狂牛病とクロイツフェルト・ヤコブ病の関係とは?牛由来の異常プリオンによって人間の中枢神経疾患が発症する仕組みとは?
前回の記事で書いたように、プリオンと呼ばれる病原性タンパク質が原因となることによって引き起こされる代表的な中枢神経疾患としては、
狂牛病あるいはBSEといった呼び名で有名なウシ海綿状脳症と呼ばれる疾患の名前が挙げられることになります。
そして、
こうした狂牛病やウシ海綿状脳症と呼ばれる家畜における中枢神経疾患と非常によく似た神経症状を呈することになる人間の病気としては、クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれる疾患の名前が挙げられることになるのですが、
こうした狂牛病とクロイツフェルト・ヤコブ病との間には、具体的にどのような関係があると考えられることになるのでしょうか?
狂牛病と変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の関係
まず、前回の記事でも書いたように、
クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれる人間の脳組織を中心に病変が現れる中枢神経疾患においては、冒頭で挙げたウシ海綿状脳症(BSE、狂牛病)などの動物における伝達性海綿状脳症の場合と同様に、
神経細胞を構成するタンパク質が、異常な構造をしたタンパク質である病原性プリオンとの接触により徐々に異常タンパク質へと置き換わっていってしまうことによって脳組織においてスポンジ状の穴が形成されていくことを特徴とする組織破壊が進行していくことになり、
その後、不随意運動や認知症、運動失調や行動変化や人格変化といった症状が現れた末に、最終的には、症状が出てから1年から2年ほどの短期間のうちに死に至ることになると考えられることになります。
そして、
こうしたクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)と呼ばれる疾患においては、
散発性CJDと呼ばれる発症の原因が不明である疾患のタイプや、
遺伝性CJDと呼ばれる 細胞内においてタンパク質を合成する役割を担う遺伝子の突然変異によって引き起こされる疾患のタイプのほかに、
変異型CJDあるいは新型CJDと呼ばれる脳の特定部位において異常プリオンタンパクの沈着が見られることを特徴とする疾患のタイプも挙げられることになり、
クロイツフェルト・ヤコブ病の発病において、狂牛病の病原体の原因となるプリオンと同一の異常プリオンによって引き起こされる疾患のタイプとしては、
上記の三つの疾患のタイプのうちの最後に挙げた変異型CJDすなわち変異型クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれる疾患の種類が挙げられることになると考えられることになるのです。
牛由来の異常プリオンによって人間の中枢神経疾患が発症する具体的な仕組み
そして、
こうした狂牛病の牛に由来する異常プリオンが発病の原因となると考えられている変異型クロイツフェルト・ヤコブ病の発症においては、
狂牛病を発症した牛の体内において異常プリオンが含まれている可能性のある特定危険部位にあたる
脳や脊髄や背根神経節を含む脊柱、眼球や扁桃(へんとう、喉の粘膜にあるリンパ節の集合体)、あるいは、回腸遠位部と呼ばれる小腸の盲腸との接合部分から2メートル前後の部位などにより食品が汚染されることによって、、
人間の体内へとそうした狂牛病の牛由来の異常プリオンが送り込まれてしまうことになると考えられることになります。
そして、このようにして、
いったん人間の体内へと取り込まれた牛由来の異常プリオンは、その後、
胃や腸などの消化器官における消化作用を経ても完全には分解しきられないまま残存した一部の微小なプリオン粒子が小腸の微絨毛から血管内へと吸収されていくことになり、
さらに、その後、
そうした血管内へと侵入した異常プリオンの一部が、脳に必要な物質を血液中から選択的に吸収していく際に、誤って脳内に取り込まれてしまうことによって、
脳内の神経細胞を構成するタンパク質における牛由来の異常プリオンとの物理的接触を介した神経細胞内のタンパク質における異常プリオンへの連鎖的な置換が進行してしまうことになり、
そうした脳組織に存在する異常プリオンの割合が一定の基準を超えてしまった時に、こうした変異型クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれる人間における中枢神経疾患が発病してしまうことになると考えられることになるのです。
血液脳関門を異常プリオンが突破する具体的な仕組みとは?
ちなみに、
こうした血管から脳組織への物質の移動においては、通常の場合、
血液脳関門(blood-brain barrier、ブラッド・ブレイン・バリアー、通称BBB)と呼ばれる血液と脳における組織液の間の物質交換を選択的に制限することにより脳を外敵から守る防衛システムが作動することによって、
毒物や病原体の脳内への移動が抑制されることになると考えられることになるのですが、
その一方で、
こうした血液脳関門と呼ばれる脳の防衛システムにおいては、脳の活動や構造の維持のために必要な物質である糖質や脂質やアミノ酸といった物質は、
むしろ、トランスポーターと呼ばれる生物の細胞膜において物質の輸送を行う役割を担う輸送体の働きによって選択的に透過されて脳組織の神経細胞の内部へと取り込まれていくことになります。
そして、
こうした狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病といった中枢神経疾患の原因となる病原性のプリオンも、アミノ酸を材料とする微小な粒子であるため、
糖質やアミノ酸といった神経細胞のエネルギー源や材料となる物質が脳組織の内部へと取り入れられていく際に、
同じアミノ酸を材料として組み上げられている微小な粒子である異常プリオンについても、トランスポーターの働きによって他のアミノ酸と一緒に透過されてしまうことによって、
そうした血液脳関門と呼ばれるバリアーを突破して、脳組織の内部へと侵入してしまうという危険性は必ずしも否定することができないと考えられることになるのです。
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次回記事:日本国内におけるBSE問題の発覚から収束までの歴史、イギリスにおける世界初のBSEの発生からアメリカ産牛肉の輸入再開まで
前回記事:プリオンが引き起こす代表的な疾患の種類とは?哺乳類プリオンと真菌プリオンの違いとそれぞれの疾患の具体的な特徴
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