ミレトス学派とイオニア学派の違い、地理的分類と学説上の分類

哲学タレスからはじまり、
その弟子のアナクシマンドロス
さらに、その弟子のアナクシメネスへと受け継がれていきましたが、

この三人の哲学者たちの
出身地が三人とも揃って

イオニアIonia)地方のミレトスMiletos)だったので、

この最初の哲学である、
世界の始原archeアルケー元となる存在根源的原理)を探究する
自然哲学学派は、

ミレトス学派、または、イオニア学派

と呼ばれるようになりました。

この二つの学派の呼び方
ミレトス学派イオニア学派には、

それぞれどのような意味の違いがあるのでしょうか?

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地理的分類

ミレトス学派とイオニア学派の地理的関係

イオニアとは、

小アジア(現在のトルコ)の南西部
エーゲ海沿岸の地域一帯を指す、地方の名称で、

イオニア地方は、

前10世紀頃から、古代ギリシア人よる入植が進み、
ギリシア人都市国家(ポリス)が建設され、

ギリシア世界とオリエントを結ぶ交通の要衝として、
貿易商業活動によって栄えてきました。

そして、

そのイオニア地方の中心となるギリシア人都市国家の一つが
ミレトスだったのです。

イオニア地方、なかでもその中心都市のミレトスは、

古くから、エジプトバビロニアなどの
オリエントの先進文明と接触し、その思想を取り入れることによって、

文学的神話的思考が発展していき、

そうした流れの中で、
ミレトスタレスにはじまる
最初の哲学の思考が生まれ、

その思考法を継承していくことで、

自然の総体を成り立たせている始原(アルケー、根本原理)を、
論理的思考によって解き明かそうとする、

自然哲学が形成されていきました。

そして、その後、

タレス、アナクシマンドロス、アナクシメネスという
ミレトスの三人の哲学者によって確立された哲学という思考の営みは、

ミレトスという一つの都市国家の枠組みを超えて、

エペソス(エフェソス)のヘラクレイトス

クラゾメナイアナクサゴラス

など、

ミレトス以外の
イオニア地方の諸都市でも、様々な思考をもった
自然哲学者を生んでいき、

イオニア地方全体の思潮として広がっていくことになります。

以上のように、

イオニア地方都市国家ミレトスという
地理上の関係から考えると、

有名な哲学者で言うと、

ミレトス学派に分類されるのは、

都市国家ミレトスの出身者であり、
最初の哲学者たちである

タレスアナクシマンドロスアナクシメネス

三人のみで、

イオニア学派の方には、

その後、哲学の思考がミレトスという一都市国家を飛び越えて
イオニア地方全域に広がった後の哲学者たちも一緒に含めて

タレスアナクシマンドロスアナクシメネスに加えて、

ヘラクレイトスアナクサゴラスアルケラオスなども

分類されるということになります。

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学説上の分類

そして、

ここに地理的条件だけではなく、
学説上の分類も絡めて考えていくと、

イオニア学派の方には、
さらに数名、哲学者の名前を加える余地があることになります。

ミレトスではじまった自然哲学の思考は、

万物の始原アルケー元となるもの、根源的原理)
を探究する論理的思考の営みでしたが、

この

万物の始原元となるものとは何か?

という問いについて、

タレスの、アナクシメネスの空気
といったように、

はじめの三人のミレトスの哲学者たち
答えは、すべて、

万物の始原は一つのものである、

という

始原に関する一元論

であったのに対して、

その後の後期イオニア学派である、

アナクサゴラス(前500年頃~前428年)や、
その弟子であるアルケラオスは、

万物は、純粋な一つのものから派生するのではなく、

多種多様な種子spermataスペルマタ)の
原初的な混合状態から始まる、

と考えました。

つまり、

アナクサゴラスなどの、
後期イオニア学派では、

万物の始原は、一つではなく、複数である、

という

始原に関する多元論

の思考が展開されていったということです。

このように考えると、

イオニア地方の出身ではないが、
アナクサゴラスと同時代の哲学者で、

万物の始原は、

万物の四根」(tessara panton rhizomataテッサラ・パントーン・リゾーマタ
と呼ばれる、

火、空気、水、土の四元素であると考えた、

エンペドクレスなどの
始原に関する多元論者たちも、

学説上の分類では、
イオニア学派に分類できると考えられることになります。

・・・

以上のように、

地理的分類学説上の分類を考え合わせると、

ミレトス学派には、

ミレトス出身で、かつ、
始原に関する一元論を唱えた、

タレスアナクシマンドロスアナクシメネスの三人が分類され、

イオニア学派には、

ミレトス以外も含むイオニア地方の出身の自然哲学者に、さらに、
多元論も含む始原に関する学説を唱えた哲学者も含めて、

タレス、アナクシマンドロス、アナクシメネスに加えて、

ヘラクレイトスエンペドクレスアナクサゴラス、ディオゲネスアルケラオス

が分類されると考えられます。

・・・

関連記事①:「イオニア学派とイタリア学派の地理的関係と学説上の分類
関連記事②:「ソクラテス以前の哲学の四つの学派の学説分類と地理的関係のまとめ

哲学史の概要」のカテゴリーへ

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