世界におけるO157を病原菌とする食中毒事件の歴史とは?アメリカとヨーロッパにおける代表的な事例、O157の病原体史②
前回の記事で書いたように、日本国内におけるO157を病原菌とする食中毒事件の歴史は、1990年の埼玉県浦和市の幼稚園で発生した500人規模の集団食中毒事件を皮切りに、
その後の1996年の大阪府堺市の小学校給食から発生した集団食中毒事件において1万人ちかくにものぼる大量の感染者を発生させるという最大規模の感染例が現れることになり、
その後、2000年代に入ってからも、こうしたO157を中心とする腸管出血性大腸菌を原因とする集団食中毒事件は現在に至るまで断続的に発生し続けていると考えられることになります。
そして、
こうしたO157を中心とする腸管出血性大腸菌を原因とする集団食中毒事件は、日本だけに限らず世界各地でも数多く発生していると考えられ、
以下で述べるように、
アメリカやヨーロッパといった世界各地においても、日本国内と同様にO157などの腸管出血性大腸菌を病原菌とする大規模な集団感染の事例が複数報告されています。
アメリカにおけるO157を原因とする集団食中毒の代表的な事例
まず、前回の記事でも書いたように、
こうしたO157と呼ばれる病原性大腸菌のタイプが集団食中毒などの原因となる病原菌として認知されるようになったのは、
1982年にオレゴン州やミシガン州といったアメリカ北部の地域において発生したハンバーガーが原因であると推定された食中毒事件において、
新たにO157という血清型のタイプを持った細菌が検出されたのが最初であると考えられることになります。
そして、その後、
こうしたO157を中心とする腸管出血性大腸菌によって引き起こされる集団食中毒の事例は、アメリカやヨーロッパといった世界各地においても数多く発生していくことになり、そうした数多くの事例のなかでも最も代表的なものとしては、
まずは、
1993年にカリフォルニア州とアイダホ州とワシントン州とネバダ州という四つの州にまたがる形で感染が広がっていった、
アメリカのファーストフード店であるジャック・イン・ザ・ボックス(Jack in the Box)の系列店において相次いで発生したO157を原因とする集団食中毒の事例が挙げられることになります。
こうした1993年に起きたアメリカのファーストフード店におけるO157の集団食中毒においては、
ファーストフード店で売られていたモンスターバーガー(Monster Burger)と呼ばれるハンバーガーの牛肉の加熱処理が不十分であったために、そのハンバーガーが提供された多くの系列店において集団食中毒が広がっていってしまうことになったと考えられ、
最終的には、食中毒事件の終息までに 732人の感染者と子供を中心とする4人の死亡者を出してしまうというアメリカ史上最大のO157を原因とする食中毒被害へと至ってしまうことになったのです。
そして、その後も、
こうしたO157を主な病原菌とする食中毒事件の発生はアメリカの各地において現在に至るまで断続的に続いていくことになり、
1996年にアメリカのカリフォルニア州の食品会社であるオダワラ(Odwalla)が製造した殺菌処理が不十分なリンゴジュースを介して感染が広がったO157を原因とする集団食中毒においては、66人の感染者と1人死亡者が発生し、
2006年にアメリカで栽培された有機栽培のホウレン草を介して感染が広がったO157を原因とする集団食中毒においては、276人の感染者と3人死亡者が発生しています。
また、近年においては、死者こそ出ていないものの、
2015年にアメリカの小売業のチェーン店であるコストコ(Costco)が販売したチキンサラダに含まれていた汚染されたセロリを介して感染が広がったO157を原因とする集団食中毒においては、19人の感染者が発生し、15万個以上の商品が回収されるという大規模な影響が広がったということが報告されています。
ヨーロッパにおける腸管出血性大腸菌を原因とする集団食中毒の代表事例
それに対して、
アメリカだけではなく、イギリスやドイツといったヨーロッパ各地においてもこうしたO157を中心とする腸管出血性大腸菌によって引き起こされる集団食中毒の事例は散見されることになり、
例えば、
2005年にイギリス西部のサウスウェールズにおいて発生したO157を原因とする集団食中毒においては、地元の肉屋から提供された汚染された牛肉を介して157人の感染者と1人死亡者が発生し、
2009年にイギリス南東部のサリーにおいて発生したO157を原因とする集団食中毒においては、農場の飼育用の納屋にあった動物の排泄物による汚染が原因となって農場を訪れた人に感染が広がり、死者こそ出なかったものの93人もの感染者が発生しています。
そして、
こうしたヨーロッパにおける腸管出血性大腸菌を原因とする集団食中毒事件のなかでも、最大の被害が発生した食中毒事件としては、
同じ腸管出血性大腸菌に含まれる大腸菌のなかでもO157とは血清型のタイプが異なるO104によって引き起こされた集団食中毒事件が挙げられることになります。
2011年にドイツ北部からフランスやデンマークやスウェーデンといった西ヨーロッパや北欧の各地へと感染を広げていったO104を原因とする集団食中毒においては、
エジプトから輸入されたフェヌグリークと呼ばれるハーブの一種が感染源となることによって、最終的に、成人女性を中心に3950人の感染者と53人の死亡者が出てしまうことになり、
日本国内における感染事例と比べても死者の数が非常に多い世界的にも最大規模の死者数を出してしまうという最悪の被害が発生することになってしまったのです。
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以上のように、
こうしたO157やO104といった腸管出血性大腸菌を病原菌とするアメリカやヨーロッパといった世界各地における大規模で重大な集団食中毒の発生の事例について時系列順に並べていくと、
代表的なものとしては、
1993年のアメリカのファーストフード店が提供したハンバーガーの牛肉を介したO157を原因とする集団食中毒
(感染者732人、死者4人)
1996年のアメリカの食品会社が製造したリンゴジュースを介したO157を原因とする集団食中毒
(感染者66人、死者1人)
2005年のイギリス西部のサウスウェールズの汚染された牛肉を介したO157を原因とする集団食中毒
(感染者157人、死者1人)
2006年のアメリカで栽培された有機栽培のホウレン草を介したO157を原因とする集団食中毒
(感染者276人、死者3人)
2009年のイギリス南東部のサリーの農場の飼育用の納屋にあった動物の排泄物による汚染を介したO157を原因とする集団食中毒
(感染者93人、死者0人)
2011年のドイツ北部を中心とするヨーロッパ各地においてフェヌグリークと呼ばれるハーブの一種を介して感染が広がったO104を原因とする集団食中毒
(感染者3950人、死者53人)
2015年のアメリカの小売業のチェーン店が販売したチキンサラダに含まれていた汚染されたセロリ介したO157を原因とする集団食中毒
(感染者19人、死者0人)
といった全部で7件のアメリカとヨーロッパを中心とする世界各地における腸管出血性大腸菌を原因とする代表的な集団食中毒の事例を挙げることができると考えられることになるのです。
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