深層心理学の七つの分類とは?ラカンの構造主義的心理学からヒルマンの元型的心理学までの現代心理学の系譜、深層心理学とは何か?⑫
前回までの記事で書いてきたように、深層心理学の分野における代表的な学派としては、一般的に、
フロイトの精神分析学と、ユングの分析心理学、そしてアドラーの個人心理学という全部で三つの心理学の学派の名が挙げられることになると考えられるのですが、
こうした深層心理学と呼ばれる学問分野のあり方についてさらに深く掘り下げていくと、そこにはさらに、
ラカンの構造主義的心理学やエリクソンの自我心理学、マズローの人間性心理学やヒルマンの元型的心理学といった現代における心理学の潮流のあり方についても、
こうした深層心理学と呼ばれる学問分野のうちへと分類していくことができると考えられることになります。
深層心理学に分類される七つの心理学理論の具体的な特徴とは?
まず、冒頭で挙げた深層心理学における主要な三つの学派について改めて一言ずつでまとめて説明していくと、詳しくは前回の記事で書いたように、
フロイトの精神分析学は、オーストリアの精神科医であるジークムント・フロイト(Sigmund Freud、1856年~1939年)によって創始された心理学の学派であり、
そこでは、人間の心のあり方が意識と前意識と無意識の三層構造において捉えられたうえで、自由連想法や夢分析を通じた無意識の領域の探究と、人間の生の原動力となる根源的な性的なエネルギーとしてのリビドーの概念を中心とした心理学理論が展開されていくことになります。
そして、その次に挙げた
ユングの分析心理学は、スイスの心理学者および精神科医であったカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung、1875年~1961年)によって創始された心理学の学派であり、
そこでは、人間の心の個人的無意識の領域よりもさらに深い階層にあるとされる人類全体に共通する普遍的な無意識の領域である集合的無意識の存在と、その内にある元型と呼ばれる個人の経験を超越した普遍的なイメージや観念の存在の存在が見いだされていくことになります。
また、その次の
アドラーの個人心理学は、オーストリア出身の精神科医であるアルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870年~1937年)によって創始された心理学の学派であり、
そこでは、個人としての人間の心の内に生じる劣等感と、そうした劣等感を自ら克服しようとする補償作用のあり方などにおいてみられる個人の心の内部における自我を中心とした主体的な人格形成のあり方が重視された心理学理論が展開されていくことになります。
・・・
それに対して、
時代が20世紀の後半へと入っていくと、こうした深層心理学の分野においても新たな潮流が見られるようになっていくことになるのですが、
そのような中、新たに生まれていったのがラカンの構造主義的心理学やエリクソンの自我心理学、マズローの人間性心理学やヒルマンの元型的心理学といった心理学の学派や潮流のあり方であると考えられることになります。
このうち、はじめに挙げた
ラカンの構造主義的心理学とは、現代思想における構造主義の思想などにも大きな影響を与えたフランスの哲学者にして精神分析家でもあるジャック・ラカン(Jacques Lacan、1901年~1981年)によって開かれていった心理学の潮流であり、
そこでは、フロイトの精神分析学が構造主義的に発展していくことによって、言語活動によって構造化された存在としての無意識の構造の探究が進められていくことになります。
そして、その次に挙げた
エリクソンの自我心理学とは、アメリカ合衆国の精神分析家である発達心理学者でもあるエリク・エリクソン(Erik Erikson、1902年~1994年)によって大きく発展していった心理学の学派であり、
自我心理学という学派自体は、精神分析学の祖であるジークムント・フロイトの娘アンナ・フロイトによって創始さることになるのですが、
エリクソンは、そうした自我心理学における人間の心の発達のあり方を対人関係などを含めた社会的側面から新たに捉え直していくことによって、
乳児期・幼児前期・幼児後期・学童期・青年期・成人期・壮年期・老年期という八つの段階の自我の心理社会的な発達段階とそれぞれの段階における発達課題のあり方などで知られるライフサイクルと呼ばれる発達理論を提唱していくことになるのです。
そして、その次の
マズローの人間性心理学とは、アメリカの心理学者であるアブラハム・ハロルド・マズロー(Abraham Harold Maslow、1908年~1970年)によって提唱された心理学の潮流であり、
マズローは、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認の欲求、そしてそれらの欲求の最上位の階層に位置する自己実現の欲求というピラミッド型に構成された欲求の五段階説などと呼ばれる自己実現理論で有名な心理学者ですが、
その彼が提唱した人間性心理学と呼ばれる心理学の潮流においては、主体性や創造性や自己実現といった人間の心の肯定的側面が重視された心理学理論が展開されていくことになります。
そして、最後に挙げた
ヒルマンの元型的心理学とは、アメリカの心理学者であるジェイムズ・ヒルマン(James Hillman、1926年~2011年)によって創設された心理学の学派であり、
そこでは、ユングの分析心理学においてすでに見いだされた集合的無意識のうちに存在する元型と呼ばれる人類全体に共通する普遍的なイメージや観念のあり方が神話的・多神教的なイメージとして捉え直されていくなかで、
そうした神話的・多神教的なイメージとしての元型の根本にある魂の多様なあり方についての探究が進められていくことになるのです。
・・・
以上のように、
フロイトそしてユングやアドラーといった19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍した心理学者たちが築き上げた深層心理学の系譜は、
その後、ラカンやエリクソン、マズローやヒルマンといった20世紀後半の心理学者や哲学者たちが唱えた現代における心理学理論のうちへと引き継がれていくことになったと考えられることになります。
そして、広義の意味においては、こうした
フロイトの精神分析学
ユングの分析心理学
アドラーの個人心理学
ラカンの構造主義的心理学
エリクソンの自我心理学
マズローの人間性心理学
ヒルマンの元型的心理学
といった七つの心理学の学派に代表されるような多種多様な心理学のあり方が、こうした深層心理学と呼ばれる学問分野のうちに分類されることになると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:心理カウンセリングと催眠療法と精神分析の違いとは?三つの心理学的な治療法における治療者側の主導的な関与のあり方の違い
前回記事:深層心理学の三つの分類とは?フロイトとユングとアドラーの心理学理論の違いのまとめ、深層心理学とは何か?⑪
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