「アングロ」の意味と由来とは?アングロサクソンとドイツ人との関係
アメリカ大陸を言語圏や文化圏にしたがって分ける概念として、
アングロアメリカ(Anglo-America)とラテンアメリカ(Latin America)という区分がありますが、
こうした「アングロアメリカ」といった言葉における
「アングロ」とは、具体的にどのような意味を表す言葉なのでしょうか?
今回は、
こうした「アングロ」という言葉の意味と由来について考えていくことを通じて、
その語源となっているアングロサクソンという民族の概念が成立した歴史的経緯や、
アングロサクソン人のルーツ(起源、出自)における
ドイツ人との関係についても考えてみたいと思います。
「アングロ」の意味と、イングランドの国名の由来
アングロアメリカ(Anglo-America)という言葉の
“Anglo-“(アングロ)とは、「英語の」「英国の」といった意味を表す接頭辞で、
例えば、
“Anglo-Catholic“(アングロカソリック)と言えば、「英国国教会の信徒」という意味になりますし、
“Anglophile“(アングロファイル)や”Anglophilia“(アングロフィリア)と言えば、「英国びいき、親英家」という意味に、
反対に、
“Anglophobe“(アングロフォブ)や”Anglophobia“(アングロフォビア)と言えば、「英国嫌い、イギリス人恐怖症」という意味にもなります。
それでは、
なぜ、”Anglo-“(アングロ)という言葉が「英国、イギリス人」のことを示すようになったのか?というと、
その由来は、英国本国の中心的な島であるグレートブリテン島の中南部、全体の面積の約3分の2を占めるイングランドが国家として成立していく礎が築かれた時代にまでさかのぼることになります。
「イングランド」(England)という国名の由来は、”England”が
フランス語では”Angleterre“(アングルテール)と呼ばれるように、
それは、もともと、
“Angle“(アングル人)+”terre“(土地)で「アングル人の土地」という意味を表す言葉だったと考えられることになります。
そして、
アングル人は、古代ローマの時代には、現在のデンマークやドイツ北部に位置するユトランド半島南部に住んでいたゲルマン民族の一派であり、
アングル人(Angle)という民族の名前も、もともとは、彼らの故地であるユトランド半島の一部にあたるアンゲルン半島(Angeln)、ラテン語ではアングリア(Anglia)と呼ばれる地名に由来することになるのです。
ブリテン島の征服とアングロサクソン人という概念の成立
そして、
古代ローマ帝国が斜陽の時代にさしかかり、その勢力が後退した隙間を埋めるように
ゲルマン諸部族がヨーロッパ西部へ向けた民族大移動を開始すると、
アングル人は、他のゲルマン民族の一派であるジュート人、サクソン人と共に、
かつてのローマ帝国領であり、当時はすでにその支配権が放棄されていた
ブリタニア、すなわちブリテン島へとその侵攻の矛先を向けることになります。
5世紀頃に、北海(イギリス・オランダ・ドイツ・デンマーク・ノルウェーなどに囲まれた北欧の海)を船で渡ってブリテン島に侵入したアングル人たちは、
この地に長く定住していた先住民族であり、ケルト人の一派であったブリトン人を武力によって圧倒し、彼らの都市を征服すると、
この地に七王国(Heptarchy、ヘプターキー)と呼ばれる諸王国を建国していくことになります。
そして、
七王国を建国した彼らは、
アングル人、ジュート人、サクソン人という3つのゲルマン系諸部族の総称として
アングロ・サクソン人(Anglo-Saxon)と呼ばれるようになり、
このアングロ・サクソン人が現在のイギリス人を構成する主要な民族であるとされることになるのです。
アングロサクソンとドイツ人との関係とは?
また、以上のように、
アングロサクソン人は、デンマークやドイツ北部といった
現在のドイツ語圏の地域に由来を持つ民族であると考えられることになるのですが、
こうした関係から、現在でも、
ドイツを構成する16の連邦州の内の
ニーダーザクセン州(Niedersachsen)、
ザクセンアンハルト州(Sachsen-Anhalt)、
ザクセン州(Sachsen)という
3つの州の名前に”Sachsen“(ザクセン)という
サクソン人(Saxon)に由来する言葉が使われています。
※ちなみに、上記の州のそれぞれの名前については、
ニーダーザクセン州(Niedersachsen)の
“Nieder“(二―ダー)は、ドイツ語で「低地の」という意味であり、
ザクセンアンハルト州(Sachsen-Anhalt)の
「アンハルト」(Anhalt)は、かつてドイツ中部に存在した領邦国家のアンハルト公国に由来する名前ということになります。
ドイツ語の”Sachsen“(ザクセン)とは、
英語で言うと”Saxony“(サクソニー)にあたる言葉であり、
“Saxony”を語源となる構成要素にまで分解すると、
“Saxon“(サクソン人)+”-y“(~から成る、~に満ちた)で
「サクソン人から成る、サクソン人に満ちた土地」という意味になると考えられることになります。
したがって、
上記のドイツ3つの州の名前に含まれる”Sachsen“(ザクセン)という言葉も
もともとは「サクソン人の土地」といったことを意味する言葉であり、
それは、上述したアングロサクソン人を構成する3つのゲルマン系諸部族の内の一部族であるサクソン人(Saxon)に由来する名前であると考えられることになるのです。
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前述したように、
現代では、”Anglo-“(アングロ)と言うと、
イギリス人や英国のことを意味することになり、
アングロサクソン人という概念も、
主にイギリス人のことを指す概念であると捉えられることになるのですが、
以上のように、
現在のイギリス人を構成する主要な民族であり、イングランドという国名の由来ともなっているアングロサクソン人という民族の概念が成立した歴史的経緯をたどっていくと、
それは、デンマークやドイツ北部といった
現在のドイツ語圏の地域に由来を持つ民族であり、
現在でもドイツの州の名前などに、アングロサクソン人を構成する民族の内の一部族であるサクソン人に由来する名前が残されているように、
アングロサクソン人は、そのルーツにおいては、
現在のドイツ語圏の地域やドイツ人と深い関わりを持つ民族でもあるとも捉えられることになるのです。
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関連記事①:ゲルマン民族はどこから来たのか?アーリア人種学説と民族の固有性の基盤、ゲルマン民族興亡史②
関連記事②:アングロアメリカとラテンアメリカの語源と由来とは?ローマ人とラテン人との関係と接頭語と形容詞の違い
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