「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」の本当の意味とは?①漫画版の『風の谷のナウシカ』における二か所の記述
前回書いたように、「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という『風の谷のナウシカ』における最も印象的なセリフは、
映画版の原作にあたる漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、風の谷の大ババさまではなく、土鬼(ドルク)の一部族にあたるマニ族の僧正の言葉として語られていくことになるのですが、
より正確には、漫画版では、上記の「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という言葉は、以下のような二か所の記述へと分けられる形で言及がなされていくことになります。
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という言葉が語られている漫画版の『風の谷のナウシカ』における二か所の記述
まず、前回の記事でも書いたように、
漫画版の『風の谷のナウシカ』において、はじめに「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という言葉が語られるのは、
自らの身を挺して王蟲の子を救ったナウシカが、王蟲たちの長老である森のような姿をした王蟲の触手によって抱え上げられることによって、腐海の森の王である王蟲との間に精神の交流を結ぶ場面であると考えられることになるのですが、
その場面における前後のセリフの流れを改めて引用しておくと、
そこでは、王蟲のことを神聖な生き物として崇めているマニ族の僧正と、その従者の少女であるケチャとの間に交わされる以下のような会話の流れの中で、そうした一連の言葉が語られていくことになります。
・・・
マニ族の僧正「いたわりと友愛がわしの胸をしめつける…王蟲が心をひらいておるんじゃ…。ケチャよ。あの子が王蟲の中でどのような姿をしているのか、わしの盲(めしい)た眼のかわりに見ておくれ」
ケチャ「遠くてよく見えない…青い服を着ているわ。たしかあの服はババさまの…でも…色がちがう……。王蟲の血を浴びたようにまっ青だわ。触手が風になびく金色(こんじき)の草のよう……。あの子、まるで黄昏(たそがれ)の草原を歩いているみたい……。」
僧正「その者青き衣(ころも)をまといて金色(こんじき)の野に降りたつべし」
(『風の谷のナウシカ』第二巻、79ページ。)
・・・
そして、その後、
このマニ族の僧正は、神聖な生き物である王蟲を戦争の道具として利用し、その生命を弄ぶことによって亡国を招こうとしている土鬼の皇弟を自らの命を賭して諫めようと試みることになるのですが、
そうしたマニ族の僧正が自らの死に際して語る、部族の民へと向けられた言葉のなかで、再び、冒頭で挙げた「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という言葉が、以下のような形で、語り直されていくことになります。
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「聞け、マニの者たち、わが一族よ。そなたたちは今よりさらに辛苦の中で生きるであろう。すでに帰るべき国を失い、多くの肉親を殺され、強権の恣意(しい)の下に流浪をつづけねばならん。だがひるむな。困苦に耐えよ。屈辱の元でも子を生み育てよ。」…
「古き予言はまことであった……そなたたちを青き清浄の地へみちびく者があらわれたのだ。木々を愛で、虫と語り、風をまねく鳥の人。」
(わしの盲(めしい)た目にありありと見える)
「その者青き衣(ころも)をまといて金色(こんじき)の野に降りたつべし」
「失われた大地との絆(きずな)をむすばん」
「その者の名はまだあかせぬ。時みつればみなの前にあらわれよう。」
(『風の谷のナウシカ』第二巻、125~127ページ。)
人類全体を青き清浄の地へ導く救世主としての青き衣の人
以上のように、
こうした漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、上記の二つの場面へと分けられることによって、「その者青き衣をまといて金色の野に降りたつべし」という言葉がより重みが持たされている形で語り直されていると考えられることになります。
そして、こうした一連の場面においては、
古き言い伝えにおいて予言されていた伝説上の存在である青き衣の人に、この物語の主人公であるナウシカの姿が重ねられたうえで、
そうした青き衣の人としてのナウシカは、風の谷の人々だけではなく、異教徒であるマニ族の人々なども含めた、現在の世界において苦難のなかで生きているすべての人々を救済する、人類全体を青き清浄の地へ導く救世主として位置づけられていると考えられることになるのです。
・・・
しかし、その一方で、
詳しくはまた次回改めて詳しく考察していくように、
こうした漫画版の『風の谷のナウシカ』においては、その後、物語が終盤へと向かっていくなかで、腐海の森が生まれた本当の理由が明らかにされていくにつれて、
そうした人々を青き清浄の地へ導く救世主としての青き衣の人の存在は、まったく別の観点からも捉え直されていくことになります。
・・・
次回記事:森の人が語る人々を導くが救いはしない青き衣の人の姿、「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」の本当の意味②
前回記事:映画版と漫画版の『風の谷のナウシカ』における「その者青き衣をまといて金色の野に降りたつべし」というセリフの違いとは?
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