炭疽菌の具体的な特徴と「炭疽」という病名の由来と三つの病態の区分、桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは？⑫

前回の記事では、桿菌と呼ばれる細菌のグループに分類されることになる代表的な細菌の種類のうち、チフス菌やパラチフス菌といった腸管出血を伴うような重症の細菌性腸炎を引き起こす原因となる細菌の種類の具体的な特徴について詳しく考察してきましたが、

そうした命に関わるような重大な感染症として古来より恐れられてきた細菌感染症の原因となる代表的な桿菌の種類としては、これまでの記事で取り上げてきた結核菌や破傷風菌やペスト菌、赤痢菌やチフス菌やパラチフス菌といった細菌の種類のほかにも、

炭疽菌や、人食いバクテリアとして知られているビブリオ・バルニフィカスといった桿菌の種類の名が挙げられることになると考えられることになります。

炭疽菌の具体的な特徴と「炭疽」という病名の具体的な由来

まず、はじめに挙げた

炭疽菌（たんそきん、Bacillus anthracis、バチルス・アントラシス）とは、幅1～1.5マイクロメートル、長さ4～10マイクロメートルほどの大きさをした鞭毛を持たない非運動性の棒状の形状をした大型のグラム陽性の好気性桿菌の一種であり、

ウシやウマやヒツジといった草食動物の血液や腸内、あるいは、土壌中などにおいても広く生息する常在菌の一種であると同時に、炭疽（たんそ）と呼ばれる人獣共通感染症の原因菌としても位置づけられることになります。

そして、

こうした炭疽菌と呼ばれる細菌は、ヒトからヒトへ直接的に感染することはないと考えられているものの、

炭疽菌に感染したウシやヒツジといった家畜との接触や、土ぼこりと共に舞い上がった細菌の菌体、あるいは、細菌兵器などの形で意図的に散布された炭疽菌の芽胞を吸引してしまうことなどによって、人間に対して感染してしまうケースがあると考えられることになります。

そして、

炭疽菌を原因とする細菌感染症である炭疽（anthrax、アントラクス）は、細菌が感染を広げていくことになる人体の部位の違いに応じて、皮膚炭疽と肺炭疽、そして、腸炭疽という三つの病態へと区分されていくことになると考えられることになるのですが、

このうち、最も一般的な病態である

皮膚炭疽は、皮膚の小さな傷口などから侵入した炭疽菌が、手足や顔や首といった部位に、無痛性の丘疹や膿胞を形成していくことになり、

その後、皮膚炭疽の症状が進行していくにしたがって、丘疹の中央部から壊死が進んでいくと共に、高熱やリンパ節炎といった症状が引き起こされていくことになると考えられることになります。

そして、こうした皮膚炭疽に見られる皮膚の病変においては、組織の壊死が引き起こされた皮膚の部分に炭のような黒褐色のかさぶたが形成されていくことになるのですが、

「炭疽」という病名の由来は、こうした皮膚炭疽の症状の進行において現れる炭のような色の皮膚の病変のことを指して、こうした「炭疽」という表現が用いられることになったと考えられることになります。

そして、もう一つの炭疽の病態にあたる

肺炭疽においては、炭疽菌の芽胞を誤って吸引してしまった場合などに、気管や肺といった呼吸器において炭疽菌が感染を広げていくことによって、咳や高熱、血痰といったインフルエンザや肺炎のような症状が引き起こされたのち、

呼吸困難やチアノーゼ（血中の酸素濃度の低下）といった症状が急速に進行していくことによってショック状態へと陥ってしまうことになり、

未治療の場合では致死率が90％以上におよぶことになるほか、適切な治療が行われた場合でも半数近くの患者が死に至ることになると考えられることになります。

また、最後に挙げた

腸炭疽においては、炭疽菌によって汚染された飲食物を誤って摂取してしまった場合などに、腸内において炭疽菌が感染を広げていくことによって、

腹痛や発熱、激しい下痢やおう吐、さらには、吐血や血便といった症状が引き起こされていくことになると考えられることになるのです。

炭疽菌と枯草菌や納豆菌といった日常的な常在菌の種類との関係

そして、

こうした炭疽菌と呼ばれる細菌は、ラテン語の正式な学名では、バチルス・アントラシス（Bacillus anthracis）と呼ばれているように、バチルス属（Bacillus）と呼ばれる桿菌の種族に分類されることになるのですが、

そうしたバチルス属と呼ばれる細菌のグループには、炭疽菌のほかに、以前に土壌中などの自然環境において広く生息している常在菌の一種として取り上げたセレウス菌、あるいは、枯草菌や納豆菌といった通常の場合は人体に対して害をおよぼすことがない日常的な常在菌が数多く分類されていくことになります。

つまり、そういった意味では、

こうした炭疽菌と呼ばれる細菌は、そうしたバチルス属に分類される日常的な常在菌の種類を多く含む細菌の種類のなかでも、

人体に対してひときわ高い病原性を示すことになる例外的な細菌の種類として位置づけられることになると考えられることになるのです。

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次回記事：ビブリオ・バルニフィカスの具体的な特徴と人食いバクテリアと呼ばれる理由とラテン語における名称の由来、桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは？⑬

前回記事：桿菌に分類される代表的な細菌の種類とは？⑪チフス菌とパラチフス菌の具体的な特徴とサルモネラ菌との関係

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