「汝の人格と他者の人格の内なる人間性を手段としてのみではなく常に同時に目的として扱うように行為せよ」カント倫理学における道徳原理の第二の定式

前回の記事で書いたように、カントの倫理学における定言命法に基づく普遍的な道徳原理のあり方は、

カントの主著の内の一つである『実践理性批判』の比較的冒頭部分に近い箇所にあたる第一部第一篇の第一章第七節において、

「汝の意志の格率が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当するように行為せよ」

という第一の定式の形で提示されていくことになるのですが、

こうしたカントの倫理学における普遍的な道徳原理のあり方は、その後、『実践理性批判』の中盤の議論にあたる第一部第一篇の第三章の部分において、

「汝(なんじ)の人格と他者の人格の内なる人間性を手段としてのみではなく常に同時に目的として扱うように行為せよ」

という第二の定式に基づく形としても提示されていくことになります。

そして、

カントの『実践理性批判』においては、こうした定言命法に基づく普遍的な道徳原理についての第二の定式のあり方は、具体的には以下のような記述のなかで詳しく説明されていくことになります。

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カント倫理学における道徳原理の第二の定式のあり方を説明する『実践理性批判』における具体的な記述

・・・

人間の存在は確かに神聖どころではないが、しかし、彼の人格の内に存在する人間性は、彼にとって神聖でなければならない

あらゆる被造物のなかで、われわれが自らの思うままに処理することができる一切のものは、ただ手段としてのみ利用されうる

しかし、人間の存在だけは、また人間と共に他のあらゆる理性的な被創造者も、目的自体であり、真の意味において人間は道徳的法則の主体となる。

そして、この主体は、彼の自由による自律のゆえに神聖なのである。…

それゆえ、理性的存在者は、決して単に手段としてのみ利用されるべきものではなく、同時にそれ自身が目的として扱われなければならないのである。

(カント『実践理性批判』波多野精一・宮本和吉・篠田英雄訳、岩波文庫、181ページ参照)

・・・

このように、

上記の『実践理性批判』の記述においては、

まず、肉体を持って自らの欲望のままに動きまわり、時には犯罪などの悪事にも手を染めてしまいうるような総体的な意味における人間の存在ではなく

そうした人間の存在の内に含まれている理性的な存在者として位置づけられる限りにおける人間性の理念の存在が道徳的法則の主体となる神聖なる存在として位置づけられていると考えられることになります。

そして、

こうした理性的な存在者として位置づけられる限りにける人間としての人間性の理念の存在は、それが普遍的な道徳法則の主体となる神聖な存在であるという意味において、

そうした理性的な存在者としての人間は、決して単に手段としてのみ利用されるべきではなく目的として互いに最大限に尊重されていくべきであるということが語られていると考えられることになるのです。

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「汝の人格と他者の人格の内なる人間性を手段としてのみではなく常に同時に目的として扱うように行為せよ」という言葉の具体的な意味

以上のように、

こうしたカントの『実践理性批判』における普遍的な道徳原理のあり方を定義づける第二の定式として位置づけられている

「汝の人格と他者の人格の内なる人間性を手段としてのみではなく常に同時に目的として扱うように行為せよ」

という言葉は、

自己と他者の人格の内にある理性的な存在者としての人間性の理念の存在は、それが普遍的な道徳法則の主体となる神聖な存在であるという意味において、

単に手段としてのみ利用されるのではなく目的としても互いに最大限に尊重されていくべき存在であるといった意味を表す言葉として解釈していくことができると考えられることになります。

そして、より具体的に言うならば

そうした理性的な存在者としての人間がただ手段としてのみ利用されて搾取されてしまうことによって一人一人の人間における人格の尊厳が傷つけられてしまうことを避け

むしろ、互いに相手の人間性を最大限に尊重し合うことによって、その人の心の内なる人間性が十分に発揮されるように互いに助け合っていくという生き方こそが、

こうしたカントの倫理学における普遍的な道徳原理のあり方を示す第二の定式において求められている道徳的な生き方あるいは善なる生き方であると捉えることができると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:格率と道徳法則の違いとは?カントの倫理学における主観的な行動原理と客観的な倫理規則としての両者の区別

前回記事:「汝の意志の格率が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当するように行為せよ」カント倫理学における道徳原理の第一の定式

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