無意識という言葉の三つの意味とは?記述的・局所的・力動的という多義的な意味を持つフロイトによる無意識の定義
前回書いたように、フロイトの精神分析学における前期の心理学理論においては、意識と前意識と無意識という三つの階層構造において、人間の心のあり方が捉えられていくことになるのですが、
そもそも、こうした無意識という言葉自体は、日常的な意味から深層心理学などにおいて用いられている専門的な意味に至るまで、幅広い意味合いで用いられる多義的な言葉であると考えられることになります。
そして、
精神分析学の祖であるフロイト自身による定義においては、こうした無意識という言葉自体は、記述的・局所的・力動的という三つの異なる意味において用いられるべき言葉であると定義されていくことになるのです。
記述的・局所的・力動的という無意識の三つの定義とその具体例
冒頭で述べたように、フロイトによる心理学的な定義においては、無意識という言葉は、
記述的(descriptive)、局所的(topographical)、そして、力動的(dynamic)という三つの異なる意味において定義されることになるのですが、
こうした無意識という言葉の三つの意味について、一言で説明すると、
まず、
記述的な無意識というのは、無意識的な行動というように、当人が意識していない行動や心理状態のあり方に対して、形容詞的に用いられる表現であるのに対して、
局所的な無意識というのは、topographical(トポグラフィカル)という言葉自体が、もともとは「地形学の」「地形上の」といった意味を表す言葉であるように、
それは、人間の心の内に存在する地理的あるいは階層的な位置としての無意識の所在のことを意味する表現であると考えられることになります。
そして、それに対して、
力動的な無意識というのは、dynamic(ダイナミック)という言葉の意味が示唆しているように、
人間の心の奥底に存在する様々な観念や情動が意識のレベルへとのぼってくるまでに生じる一連の心理学的な過程における劇的な変化のことを意味する表現として定義されることになると考えられることになるのです。
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そして、
こうした記述的・局所的・力動的という無意識という言葉の三つの意味の違いについてさらに具体的な例を挙げて説明していくとするならば、
例えば、
「家の鍵を失くしてしまったかもしれないと焦っていたら、なぜか、ちゃんと財布の中に入っていた。どうやら戸締まりをしたあとに、無意識のうちに財布の中にしまっていたらしい」
といったケースでは、
それは、本人が自覚していない無意識的な行動としての記述的な意味での無意識のことを指してこうした表現が用いられていると考えられることになりますし、
それに対して、
「悲惨な戦争体験の記憶がトラウマとなって無意識の奥底に抑圧されているために、その帰還兵は今でも重いPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状に苦しんでいる」
といったケースでは、
それは、そうした当人の心に悪影響を及ぼす記憶が意識の内に直接のぼってくることができない心の奥底のレベルへと抑圧されているといった局所的な意味での無意識のことを指してこうした表現が用いられていると考えられることになります。
あるいは、
「明日の試験のことを不安に感じながら眠っていたら、落とし穴に落っこちてしまう夢を見た。もしかすると、試験に対する不安と恐怖が無意識の過程を経て落とし穴に落ちる夢へと姿を変えて出てきたのかもしれない 」
といったケースでは、
そうした局所的な無意識の領域の存在する不安感や恐怖といった情動が、意識のレベルへとのぼってこようとする際に、無意識の過程において落とし穴という象徴的な姿へと変化して夢の中へと現れてくるという力動的な意味において無意識という言葉が用いられていると考えられることになるのです。
人間の心の階層構造において提示される局所的な意味での無意識のあり方
以上のように、
フロイトによる心理学的な定義においては、無意識という言葉は、
記述的な意味としての無意識は、当人が自覚していない行動や心理状態のことを意味するのに対して、
局所的な意味としての無意識は、人間の心の奥底の深い階層に存在する心の領域のことを意味し、
力動的な意味としての無意識は、そうした人間の心の奥底に存在する様々な観念や情動が意識の領域へとのぼってくる際に生じる心的内容の変化のあり方のことを意味するという
三つの異なる意味を持つ多義的な言葉として定義されていくことになります。
そして、
こうしたフロイトによる無意識の三つの定義に基づいて、フロイトの前期の心理学理論における無意識を含む人間の心の階層構造のあり方について、改めて捉え直していくと、
より正確に言えば、そこでは、
上記の三つの互いに異なる意味で用いられる無意識という言葉のうち、特に、局所的な意味における無意識のことを念頭に置いて、こうした意識と前意識と無意識という三層構造からなる人間の心の構造のあり方が提示されていると考えられることになるのです。
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次回記事:前意識と無意識の違いとは?ドイツ語の原語における意味の相違に基づく両者の具体的な特徴の違い、前意識とは何か?①
前回記事:フロイトの精神分析学とは何か?①自由連想法と夢分析に基づく神経症の治療を目的とする精神療法、深層心理学とは何か?③
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