り立つ比例関係のことを意味するのが、アナロギアという言葉が持つもともとの原義であったと考えられることになります。
そして、
こうした数学上の用語としてアナロギアの概念に基づいて、
紀元前6世紀後半の古代ギリシアの哲学者にして、数学者、さらには宗教家でもあったピタゴラスにおいては、
音楽や天体の運行、さらには、宇宙全体の秩序構造自体が、そうした数的比例関係に基づく、数学的な調和(harmonia、ハルモニア)によって成り立っているとする哲学思想が形づくられていくことになります。
そして、その後の古代ギリシア哲学における思想の展開において、
こうしたもともとは数学的な概念として用いられていたアナロギア(analogia)という言葉は、より広い意味を表す概念として捉え直されていくことになり、
紀元前4世紀のアテナイの哲学者であるプラトンにおける「線分の比喩」と呼ばれる議論においては、
人間における認識のあり方が、四つの認識の間の比例関係、すなわち、アナロギア(類比関係)として捉えられることによって、プラトン哲学の中核をなす思想であるイデア論についての思想が展開されていくことになります。
そして、さらに、プラトンの弟子であるアリストテレスの哲学において、
こうしたアナロギアと呼ばれる概念は、数学においてだけではなく、認識論や倫理学、さらには神学や美学といったあらゆる学問において用いることができる論理的な推論を意味する概念として明確に位置づけられることになり、
こうした古代ギリシア哲学におけるアナロギアの概念がそのまま引き継がれていく形で、ラテン語においても同じanalogia(アナロギア)という単語が、「比率」、「類似」、「類推」といった意味を表す言葉として用いられるようになっていったと考えられることになるのです。
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以上のように、
日本語において類推や類比といった言葉として訳されている英語におけるアナロジー(analogy)という言葉は、
もともと、古代ギリシア語やラテン語におけるアナロギア(analogia)に由来する言葉であったと考えられることになります。
そして、
このアナロギアという言葉自体は、もともと古代ギリシア語において、「比例」や「比率」といった意味を表す数学上の用語として用いられていた言葉であると考えられるのですが、
それが、ピタゴラスやプラトン、アリストテレスといった古代ギリシアの哲学者たちにおける哲学思想の展開のなかで、より広い意味をもつ概念として捉え直されていくことになり、
こうした古代ギリシア哲学におけるアナロギアの意味の変遷を通じて、現代の論理学へもつながるアナロジーの概念、
すなわち、
個々の物事の間に成立する比例関係や類似性に基づいて論理的な推論を行うことを意味する「類推」としてのアナロジーの概念が確立されていったと考えられることになるのです。
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次回記事:言語学における比喩と論理学における類推との関係とは?日常的な比喩表現や文学表現における類推のあり方
前回記事:帰納と演繹と仮説形成という三つの推論の関係とは?あらゆる学問における普遍的な理論形成の源となる三つの推論の働き
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