ソクラテス以前の哲学の四つの学派の学説上の分類と地理的関係のまとめ
ソクラテス以前の哲学は、
大きな流れとしては、
ミレトスのタレスにおいてはじまった
はじめの哲学であるミレトス学派の哲学の営みが
イオニア地方一帯へと広がってイオニア学派を形成し、
後に、その思想がピタゴラスの西遷を経て
イタリア南部へと伝播してイタリア学派となり、
その中からさらに、
パルメニデスにはじまるエレア学派が生まれるという
一連の流れとして捉えることができます。
これまでの考察で、
ミレトス学派とイオニア学派、
エレア学派とイタリア学派、そして、
イオニア学派とイタリア学派という
それぞれの学派同士の個々の関係については
一通り詳しく考察してきましたが、
今回は、ここでいったん、
ソクラテス以前の哲学の四つの学派の
全体的な関係についてまとめてみたいと思います。
ソクラテス以前の哲学における四つの学派の分類
上記の分類図でまとめたように、
ソクラテス以前の哲学における四つの学派の分類は
イオニア学派の内には、ミレトス学派が位置し、
イタリア学派の内には、エレア学派が位置するという
二つの包含関係の構造において
捉えることができます。
また、
通常、レウキッポスとデモクリトスの原子論(atomism、アトミズム)は、
イオニア学派とイタリア学派の枠組みとは別個の
孤立した哲学として扱われることも多いのですが、
以前に、「原子論とパルメニデスとエレア学派の関係」
で考察したように、
原子論は、エレア学派における存在の概念を捉え直し、
それを新たな方向から論理的に探究していくことによって形成されていったので、
それは、エレア学派やそれが含まれるイタリア学派と
関係が深い哲学理論であると考えられます。
つまり、
原子論は、
エレア学派の一つの延長線上にある思想であり、
広い意味では、イタリア学派に属する哲学として
捉えることもできるということです。
イオニア学派、ミレトス学派、イタリア学派、エレア学派の
各学派の哲学思想の特徴のまとめ
そして、
各学派の学説上の哲学思想の特徴について
改めて簡単にまとめると以下のようになります。
まず、
イオニア学派は、
自然の総体を成り立たせている根本原理である
万物の始原(arche、アルケー、元となるもの)を解き明かそうとする
自然哲学の営みとして捉えることができます。
そして、そのなかでも、
タレスにはじまる最初の哲学である
ミレトス学派は、
世界の根本にある万物の始原(アルケー)を
水や空気といった何らかの一つの存在として捉えたところに
その思想の特徴があると考えられます。
つまり、
イオニア学派は、自然の総体を探求する自然哲学の学派であり、
ミレトス学派は、そのなかでも、
始原に関する一元論を唱えた自然哲学の学派である
ということです。
それに対して、
ピタゴラスにはじまる
イタリア学派は、
すべての存在の基盤となっている
数などの論理形式を探究の対象とし、
知性や論理自体の探求へと向かっていった
論理哲学の営みとして捉えることができます。
そして、そのなかでも、
パルメニデスにはじまる存在の哲学である
エレア学派は、
真なる存在である「あるもの」(to eon、ト・エオン)とは何か?
という存在そのものの概念の探求へと向かい、
それが、不生不滅、不変不動の一なる存在として捉えたところに
その思想の特徴があると考えられます。
つまり、
イタリア学派は、知性や論理自体を探求する論理哲学の学派であり、
エレア学派は、そのなかでも、
特に、存在の概念について探究し、
存在の一元論を唱えた論理哲学の学派である
ということです。
ソクラテス以前の哲学における四つの学派の地理的関係
そして、
イオニア学派とミレトス学派、イタリア学派とエレア学派という
ソクラテス以前の哲学の四つの学派の地理的関係をまとめると、
以下のようになります。
上記の地図で示した通り、
イオニア学派は、小アジア(現在のトルコ)のエーゲ海沿岸の
イオニア地方を中心に発展し、
その中心部には、
ギリシア人都市国家のミレトスがあるという
地理的関係にあります。
そして、もう一方の
イタリア学派は、
イタリア半島南部とシチリア島を中心に発展し、
その中心部には、
ギリシア人都市国家のエレアがあるという
地理的関係にあります。
このように、
ソクラテス以前の哲学は、
アテナイを含むギリシア本土とペロポネソス半島を東西に挟む
イオニア地方とイタリア半島を二大中心地とする
イオニア学派とイタリア学派の二本柱で発展していったと
考えられるのです。
・・・
以上のように、
ソクラテス以前の哲学における
四つの学派の関係とその哲学思想の大枠の流れとしては、
まず、
最初の哲学であるミレトス学派が
イオニア地方のミレトスで興り、
そのミレトス学派を含む
自然哲学の学派であるイオニア学派が
東地中海で発展していくことになります。
そして、次に、
ピタゴラスの西遷を機に、
論理哲学の学派であるイタリア学派が
イタリア半島南部とシチリア島を中心とする
中央地中海で発展していき、
その中から存在の哲学である
エレア学派が生まれ、
その思想の流れの一部は、さらに、
レウキッポスとデモクリトスの原子論へと
つながっていくことになるのです。
・・・
関連記事①:「ミレトス学派とイオニア学派の違い、地理的分類と学説上の分類」
関連記事②:「イオニア学派とイタリア学派の地理的関係と学説上の分類」
関連記事③:「イタリア学派とエレア学派の関係、ピタゴラスの西遷とパルメニデス」
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