アリスタルコスによる太陽中心説としての地動説の提唱と月の大きさと太陽の大きさや地球との間の距離についての具体的な推定、地動説とは何か?②
前回の記事で書いたように、古代ギリシアにおいて、学問的体系を備えた宇宙論としての地動説をはじめて提唱した人物としては、
生ける火としてのヘスティアを中心として、地球や太陽や月あるいはそのほかの惑星や星々がその周囲を回転しているという変則的な地動説を説いた哲学者であるピロラオスの名が挙げられることになるのですが、
それに対して、現代の天文学へと通じる太陽中心説としての地動説を最初に唱えた人物の名としては、古代ギリシアの天文学者であるアリスタルコスの名を挙げることができると考えられることになります。
古代ギリシアの天文学者アリスタルコスによる太陽中心説としての地動説
アリスタルコス(Aristarchos)は、紀元前3世紀の時代に生きていた古代ギリシアのサモス島出身の天文学者にして数学者にもあたる人物でもあり、
冒頭でも述べたように、彼が提唱した天文学理論においては、
太陽が天球の中心にあり、人間が住んでいる地球や月やそのほかの惑星や星々は、太陽の周囲を回転していると捉えることによって地上から見える天体の運行のあり方を説明していく太陽中心説としての地動説が提唱されていくことになります。
そして、こうした地動説における彼の業績は、それだけにとどまらず、
アリスタルコスは、こうした太陽中心説としての地動説の理論と、実際に天体の運行を観測することによって得られた観察データから、
太陽は地球よりもはるかに大きい天体であると推定することによって、そうした太陽の地上から観測された年周運動は地球が太陽の周りを回る公転運動によってもたらされているということを明らかにし、
それに対して、月や惑星以外の星々、すなわち、太陽以外の恒星については、それは太陽と同じくらい大きい光輝く天体が無限に近いほど遠くに位置するために、地上からは極めて微細な点として観測されることになると考えたうえで、
そうした恒星の日周運動は、地球が自分の重心を通る軸を中心として自ら回転する地球自身の自転運動によって引き起こされている現象であるということまで明らかにしていくことになります。
つまり、
こうしたアリスタルコスの地動説における天文学理論においては、太陽中心説としての地動説の考え方が学問的な形ではじめて提唱されているだけではなく、
そこでは、地球における自転と公転といった天文学的な運動のあり方や、太陽や星々の大きさ、さらには、そうしたそれぞれの天体と地球との間の距離といった現代の天文学の基礎となる数多くの概念がすでに見いだされていたと考えられることになるのです。
アリスタルコスによる月の大きさと太陽の大きさおよび地球との間の距離についての具体的な推定
ちなみに、こうしたアリスタルコスの天文学理論においては、前述したように、太陽や恒星といった天体の大きさや地球との間の距離についての具体的な推定も行われていて、
例えば、アリスタルコスは、
月が地球の影の中に入って暗くなって欠けていく月食の際の月の運行のあり方の観測通じて、地球の直径は月の直径の約3倍であると見積もることになるのですが、
現在の天文学においては、実際の地球の直径は12,742 km、それに対して、月の直径は3,474 kmであるということが分かっていて、その実際の長さの違いは、
12,742÷3,474≒3.67倍
ということになるので、こうしたアリスタルコスによる月の大きさの推定値は、かなり正確性の高い数値であったと考えられることになります。
また、アリスタルコスは、月と同様に、太陽についてもその大きさの推定を試みていて、
そこでは、月が上弦または下弦の時期にあるときの体陽と月と地球の位置関係において成立する直角三角形においてみられる地球から観測した際の月と太陽の角度から太陽の大きさと地球との間の距離の推定が行っていくことになり、
結論としてアリスタルコスは、太陽の大きさは月の20倍大きく、太陽と地球の距離は月と地球の距離の20倍遠いという推定を導き出すことになります。
実際の太陽の直径は1,391,016 kmであり、これを先ほど提示した月の直径である3,474 kmと比べると、その実際の長さの違いは、
1,391,016÷3,474≒400倍
となり、地球との間の距離についても、実際における太陽と地球の距離は149,600,000 kmであるのに対して、月と地球との距離は384,400 kmであり、その距離の違いを比べると、
149,600,000÷384,400≒390倍
となり、どちらの数値もアリスタルコスが推定した20倍という数値からはだいぶ外れていると考えられることになるのですが、
その一方で、こうした実際の推定値における誤差は、当時の古代ギリシアにおける天体観測に用いられていた観測装置の精度の低さに起因していると考えられ、
現代の観測技術によって得られた正しい観測データからは、前述したアリスタルコスが提示したものと同様の推論を用いることによって正しい推定値を得られるということが確認されているので、
そういった意味では、
こうした太陽の大きさと地球との距離の推定においても、アリスタルコスの天文学理論は、理論的には正しい推論を導き出すことも成功していたと考えられることになるのです。
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以上のように、
古代ギリシアの天文学者であったアリスタルコスによって提唱された太陽中心説としての地動説の天文学理論においては、
すでに、地球における自転と公転の運動や、月の大きさと太陽の大きさあるいはそれぞれの天体の地球との間の距離についての具体的な推定といった現代の天文学の基礎となる数多くの概念がすでに発見されていたと考えられることになります。
しかし、その一方で、
こうしたアリスタルコスによって完成された古代ギリシアにおける地動説の学説が、現実における天体の運行を整合的に説明する科学理論として一般的に受け入れられていくようになるまでには、
紀元前の時代から紀元後の時代へと入り、古代から中世を経て近代へと至るまでの1800年にもわたる時の流れをさらに経ていくことが必要とされることになるのです。
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次回記事:コペルニクスによる地動説の再発見とその死によって切り拓かれた近代ヨーロッパの科学革命への道、地動説とは何か?③
前回記事:世界で最初に地動説を唱えた人物とは?ピロラオスによる変則的な地動説の学説とヘラクレイトスにおける生ける火の思想、地動説とは何か?①
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