女神アテナが持つ盾と兜と鎧という三つの防具のギリシア神話における由来とは?至上の防具であるアイギスの盾とイージスの盾
ギリシア神話における知恵の女神にして、戦略や軍備を司る軍神としても位置づけられている女神アテナは、しばしば、
右手に槍、左手に盾を持ち、頭には兜をかぶって、体には胸当てのような鎧をつけているという三つの防具と一つの武器を装備した姿で描かれていくことになりますが、
それでは、
こうした女神アテナが持つとされている盾と兜と鎧という三つの防具、そして、右手に持つ一本の槍という装備品のそれぞれは、
ギリシア神話の物語においては、具体的にどのような由来を持つ防具と武器であると考えられることになるのでしょうか?
アテナの母親にあたる女神メティスによって愛の加護が施された兜
まず、こうした女神アテナが持つとされている盾と兜と鎧という三つの防具のうち、
頭にかぶっている兜については、彼女自身にとってはその起源が最も古い防具として位置づけられることになると考えられることになります。
ギリシア神話の物語においては、
女神アテナの生物学的あるいは遺伝学的な意味における母にあたる女神メティスは、自らの夫にして、アテナの父親であったゼウスに飲み込まれてしまったのち、自分が生むはずであった娘であるアテナのために、
ゼウスの頭の中で、せっせと彼女が着るためのマントを縫い上げ、ハンマーを振り上げて兜まで鋳造していくことになるのですが、
女神アテナは自らの誕生に際して、父親であるゼウスの頭の中から、そうした自分の生物学的な意味における母親にあたるメティスがつくってくれた兜とマントを装備した状態で生まれてくることになったと語られていくことになります。
つまり、
女神アテナが自分の頭にかぶっている兜は、そもそも、彼女が誕生の瞬間からすでに装備していた、
アテナの母親にあたる女神メティスの手によって作られた、母親の子供に対する愛情の加護が施された特別な兜であったと考えられることになるのです。
アテナの父親であるゼウスから与えられた不思議な魔力を持つアイギスの盾
そして、その次に、
アテナが左手に持っている盾については、アテネの父親にあたるギリシア神話の主神であるゼウスが、地上で生活を送っていた少女時代のアテナのことを守るために、天界から差し出したとされている
古代ギリシア語ではアイギス(Αιγίς、Aigis)、英語ではイージス(Aegis)と呼ばれるあらゆる災厄と邪悪な力をはねのける魔力を持った天界における至上の防具のことを意味していると考えられることになります。
こうしたアイギスやイージスと呼ばれる防具は、
アイギスの盾あるいはイージスの盾として、手に持って身を守る盾のような形状をした防具として描かれることがあるほか、肩当てや胸当てのような防具の形状として描かれている場合もあるのですが、
こうしたギリシア神話における至上の防具のことを意味するアイギスやイージスといった言葉は、
現代の軍事技術において、高度なレーダーシステムとコンピュータシステムを配備することによって、一度に多くの目標と交戦できる非常に高度な防空システムを備えるに至った高性能の戦艦のことを意味する
イージス艦(Aegis warship)といった戦艦やシステム艦の直接的な名称の由来となった伝説上の防具のことを意味する言葉としても位置づけられることになるのです。
アテナが倒した巨人の皮が張り付けられることで特別な防護が施された鎧
また、詳しくは前回の記事で書いたように、
アテネが身につけている胸当てのような鎧の由来については、
ギリシア神話において、ゼウスを盟主とするオリュンポスの神々と、その支配に反抗するギガースと呼ばれる巨人たちの間で行われたとされているギガントマキアと呼ばれる神々の戦いにおいて、そうしたアテナの鎧に関係する逸話が語られていて、
こうしたギガントマキアと呼ばれる神々の戦いにおいて、強大な力を持つ巨人であるパラスのことを打ち倒した女神アテナは自らの勝利の証として、
自分が打ち倒した巨人パラスの皮を剥ぎ取って、その皮を自分の鎧に張り付けることによって、さらに強大な防護の力を手に入れていくことになったと語り伝えられています。
アテナの親友であった少女パラスの血によって染め上げられた槍
そして、
アテナが右手に持っている槍については、
ギリシア神話の物語において、そうした槍を武器として持つアテナの姿がはじめに出てくるのは、少女時代のアテナが、
自分の幼なじみであり親友でもあった海の神トリトンの娘であるパラスという前述した巨人と同じ名を持つ少女と一緒に戦いの訓練をしている場面であると考えられ、
そうした二人の少女の遊びの一環として行われていた戦いの技を互いに競い合う訓練のなかで、女神アテナは誤って自分が右手に持つ槍で、自分の親友であった少女パラスの体を貫いて、彼女の命を奪ってしまうことになるのです。
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以上のように、
こうした女神アテナがその身にまとっているとされている盾と兜と鎧という三つの防具と、右手に持つ一本の槍というそれぞれの装備品のギリシア神話における具体的な由来については、
アテナが頭にかぶっている兜は、アテナの母親にあたる女神メティスによって、自分の娘であるアテナを守るために特別な加護が施された兜、
アテナが左手に持っている盾は、アテナの父親であるゼウスから与えられたアイギスの盾あるいはイージスの盾と呼ばれるあらゆる災厄と邪悪な力をはねのける魔力を持った天界における至上の防具、
アテネが身につけている胸当てのような鎧は、ギガントマキアと呼ばれる神々の戦いにおいて、女神アテナが強大な力を持つ巨人を打ち倒した自らの勝利の証として、巨人の皮を剥ぎ取って張り付けることによって特別な防護の力が施された鎧、
アテナが右手に持っている槍は、かつて女神アテナが戦いの訓練のなかで誤ってその体を貫いて命を奪ってしまうことになったアテナの親友であった少女パラスの血によって染め上げられた槍というように、
それぞれがギリシア神話の物語において特別な由来をもった武器と防具として位置づけられていると考えられることになるのです。
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次回記事:ゼウスの三人の正妻たちの素性と具体的な特徴とは?ヘラとテミスとメティスというギリシア神話の三人の女神たちの性格の違い
前回記事:パラス・アテナという呼び名のギリシア神話における二つの由来とは?巨人パラスの戦いと彼女の親友であった少女パラスの悲劇
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