前意識とは何か?③意識と無意識の境界に存在する心の番人としての前意識の位置づけ
前々回と前回の記事で書いてきたように、フロイトの心理学において登場する前意識と呼ばれる概念は、意識と無意識の境界領域に存在する心の領域のあり方を意味すると同時に、
それは、意識と同様に自覚することが可能な心の領域の内に含まれるという点において、直接的には自覚することが不可能な心の領域である無意識よりも意識の方により近い領域にある心の部分のことを意味する概念として位置づけられることになると考えられることになります。
そして、
こうした前意識と呼ばれる心の領域は、様々な観念や情動が無意識の過程から意識の過程へと移行していく際に現れる心的要素の変化の過程としての力動的な観点においては、
大きく分けて二つの重要な役割を担っている心の領域として位置づけられることになると考えられることになるのです。
前意識が担う二つの重要な役割とは?マンホールの蓋とガス抜きを行うフィルターの役割を兼ね備えた前意識の働き
詳しくは「意識と前意識と無意識の三層構造における抑圧と検閲とリビドーの関係」の記事で書いたように、
精神分析学と呼ばれるフロイトの心理学理論のなかでも、特に、その前期の心理学理論においては、
人間の心の構造は、意識と前意識と無意識という三層構造のモデルにおいて捉えられていくことになり、
そうした人間の心の階層構造の内部においては、意識にとって受け入れがたい観念や記憶や情動の多くが抑圧によって無意識の領域へと閉じ込められることになるのに対して、
そうした抑圧の力をかいくぐって意識の領域へと到達する観念は、無意識の領域から意識の領域への移行の過程において検閲を受けることによって、夢の中の象徴や暗示のような姿へと変化していくことになると考えられることになります。
そして、
こうした意識と無意識の領域の間で生じる抑圧と検閲の過程は、そのすべてが両者の中間領域にあたる前意識を介して行われることになると考えられることになるので、
そういった意味では、こうした前意識と呼ばれる心の領域は、
意識に悪影響を及ぼすような観念や情動を抑圧し、そのような心的要素の侵入を食い止めるマンホールの蓋(ふた)のような役割をしていると同時に、
無意識の領域への抑圧の力が強くなり過ぎたときには、今度はそうした抑圧されている観念や情動の一部を検閲を通じてよりマイルドな形へと変化させることによって意識の領域へと通過させてガス抜きを行う際のフィルターのような役割も果たしているとも考えられることになるのです。
意識と無意識の境界に存在する心の番人としての前意識の存在
以上のように、
人間の心の内に存在する観念や情動といった様々な心的要素が無意識の過程から意識の過程へと移行していこうとする際に生じることになる抑圧や検閲といった一連の心の働きは、
意識と無意識の中間領域に位置する前意識が中心となることによって進められていく心の働きであると考えられることになります。
そして、
前々回からの三回にわたって取り上げていきた、こうした前意識と呼ばれる概念の定義のあり方に関する一連の考察についてまとめると、
フロイトの心理学において前意識と呼ばれている概念とは、一言でいうと、
意識と無意識の境界領域に存在する、現時点では意識されてはいないが注意を向ければ自覚することが可能な意識の派出所のような心の領域のことを意味する概念であり、
それは、無意識の内に存在する観念や情動が意識にとって有害な場合には、それらの心的要素を抑圧してブロックし、
抑圧の力が強くなり過ぎて心全体の緊張が高まってしまった場合には、今度はそうした抑圧の力のガス抜きを行うために無意識の内に存在する心的要素の一部を検閲による取捨選択と修正を加えてして意識の領域へと通過させるという
言わば、意識と無意識の境界に存在する心の番人のような役割を担う存在として捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:無意識の領域の大きさが抑圧を受けることで増大する仕組みとは?人間の心における抑圧の強さと意識と無意識の領域の関係
前回記事:前意識は意識と無意識のどちらの方により近い心の領域であると言えるのか?前意識とは何か?②
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