義務倫理学とは何か?カントの倫理学における定言命法と道徳法則と実践理性の三位一体の関係
義務倫理学とは、18世紀のドイツの哲学者であるカントの哲学思想において示されている普遍的な道徳法則に自らの意志で従って行動する義務を倫理学の中心にすえる考え方のことを意味する言葉であり、
こうしたカントの義務倫理学においては、
人間の行為の道徳的価値は、その行為が実際に相手や社会に対してどのような良い影響や利益をもたらしたのかという行為の結果によって決まるのではなく、
その行為が自らの心の内なる道徳法則に自分自身の意志によって従うという普遍的な道徳法則に基づく義務の遂行として行われたのか否かによってその行為が道徳的行為であるかが決められていくことになります。
義務倫理学における道徳原理を示す『実践理性批判』における二つの定式
それでは、
こうしたカントの義務倫理学において人間が自らの意志によって遂行すべきとされている普遍的な道徳法則に基づく義務のあり方とは、具体的にどのようにして規定されていくことになるのか?ということについてですが、
それについては、
カントの主著の内の一つである『実践理性批判』において、以下のような二つの定式へとまとめられる形で、そうした義務倫理学の基盤となる道徳原理のあり方が提示されていくことになります。
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「汝の意志の格率が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当するように行為せよ」
「汝の人格と他者の人格の内なる人間性を手段としてのみではなく常に同時に目的として扱うように行為せよ」
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定言命法と道徳法則と実践理性の三位一体の関係
そして、まず、
上述した二つの定式のうちの前者にあたる「普遍的法則の定式」と呼ばれる定式においては、
義務倫理学において人間が自らの意志によって遂行するよう求められている義務となる道徳法則のあり方は、
定言命法と呼ばれる他のいかなる要素も前提や条件とせずに、「~せよ」「~すべし」という端的な形で義務となる行為のあり方を指し示すことによって人間の意志に基づく行為のあり方を無条件かつ絶対的に規定する命法の形式に基づいて規定されていくことになります。
そして、『実践理性批判』においては、
そうした定言命法に基づく普遍的な道徳法則のあり方の具体例としては、
「嘘をついてはならない」、より正確に言えば、「偽りの約束をしてはならない」そして「偽証してはならない」という命題が挙げられていくことになるのですが、
こうした「嘘をついてはならない」といった命題に代表されるような定言命法に基づくあらゆる状況において無条件に適応される倫理規則のあり方は、
人間自身の心の内なる実践理性の働きによって自らの心の内に見いだされていくことになる人間自身の心の内なる原理に基づく道徳法則のあり方としても捉えられていくことになります。
そして、そういった意味では、
こうしたカントの義務倫理学の体系は、
人間の意志に基づく行為のあり方を無条件かつ絶対的に規定する命法の形式のあり方である定言命法と、そうした定言命法の形式に基づいて規定される普遍的な道徳法則の存在、そして、そうした普遍的な道徳法則の存在を自らの心の内に見いだしていく実践理性という
定言命法と道徳法則と実践理性の三位一体の関係に基づいて構築されていると考えられることになるのです。
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そして、それに対して、
前述した二つの定式のうちの後者にあたる「目的自体の定式」や「目的の王国の定式」と呼ばれる義務倫理学における道徳原理の定式のあり方においては、
「自分の人格」と「他者の人格」、そして、「目的」と「手段」といった概念が互いに関係しあうことによって、義務倫理学における道徳原理のあり方がより具体的な形で提示されていくことになると考えられることになるのですが、
こうしたカントの義務倫理学において道徳的な行為として人間に要請される具体的な義務のあり方は、詳しくは次回の記事でまた改めて考察していくように、
今回取り上げた『実践理性批判』の出版にさかのぼること3年前に書かれた1785年出版のカントの著作である『人倫の形而上学の基礎づけ』において、
完全義務と不完全義務と呼ばれる二つの義務のあり方へと分けられていく形で詳しく説明されていくことになるのです。
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次回記事:完全義務と不完全義務の違いとは?カントの倫理学における自己と他者の人格に対する二種類の義務のあり方の具体例
前回記事:目的の王国とは何か?カントの倫理学における「目的の王国の定式」に合致する道徳的に正しい意志に基づく行為の具体例
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