アングロアメリカとラテンアメリカの語源と由来とは?ローマ人とラテン人との関係と接頭語と形容詞の違い
「メキシコは中米か?北米か?アメリカ大陸の境界線はどこにあるのか?」
で書いたように、
南北アメリカ大陸は、地理上の区分においては、
テワンテペック地峡とパナマ地峡という二つの地峡を境界線として、
北アメリカ(North America、北米)、中央アメリカ(Central America、中米)、南アメリカ(South America、南米)という三つの地域に分けられることになりますが、
それと同時に、
アメリカ大陸における地域分類には、
アングロアメリカ (Anglo-America) とラテンアメリカ(Latin America)という区分の仕方も存在します。
そこで、今回は、
こうしたアングロアメリカとラテンアメリカという言葉の由来と
それぞれの概念に基づくアメリカ大陸の区分のあり方について考えてみたいと思います。
ラテンアメリカの意味と由来、ローマ人とラテン人との関係
ラテンアメリカ(Latin America)とは、アメリカ大陸のメキシコ以南の地域に広がるラテン系の文化圏の地域を指す言葉ですが、
この”Latin“(ラテン系)という言葉の由来は、
究極的には、ローマ人やラテン人の概念にまでさかのぼることができると考えられることになります。
詳しくは「ローマ人とラテン人の違いとは?」で書いたように、
ローマ人とラテン人は、共に、インド・ヨーロッパ語族系民族のイタリック人から派生した民族であり、
はじめは、ラテン人が治めるラティウム地方の一角に住んでいたローマ人は、
次第に、国家として支配領域を拡大していく中で、ラテン人全体をローマのもとへと糾合していくことなり、
最終的には、ローマ人という概念が、ラテン人全体さらには、イタリア半島に居住するイタリア系民族全体を包含する概念へと拡大していくことになります。
そして、
こうしたローマ人ないしラテン人が話していた言語がラテン語であり、
ラテン語に由来する言語が
現代ではロマンス諸語として総称されるフランス語やイタリア語、スペイン語やポルトガル語といったラテン系言語ということになります。
そして、ローマ帝国が滅んでから千年の時を経て、
1492年のコロンブスの西インド諸島上陸による「新大陸」発見に代表される
15世紀以降の大航海時代が訪れると、
スペインやポルトガルといったラテン系言語を話す国家による
アメリカ大陸の植民地支配が進展していくようになり、
それに伴って、特に、スペインのコルテスによって滅ぼされたアステカ帝国が存在していたメキシコ以南のアメリカ大陸において、
ラテン系言語を話す言語圏と、それに基づくラテン系の文化圏が広く形成されていくことになります。
以上のような歴史的経緯から、
スペイン語やポルトガル語といったロマンス諸語、すなわちラテン系言語を話す人々が多く居住し、ラテン系の文化圏広がる地域として
アメリカ大陸のメキシコ以南の地域がラテンアメリカと呼ばれるようになっていったと考えられるのです。
アングロアメリカの意味と由来、接頭語と形容詞の違い
一方、
アングロアメリカ (Anglo-America)という言葉の方は、アメリカ大陸の北方地域にあたるアメリカ合衆国とカナダを中心とする地域を指す言葉であり、
英語を話す人々が多く居住し、イギリス系の文化圏に属する地域のことを指す概念ということになります。
「アングロ」(Anglo-)という言葉の意味と由来については、詳しくは、
「アングロの意味と由来とは?アングロサクソンとドイツ人との関係」で詳しく考察しましたが、
一言で言えば、
“Anglo“とは、現在のイギリスを構成する主要民族とされるアングロサクソン人の内の一部族であるアングル人(Angle)に由来する概念であり、
イギリスやイギリス人のことを指す概念ということになります。
つまり、
アメリカ大陸において、かつて大英帝国の支配下にあったか、あるいは、現在もイギリス連邦に加盟する国家から成る北方アメリカを中心とする英語圏の文化が根付いた地域がアングロアメリカと呼ばれるようになっていったということです。
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ちなみに、
“Latin America“(ラテンアメリカ)という表記で、
“Latin”と”America”の間には半角スペースがあるだけなのに対して、
“Anglo-America“(アングロアメリカ)という表記では、
“Anglo”と”America”という単語の間には”–“(ハイフン)が入っているのには
一応理由があって、
それは、
“Latin“という単語が「ラテン語の」「ラテン系の」といった
通常の形容詞として用いられているのに対して、
“Anglo-“という単語は「英語の」「イギリスの」といった意味を持つ連結語を形成する接頭語として用いられているから、ということがその理由となります。
形容詞が単独の単語として名詞を修飾することができるのに対して、
接頭語は、単独では用いられずに、常に他の語の上に付いて、
その語と一緒になって一つの単語を形成することになるので、
“Anglo-America“という表記においては、間に”–“(ハイフン)が入ることによって、
単語同士が複合名詞(二つの名詞が連結して一つの名詞としての働きを成す名詞)のような形で連結されることによって一つの単語として成立していると考えられるのです。
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以上のように、
ラテンアメリカ(Latin America)とは、大本においては、
ローマ人やラテン人が話していた言語であるラテン語にルーツを持つ概念であり、
スペイン語やポルトガル語といったラテン系言語を話す人々が多く居住する
ラテン系の文化圏が広がるメキシコ以南のアメリカ大陸の地域のことを指す概念ということになります。
それに対して、
アングロアメリカ (Anglo-America)とは、
現在のイギリスを構成する主要民族とされるアングロサクソン人の内の一部族であるアングル人に由来する概念であり、
英語を話す人々が多く居住し、イギリス系の文化圏に属するアメリカ合衆国やカナダといった北方アメリカを中心とする地域を指す概念ということになるのです。
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関連記事①:メキシコは中米か?北米か?アメリカ大陸の境界線はどこにあるのか?
関連記事②:「アングロ」の意味と由来とは?アングロサクソンとドイツ人との関係
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