前意識は意識と無意識のどちらの方により近い心の領域であると言えるのか?前意識とは何か?②
前回の記事で書いたように、フロイトの精神分析学と呼ばれる心理学理論において登場する前意識と呼ばれる概念は、一言でいうと、
現時点においてはいまだ意識されてはいないが、何かちょっとしたきっかけがあって注意が向けられると意識することが可能な意識と無意識の境界領域に位置する心の領域のあり方のことを意味する概念であると考えられることになります。
それでは、
こうした前意識と呼ばれる概念は、より厳密な意味においては、意識と無意識のどちらの方により近い心の領域のあり方のことを意味する概念として捉えることができると考えられることになるのでしょうか?
前意識が無意識よりも意識に近い心の領域に位置づけられる理由とは?
まず、一般的には、
こうした前意識と呼ばれる心の領域は、それが現時点では自覚されていない現実的な意識の外にある心の領域であると考えられることになるため、
それは、意識において自覚されていない無意識のなかでも比較的浅い層に位置する心の領域のあり方のことを指してこうした言葉が用いられていると解釈されることが多い言葉であると考えられることになります。
しかし、その一方で、
フロイトの心理学において、無意識と呼ばれる概念は、単に現時点において自覚されていない心の領域のあり方を意味するだけではなく、
その領域の内に存在する観念や情動といったあらゆる心的要素は、より上層に位置する心の領域からの抑圧を受けることによって、意識の領域へとのぼることが強く妨げられていて、
夢の中などにおいて現れる象徴的な姿などを介して間接的に自覚されることはあっても、直接的には自覚されることはない、意識すること自体が不可能な心の領域として位置づけられていると考えられることになります。
つまり、
こうした前意識と意識および無意識との関係について一言でまとめると、
人間の精神にとって意識することが可能な心の領域のうち、意識とは、より正確に言えば、現時点において実際に自覚されている現実的な意識のあり方を意味するのに対して、
前意識とは、現時点では意識されていないが、注意を向ければ自覚すること自体はできる可能的な意識のあり方を意味していると考えられ、
それに対して、
無意識とは、意識や前意識といった人間の精神が意識することが可能な心の領域の対極に位置する意識すること自体が不可能な心の領域のあり方のことを意味する言葉として、位置づけることができると考えられることになります。
そして、そういった意味では、
こうした前意識と呼ばれる概念は、それが意識と同様に自覚することが可能な心の領域の内に含まれる心のあり方のことを示す概念であるという点において、
それは、心理学的には、無意識よりもむしろ意識の方に近い領域にある心の部分として捉えることができると考えられることになるのです。
記述的には無意識、局所的には意識、力動的には無意識から意識への変化の過程にある心の状態としての前意識の存在
また、
より厳密な形で、こうした前意識と意識および無意識との関係のあり方についてさらに詳しく考えていくと、
前々回に書いた「無意識という言葉の三つの意味とは?」の記事では、フロイトの心理学理論においては、無意識と呼ばれる心の存在のあり方は、
記述的・局所的・力動的という三つの異なる意味を持った多義的な概念として捉えられることになると説明しましたが、
そういった意味では、
前意識と呼ばれる心のあり方は、それが、現時点では実際には意識されていない心の領域であるという点においては、確かに、記述的な意味においては無意識と呼ぶことができる心理状態にあるとはいえるものの、
それは、前述したように、自覚することが可能な心の領域と自覚することが不可能な心の領域という人間の心の階層構造という観点、すなわち、局所的な意味においては意識の方により近い階層にある心の領域として位置づけられることになり、
さらに言えば、人間の心の内に存在する観念や情動といった様々な心的要素の心理学的な過程における変化のあり方を意味する力動的な観点においては、
それは、無意識の内にある心的要素が意識の内への直接的な侵入を妨げられた際に生じる夢の中の象徴的な姿などへの変化の過程を担う心の領域として位置づけられることになると考えられることになるのです。
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以上のように、
冒頭で挙げた前意識と呼ばれる概念は意識と無意識のどちらの方により近い心の領域のあり方のことを意味するのか?という問いについてのフロイトの心理学理論に基づく答えとしては、
意識が、自覚することが可能な心の領域のうち、現時点で実際に自覚されている心の領域のことを意味する概念であるのに対して、
無意識は、自覚すること自体が不可能な心の領域のことを意味する概念として位置づけられることになるので、
現時点では意識されていないが、意識しようと思えば意識することもできる自覚することが可能な心の領域の内に含まれる前意識と呼ばれる心の領域のあり方は、
どちらかというと無意識よりも意識の方に近い領域にある心の部分のことを意味する概念として位置づけられることになると考えられることになります。
・・・
そして、こうした前意識と呼ばれる概念は、より正確に言うならば、
記述的には無意識の状態にあるとは言えるものの、
局所的には意識に近い心の領域のことを意味する概念であり、
力動的には、無意識から意識の領域へと至る際の心的要素の変化の過程のことを意味する概念として捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:前意識とは何か?③意識と無意識の境界に存在する心の番人としての前意識の位置づけ
前回記事:前意識と無意識の違いとは?ドイツ語の原語における意味の相違に基づく両者の具体的な特徴の違い、前意識とは何か?①
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