ヘラクレスの第十二の功業における地獄の番犬ケルベロスとの戦いと冥界で現れたメドゥーサの幻影、ヘラクレスの十二の功業⑫
前回書いたように、ミケーネの王であったエウリュステウスの命令によって、十一番目の功業にあたるヘスペリデスの黄金の林檎を手に入れるための長い冒険の旅へと赴いていくことになった英雄ヘラクレスは、
海の老人ネレウスから聞き出した情報を頼りに、北の最果ての地にあるヒュペルボレイオスと呼ばれる伝説の民が暮らす極北の光の地へとたどり着き、
天空を支える巨人アトラスとの問答の末に彼の協力を得ることによってヘスペリデスの黄金の林檎をミケーネの地まで持ち帰ることになります。
十二番目の功業である地獄の番犬ケルベロスとの戦いに向けてハデスが支配する冥府の国へと赴く英雄ヘラクレス
そして、その次に、
ミケーネの王であったエウリュステウスは、ヘラクレスに対して与える最後の試練にあたる十二番目の難行として、地獄の番犬であるケルベロスを連れてくるように命じることになります。
冥界の王であるハデスが支配する冥府の国を守る番犬であったケルベロスは、
三つの犬の頭と竜の尾とを持ち、背中からは無数の蛇が生えていていた巨大な三頭犬の怪物であったとされているのですが、
こうしたケルベロスと呼ばれる三頭犬の怪物は、冥界から逃げ出そうとする亡者を捕らえて食べてしまうことになっていたため、悪しき亡者を懲らしめる地獄の番犬としても位置づけられていくことになっていったと考えられることになります。
そして、
エウリュテウス王は、ヘラクレスの十二の功業の最後を飾る仕事として、こうした冥界と地獄の番犬であるケルベロスと戦ってこれを捕らえるという最大の試練を彼に与えることになったと考えられることになるのです。
冥界へと降りていくヘラクレスとゴルゴンの女王メドゥーサの幻影
かつて第四の功業にあたるエリュマントスの猪を捕らえる際に、誤ってケンタウロスの賢者ケイロンを殺してしまったことで受けた罪の穢れからいまだ身を清められていなかったヘラクレスは、
豊穣の女神デメテルと冥界の女王ペルセポネへと捧げられたエレウシスの秘儀の創始者であったトラキアの王エウモルポスによってその殺戮の罪を清められたのち、冥界へと降りる道へと入っていくことを許されることになります。
そして、
ギリシア本土の最南端にあたるタイナロンの岬の近くにあったとされる死の国の入口からヘラクレスが冥界へと降りていくと、
かつてヘラクレスが倒した怪物たちが彼のことを恨めしくまたどこか懐かしく思うかのように彼のもとに姿を現しては消えていくことになります。
そして、そうしたなか、
ただ一人、ゴルゴンの女王であったメドゥーサだけはヘラクレスのもとへと真っ直ぐに向かってくることになるのですが、
その姿を見て驚いたヘラクレスが剣を抜いて切りかかろうとすると、その姿は霧のように消え失せてしまい、彼はこうした怪物たちの姿が冥界の霊たちが見せる虚しい影に過ぎなかったことを知ることになるのです。
地獄の番犬ケルベロスと英雄ヘラクレスの最後の戦い
そして、その後、
冥界の王であるハデスのもとへてとたどり着いたヘラクレスは、彼のもとに仕える忠実な番犬であるケルベロスに対して戦いを挑んで地上へと連れて行くことへの許しを求めることになるのですが、
ハデスは、ヘラクレスが武器を使わずに、自らが持つ怪力のみによってケルベロスのことを圧伏させることを条件として、ケルベロスのことをしばらくの間だけ地上へと連れ出すことを許すことになります。
そして、
こうして冥界の王であるハデスの許しを得たヘラクレスは、ハデスとの約束通りに手に持って行った武器を投げ捨てると、そのまま皮の鎧と胸当てを身につけただけの素手の状態で地獄の三頭犬であるケルベロスに戦いを挑んでいくことになり、
ケルベロスの三つの頭を両腕で抱え込んで締め上げていくヘラクレスに対して、ケルベロスは自らの竜の頭を持つ尾を使ってヘラクレスの体に噛みついていくことになるのですが、
彼の体を覆っていたネメアの獅子の毛皮でできた鎧は、いかなる弓矢や刃物による攻撃をも弾き返すという強靭で堅固な鎧であったため、竜の牙をもってしても食い破られてしまうということはなく、
ヘラクレスは、そのまま地獄の三頭犬であるケルベロスのことを力でねじ伏せて、エウリュテウス王の待つミケーネの地まで連れて行くことによって、ついに十二の功業のすべてを成し遂げることになるのです。
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次回記事:ヘラクレスの二度目の狂気とティリュンスの城壁から投げ落とされたイピトスの死、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑨
前回記事:ヘラクレスの第十一の功業とヘスペリデスの黄金の林檎を求めて向かう極北の光の地への旅、ヘラクレスの十二の功業⑪
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