世界で最初に地動説を唱えた人物とは?ピロラオスによる変則的な地動説の学説とヘラクレイトスにおける生ける火の思想、地動説とは何か?①
地動説とは、人間が住んでいる地球が宇宙の中心にあって太陽を含むそのほかの天体たちがその周りをまわっているとする天動説の対義語にあたる言葉であり、
それは、通常の意味においては、
地球ではなく太陽の方が宇宙の中心にあって地球やほかの星々がその周りをまわっているとする天文学における太陽中心説のことを意味する言葉であると考えられることになります。
そして、こうした天文学理論としての地動説の学説は、天動説の場合と同じようにその起源を古代ギリシアにおける数学的あるいは哲学的な議論のうちに求めることができると考えられることになるのですが、
そうした古代ギリシアにおける黎明期の地動説の思想の展開の中では、上述したような現在の天文学の基礎理論となっている通常の意味における地動説のあり方とは少し異なる特徴を持った一風変わった地動説の理論が展開されていくことになります。
古代ギリシアの哲学者ピロラオスによる変則的な地動説の提唱
冒頭でも述べたように、学問的な体系として整備された地動説の起源は、古代ギリシアにおける哲学思想や数学的な天文学理論のうちに求めることができると考えられることになるのですが、
そのなかでも、世界ではじめて地動説と呼びうるような宇宙論を提唱した人物としては、紀元前5世紀の時代に生きていた古代ギリシアの哲学者および数学者であったピロラオス(Philolaos)の名を挙げることができると考えられることになります。
ピロラオスは、古代ギリシアにおいて数秘主義的な思想に基づくある種の宗教的学術集団を形成していたピタゴラス教団の一員にもあたる人物であり、
彼は、師であるピタゴラスの教えに基づいて、数学的比例関係によって成り立っているとされる宇宙全体の調和と秩序の構造を哲学的思想と数学的思考の観点から明らかにしていこうと試みていくことになります。
そして、
そうしたピロラオスによって打ち立てたられた哲学的思想に基づく新たな宇宙論においては、
天球の中心には地球ではなくヘスティア(hestia、※日本語でいうところの炉(ろ)や竈(かまど))あるいは中心火と呼ばれる生ける火が存在するとされたうえで、
こうした宇宙原理であると同時に生命原理でもある中心火の周りに、地球や太陽や月、さらにはそのほかの惑星や星々が並んで回転することによって、天体の運行と宇宙全体における調和と秩序が形づくられていくことになるとする変則的な地動説の学説が展開されていくことになるのです。
ヘラクレイトスの自然哲学における生ける火の思想とピロラオスの地動説との関係
ちなみに、
こうしたピロラオスの地動説の中心概念となっている生ける火としての中心火の思想は、
彼の師であるピタゴラスと同時代の紀元前6世紀の古代ギリシアの哲学者であったヘラクレイトスの哲学思想のうちにおいてすでに見いだすことができる概念でもあり、
古代ギリシアを代表する自然哲学者の一人であったヘラクレイトスの哲学思想においては、具体的には以下のような形で宇宙の根源にある生ける火についての思想が語られていくことになります。
「この宇宙、万人にとって同一のものとしてあるこの世界は、神々が創ったものでもなければ、人の手によって造り上げられたものでもない。」
「それは、常に生き続ける火として、かつてあり、いまもあり、これからもまたあり続けるであろう。定量だけ燃え、定量だけ消えることを繰り返しながら。」
(ヘラクレイトス、断片30)
つまり、
こうしたヘラクレイトスの哲学思想においては、アルケー、すなわち、万物の始原は火であるとされたうえで、
宇宙全体がそうした生きる火を根源的な原理とした相互回帰的な秩序において成立しているという生命論的な宇宙観が示されていると考えられることになるのです。
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以上のように、
学問的な体系として整備された天文学的な学説としての地動説の起源は、
古代ギリシアの哲学者にして数学者でもあったピロラオスにおけるヘスティアや中心火と呼ばれる生ける火を中心として地球や太陽や月あるいはそのほかの惑星や星々がその周囲を回転していくという変則的な地動説の学説のうちに求めることができると考えられることになります。
そして、
こうしたピロラオスの地動説における生ける火の思想は、古代ギリシアの自然哲学者であったヘラクレイトスの宇宙観のうちにもそれと同様の思想を見いだしていくことができると考えられることになるのですが、
そういった意味では、
こうしたピロラオスによって世界ではじめて提唱された地動説の学説は、
彼の師であるピタゴラスにおける数学的な比例関係によって成り立つ秩序と調和に基づく宇宙観と、
ピタゴラスと同時代の古代ギリシア世界に生きていた自然哲学者であったヘラクレイトスにおける火を万物の始原とする生命論的な宇宙観という
両者の思想が合わさっていく中で形成されていった哲学的な理論と数学的な思考に基づく新たな天文学理論であったと捉えることができると考えられることになるのです。
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次回記事:アリスタルコスによる太陽中心説としての地動説の提唱と月の大きさと太陽の大きさや地球との間の距離についての具体的な推定、地動説とは何か?②
前回記事:天動説とはなにか?②アリストテレスからプトレマイオスそしてスコラ哲学へと至る古代から中世における天動説の系譜
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